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上原子正利さんのレビュー一覧

投稿者:上原子正利

3 件中 1 件~ 3 件を表示

紙の本

素人だからといってナメてはいけない(『あなたは数学者』の関連書として)

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、数学の専門家がワーキングマザーのための掲示板で 「先生」 として出した問題に対し、 「生徒」 である掲示板の住人たちがいろいろ考えながら答を作って行く過程を記したものだ。出される問題は、中学数学を越えた特殊な知識を要求しない、誰にでも読めるものだが、学校で習う 「数学」 とは違う種類の問題で、誰にでも答えられるものではない。ところが、掲示板の住人たちはそういう問題を ( 先生の助けは借りつつも ) 次々と解いていってしまう。例えば 「2のπ乗を定義しよう」 。 この問題に対し、高校の数 I 以来数学をやっていない人が、妥当な論理を自分で考え出し、平方根しか取れない電卓だけを使って、小数点以下第2位までの近似値を計算してしまうのだ ( 私なら考えつかないだろう ) 。


これも『あなたは数学者』と同じように数学での遊び方を示す本なのだが、『あなたは』 が数学を俯瞰するような感じなのに対し、こちらは数学世界の地面の上を歩きまわっているような感じだ。その結果、『あなたは』 は数学に対する抽象度の高い全体像を捉える一方、詳細を捨てる代償としてしきいが幾分高くなっているが、それに対してこちらは、統一的な視点をさほど明示的には与えないが、引き換えにしきいの低さとわかりやすさを手に入れる事に成功している。


本書の大きな勝因は、真剣に問題に取り組む非専門家……というより、少し失礼な表現だが、「素人」 というべき人々が何人もかかわっている事だろう。専門家だけでこれだけのものはなかなか書けない。その意味で、本書はあの 『フーリエの冒険』 に近い雰囲気を持つ。おもしろい本だからすすめるというのもあるが、それだけでなく、理工系分野の専門家で、学生の教育や非専門家への説明にかかわる人は、自分の相手の潜在的な能力がどのくらいなのか理解するために読むべきであろう。素人だからといってナメてはいけない。



(上原子 正利/bk1 科学書レビュアー、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

【関連書】
David Wells 『あなたは数学者』

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紙の本

紙の本なぜ牛は狂ったのか

2002/11/18 17:12

狂牛病をその研究の歴史から冷静に説く優れた一冊

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本書の初版は、フランスで狂牛病パニックが頂点に達していた2000年終わり頃に出版されたという。どういう意図で書かれたか、何が書かれているかは、著者によるプロローグのこの短かい文章に集約されている。

   パニックに陥らないためには、自分の耳に届く不安に満ちた情報を
   理性的に判断する必要がある。すなわち、いささか謎に満ちたこの
   “敵”について、もう少し知識を深め、この病気がどこから始まっ
   たのか、どのように感染するのかを理解すればいい。病気の起源と
   発展についての追及は、まるで推理小説のような物語が現れる。そ
   して、その物語の始まりは、はるかな昔へとさかのぼることになる。

著者の意図は、パニックに陥らず冷静な判断を下すために必要な知識を読者に提供する事だが、その手段として、この病気と人類が出会ってから今日までの科学上の発見と理解の物語を描くという方法を取っている。この方法が成功しているため、本書は非常におもしろいものになっている。仮に狂牛病パニックが無かったとしても、本書は読むに値するものだったろう。


BSE、いわゆる狂牛病は、突然現れた謎の病原体によるものではなく、18世紀から観察されていた羊の病気、スクレイピーの病原体と同種のものが原因である。この病原体プリオンは、生物学の常識に逆らい、数世紀にわたり研究者たちの探索の手をすり抜けてきた経緯を持つ。科学の探究物語の素材として実に魅力的であり、著者はその物語に過度の演出を加えず冷静に描いている。


最初に羊のこの病気が報告され始めたのは18世紀のイギリスだが、当然ながら原因がわからなかった。遺伝病か伝染病かという20世紀まで続く対立はこの時点からあったが、それだけでなく、当時は今日より遥かに科学が未発達だったため、おかしな説も飛び交っていたという (性的フラストレーションが原因という説まで) 。やがてパスツールが登場し、彼自身はスクレイピーを研究しなかったが、炭疽や狂犬病の研究を通じて、今日に続く科学的な研究手法を打ち立てる。彼の死の3年後、ベノワがスクレイピーに対して「ほんとうの意味で理にかなった手法で研究を進めた最初の人物」となり、顕微鏡で神経組織の病変を初めて観察する。それが19世紀の終わりの事だ。


20世紀に入ってから、クロイツフェルトとヤコブがそれぞれスクレイピー研究とは独立に、人間での同様の神経病を発見、クロイツフェルト・ヤコブ病 (CJD) と呼ばれるようになる (後にそれらの症例の多くが今日 CJD と呼ばれるものではないと分かるのだが) 。並行してスクレイピーに関する知識も蓄積される一方、1957年、ニューギニアで食人習慣から伝染したヒトの神経病クールーが医学界の知る所となり、これがスクレイピーと CJD に関連付けられ、研究が加速。その後、分子生物学のセントラル・ドグマに反するようにまで見えた謎のスクレイピー病原体の正体が捉えられ、そして、BSE の流行と狂牛病パニックに至る。


この歴史に対する著者の語り口の冷静さは、今日の状況の説明に対しても変わらない。著者は現在何がわかっていて何がわかっていないかを明確にし、軽率な判断をいさめる。この姿勢は最後まで崩れない。著者はエピローグにおいて、学問研究におけるドグマの役割、一見重要度が低いテーマでも良質な研究を続ける事の重要性といった、狂牛病よりも遥かに一般的な話題を、研究の歴史とからめて自然に述べている。本書が単なる狂牛病パニックに対応するための解説書ではないことがわかるだろう。このような本を書く事は、問題に対する深い理解だけでなく、高度なバランス感覚も併せ持つ人物だけに可能なことのように思う。派手さはないが、優れた一冊だ。


(上原子 正利 / bk1 科学書レビュアー、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

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紙の本

紙の本決定版雪崩学

2002/03/02 01:12

まだ読んでる途中なんですが、『凍る体』識者書評に関連して

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 低体温症に陥る状況の1つとして、雪崩による雪への埋没がある。雪崩に関する知識をまとめた本書は、登山者に限らず、スキーヤーやスノーボーダーも、自衛のために読んでおくべきだ。『凍る体』(山と渓谷社)著者のケースも紹介されている。

 私はスノーボードが好きなので、その関係の雑誌も眺めるのだが、そこには「カナダのウィスラーでは日本人が最低限の道具も持たずにバックカントリーに入って遭難するケースが増えている」という話などが紹介されている。

 本書を読めば、雪崩に関する知識を持たないまま山に入る事が(たとえゲレンデのコースを少し外れるだけでも)いかに恐しいことか思い知らされるだろう。誰でも「仲間の目の前で雪煙に消える」ような目には逢いたくないはずだ。

 もしあなたの周りに、雪崩の正確な知識を持っていないが圧雪バーンに満足もできないスキーヤーやスノーボーダーがいるなら、本書の事を知らせてあげて欲しい。

 なお、序文にはこうある。「読者の皆さんに、ひとつだけお願いしたいことがある。それは、各人の頭の中にある雪崩の断片的な古い知識を、一度すべて捨て去っていただくことだ」。経験があるからといって、それを過信してはいけないようだ。

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