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くまさんのレビュー一覧

投稿者:くま

1 件中 1 件~ 1 件を表示

いくどとなくページを開きたくなる、読み捨てることのできないマンガです。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

極度にストイックな描線が、登場人物の輪郭をクールに浮き出させ、空白の背景に取りつく島のない透明感を与えています。登場人物はみな感情表現に乏しく描かれ(とりわけ目許の描写。終始伏し目がちな視線、瞳の省略、口許のみのカット)、背景は何も描かれないか、適格なパースで客観的によそよそしく捉えられています(学校や駅のホームなど建築物の直線)。このような世界において、読者の視線は、登場人物のクールな外観によって感情移入を拒まれてしまいます。それでも読者は感情の繋留点を求めて、あてどなくコマの上を彷徨うものの、背景の清澄さはなおのこと安易な感情移入を許しはしません。
感情移入とは別な何かによって読まれることを、このマンガは要求しているようです。/女子校に通う主人公の桐島は同級生の遠藤のことが「好き」です。しかし、その「好き」は相手とどう接すべきなのか明確なイメージを持ちえません。桐島は、レズビアン的な関係を望んではいないし(むしろ遠藤が男性とつき合うことを認めてすらいる)、友情をわかち持つことぐらいで満足できるわけでもない(遠藤という存在そのものに近づきたいがため桐島は興味のない男性とセックスをし、逆に遠藤の交際相手である男性に嫉妬を覚えもする)。恋愛における情熱からも、友だちとの親密さからもほど遠い「好き」。かといって桐島は、この思いのとりとめのなさについて、悩み苦しむわけでもありません。淡々と、この「好き」という思いにしたがって、状況に応じて遠藤とキスを重ねたり、互いの行動がすれ違ったりするだけです。既成のいかなる感情にも落ち着くことの出来ない、桐島の思いは、当然のことながら読者の感情移入に着地点を示唆しはしません。/感情移入を誘う要素が、このマンガにまったく無いというわけではありません。むしろ、冒頭を始め、物語の節目ごとに、ノスタルジックな桐島のモノローグが挿入されることで、誰しもが通過する思春期特有の痛々しい繊細さが、マンガ全体の基調とすらなっています。ところが、モノローグに身を寄り添わせて共感し合おうと読み込んでいっても、その先に控えているのは、桐島のとりとめのない思いばかりなのです。共感しようとしても、すんでのところではぐらかされてしまうのです。実はこのアンヴィヴァレンスな部分が、魚喃の魅力なのではないかと思われます。このマンガは魚喃の自伝的作品でもあるわけですが、おそらく、魚喃は彼女自身、過去の自分(桐島)の思い、そして、遠藤を含め、過去の出来事すべてについて、完全に理解していない、あるいは出来ないことを知ってしまっているのでしょう。現在の彼女から過去の彼女へ、短いモノローグによって解釈めいたものを散りばめはするものの、それはあくまで仮そめのものに過ぎません。たとえ、それが過去の時点での現在時制で記されていてもです。桐島が初めて遠藤にその胸中をうち明けるシーンで、次のようなモノローグが黒一色のコマにそっと挿入されます。「それは発作に近かった/何を言っているのか/自分の声をきいて/初めて気がついた」そして次のコマで、桐島のうつ伏した姿に吹きだしが添えられます。「あたし/遠藤のことが/好きなんよ」/嫉妬や憧れ、愛おしさ。様々な思いを秘めながらも、その一切と距離を保ちながら浮かび上がってくる、桐島の「好き」。おそらくそれは、魚喃が用いるミニマルな描線の賭け金でもあるでしょう。切り詰められた描線は、既成のイメージや感情を遠ざけつつ、まるで判じ絵のように人物を背景から浮き出させます。ややもすると地と図が溶解してしまいそうな画面のただなかに、奇跡の如く人物の輪郭線が浮上するまさにその地点で、読者は、桐島の「好き」を奇跡のように知覚するのです。

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