大野湯葉さんのレビュー一覧
投稿者:大野湯葉
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紙の本わたしの台所
2004/06/26 22:58
前を見て
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ダイエット中なのである。
運動に加え、食事制限。調子は良い。順調に減っている。
テレビ番組で料理や食事のシーンが映ると慌ててチャンネルを変える。
そんな時に、「私の台所」を手に取った。
台所なのだから、料理について書いてあるのだろう、
おいしいものがたくさん出てきたら私のダイエットは失敗に終わる。
どうしよう、どうしよう……。本棚へ戻すことはできず、一緒に帰宅した。
眠る間際の布団の中で、電車を待つ間と、電車に揺られながら、
高速バスの中で……さまざまなところでこの本を開いた。
エッセイ集だから、区切りの良いところで閉じることができる。
しかし、つい、次もそのまた次もと読んでしまう。
著者は女優である。すでに故人だが、
私は彼女の姿をテレビで拝見した覚えはない。
けれど、きっと何かのドラマで見ているのだろう。
この本を通して、彼女を知り、彼女を好きになった。
着物を普段着に、たすきがけをして掃除をする。
ぬか床を大事にしている、女優業で体験したこと
さまざまな食材のおいしい食べ方。食べごろ。
おいしいものを紹介されても私のダイエットは失敗していない。
栄養バランスを考えて、台所へ向かってみようという気にさせられた。
台所にはいろいろなものが詰まっている。
季節も噂話も食材も子どもも台所を通り過ぎて行く。
私もいらいらしたら、台所で菜っ葉を刻み、
調子を整えて、次へ進もうと思う。
紙の本壊れるほど近くにある心臓
2004/05/06 23:45
美しい者たち
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佐藤智加の文藝賞優秀賞『肉触』から数年、
彼女の受賞第一作を待っていた。
彼女の描く世界は、一歩間違うと私のストライクゾーンから外れる。
この手の小説は苦手なのだ。
美しい主人公の弱くて儚くてきれいな独特の世界。
このような小説によく見られるのは、
ふとした数行に垣間見えてしまうみっともない裏側の汚い自意識。
それが彼女の小説にはない。
『ZWAPPEN』の名で文藝に掲載された本作は
親の恋愛・結婚により出会った三人の兄弟の話だ。
美しい彼らはお互いを愛している。
その関係は「共依存の関係」だとも言える。
社会から離れ、週に一度の買い物以外は
誰にも会わずに三人きりで山の中の一軒家で過ごす彼ら。
過去の苦しみも寂しさも癒すことはできないけれど
三人でつくるバランスが生活を保っている。
他者の欲望が関わった時に三人のバランスは変化する。
美しさは見せ物にされ、抱えている恐怖は他人の娯楽になる。
小説と戯曲の交わりに小さく波立っていた心がさらわれていく。
彼らの生活がどのような結末を迎えるのかぜひ読んで確めてほしい。
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