こてつさんのレビュー一覧
投稿者:こてつ
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紙の本ハンニバル 上巻
2001/03/23 19:41
勧善懲悪
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ジョディ・フォスターがあまりに醜悪なストーリーに出演依頼を断った、などとまことしやかに噂されたりした本作。映画のコマーシャルでもスリル、恐怖、怪演が表に出されている気がするけれども、私はむしろこの作品の一番の見所は何より確かな構成力によってテンポよく物語を読者に「見せる」ストーリー展開であると思う。
私の中ではスターリングはジョディフォスターの顔をして、冒頭の銃撃戦、それをきっかけとして追い込まれる窮地、レクターの足跡を辿り、ヴァージャー邸へと乗り込む、そして衝撃的なラストシーン、その一つ一つの真剣な表情が心地よいテンポでくるくると目の前を交錯する。
この物語は勧善懲悪である。そう感じた。レクターの幾多の殺人、それらは贖われることがなかったのに。おそらくそれは、彼の行為が「悪」と呼びえるものを超越しているからなのかもしれない。だから私には、それ以外の彼の行為とは比較にならないせこくて小さな悪、それらに対して感じていた嫌悪感が全て解消されたとき、勧善懲悪が達成されたと感じたのかもしれない。
「悪」を超越した行為。それに対しては物語を読み終えたあとにも、違和感が残る。それはレクターという人物のイメージとともに心の中に奇妙な感覚を呼び起こす。テンポのよいストーリー展開と小気味よい勧善懲悪、そしてその上でなお残る違和感。そのようなアンビバレントな読後感を残す本書は、近頃まれに見る傑作だと思うのである。
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