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momoさんのレビュー一覧

投稿者:momo

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紙の本

紙の本ブレンダと呼ばれた少年

2001/04/02 22:12

事故でペニスを失ったために睾丸まで切除され、女として育てられた赤ん坊の物語。まったく脚色のない「実話」だというところが何より恐ろしい。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「ブレンダ」は正常な男の子として生まれながら、性転換手術を施され、女として育てられた。きっかけは当時のアメリカで赤ん坊によく実施されていた包茎手術だった。赤ん坊の包茎はほとんどの場合、成長とともに自然になおる。「ブレンダ」は、今からみれば必要のない手術をされたあげく、電気メスの不具合(もしくは操作ミス)から、ペニスを焼き切られてしまう。一緒に手術を受けるはずだった一卵性双生児の弟は、兄の事故により手術を見合わせることとなり、放置しておいたところ、包茎は自然になおってしまった。これだけでも、親の無念いかばかりか、と思わせるが、事はそれだけでは終わらなかった。性科学の世界的権威マネー博士が、自説の正当性を裏づける実証例として「ブレンダ」を利用しはじめたからだ。
 博士の持論はこうだ。「生まれ落ちたとき、人間はみな白紙である。生物学上の男・女はほとんど意味がなく、赤ん坊は育て方ひとつで男の子にも女の子にも育て上げることができる。」こういう研究には、一卵性双生児は格好の素材となる。何の問題もない健康な男児に研究目的で性転換手術(ペニスと睾丸の切除)を施せば犯罪になるが、「ブレンダ」はすでにペニスを失っている。しかも一卵性双生児の片われだ。「ブレンダ」の出現は博士にとっては、同性の一卵性双生児を「男」と「女」に「育て分ける」願ってもないチャンスだったに違いない。あとはわらをも掴む思いの両親を説き伏せ、「性転換して女として生きるのがいちばん幸せ」と思い込ませるだけでよかった。
 こうして、生後7か月でペニスを失った「ブレンダ」は、2歳で睾丸を切除され、「男女の双子」の姉として育てられた。思春期になると女性ホルモンが投与され、体つきも女っぽくなった。総仕上げとして膣形成手術を施し、「幸せな結婚生活」が送れるようにしてやれば、マネー博士の理論は完璧に実証されるはずだった。
 勝手なもくろみが本人不在で進行するなか、ブレンダ自身は「男のDNAを持っている」ということすら知らされずに成長していた。「女の子として順調に育っている」というマネー博士の学会報告とはうらはらに、実際の「彼女」は、幼い頃から「ありのままの自分」を生きようとすればするほど周囲との摩擦が増大するという、つらく理不尽な日々を重ねていた。わけのわからない息苦しさ。「何かがちがう」感覚。深まる絶望感。それはまるで、狭い檻に押し込められた鳥が、外へ出たい一心で狂ったように柵に体当たりを繰り返すさまに似ていた。羽根は飛び散り、翼は折れ、血まみれになって倒れ伏す…ブレンダが膣形成手術を迫られたのは、たとえて言えばそのような時期だった。はじめて明かされる真実にブレンダは言葉を失う。子供のころからどうしてもなじめなかった「女の子」としての存在。すべての不可解が「天啓」のように解き明かされた。そして、ブレンダは決意する。男に戻ろう、と。まず、ペニス形成手術を受け、その後、結婚した。いま「彼」は、妻の連れ子をわが子としてかわいがる穏やかな毎日を送っている。
 それにしてもなんという残酷。なんという孤独な闘い。人間の尊厳をここまで踏みにじる行為が許されていいのだろうか。マネー博士はこのことによって罰せられることもなく、今ふたたび新たな「ブレンダ」を得て、悪夢の実証実験を繰り返している。

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