たしろさんのレビュー一覧
投稿者:たしろ
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紙の本体は全部知っている
2002/02/13 22:52
吉本ばなな初体験
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遅ればせながら(ずいぶん遅れてると思うが)、吉本ばななを初めて読んだ。初めてなのに、あ、この感じどこかで出会ったことがある、と思った。何だろう? と思い出してみると、映画『キッチン』だった。小説の『キッチン』を読んだことはないが、あの映画は吉本ばなな世界のエッセンスをしっかり再現していたということなのだろうか。映画を見たのは公開当時だからずいぶん前だが、この本を読んで、体のどこかにしまってあった「感じ」が記憶とともによみがえった。
この本に収められている短編は、そういう、体がどこかに覚えてしまっている記憶や感覚の物語たちである。色やにおいやちょっとした言葉やらで、よびおこされてくるものはとても強烈だ。
わかるなぁそういうの、と思いながら読んだ。
紙の本ひとまねこざる 改版
2001/09/16 22:15
父子でも読もう!
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子どものころ、この本が大好きだった。ということを、つい最近まで忘れていた。じつは、うちの息子たちもこの本が好きなようなのである。とくに、3歳になる次男はかなりのいれこみようで、毎晩寝る前に母親に読んでもらっている。
この前、母親が風呂に入っているというので、わたしに読み語りのお鉢がまわってきた。読みながら思い出した。ああそうそう、で、こうなるんだよね、あれ、こんなんだったっけ。とくに記憶に残っていたのは、おさるのジョージがゾウの耳の下で眠るところ、食堂でうどんにまみれながら食べているところ、アパートの部屋をペンキでジャングルにしてしまうところ、病院でエーテルに酔うところなどなど。うどんのシーンでは次男も大喜び。読んでるこちらもなんだか楽しくなる。
これをお読みのお父さん方、自分が子どものころの楽しみを自分の子と共有できるものとして、スポーツやアニメ、特撮ヒーローものなどにつづき、絵本を加えてみるのもなかなかいいと思いますよ。
紙の本土神と狐
2001/10/28 17:43
がらんとして暗い狐の穴
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以前、たまたま家にあったこの本を子どもがもってきて、読んでくれといった。「これってたしか、嫉妬がテーマだったような…」と思いながら手に取った。野原の樺の木をめぐり、粗野な土神と気障な狐とがおりなす三角関係の話なのだ。
宮沢賢治は嫌いではないし、子どもがどんな反応をするのか見るのも面白そうなので読み始めた。はじめのうちは、3人の関係や性格、土神が嫉妬に苦しむようすなどが、お互いの会話を中心にえがれているのだが、「子どもにはちょっと難しいかな」などと考えながら読み進む。子どもらに目立った反応はない。
中盤からすこし変化が起こる。子どもにではない、私のなかに。自分の気持をどうすることもできないでのたうちまわる土神が恐ろしくて切ない。ほとんど肩入れしながら読んでいる。
そしてクライマックス。プツリと切れた土神が猛烈ないきおいで狐を追いかけ叩きのめす場面では、息つぎなしで一気にたたみかけんとばかりに、読む方はひとりで盛りあがる。最後に、死んだ狐のポケットから「かもがや」の穂が出てくるところでは、涙声になりそうなのをこらえた。子どもがどんな感想をもったのかは、よくわからない。
前に全集で読んだときは単なる寓話のひとつという印象しかなかったのだが、声にして読むことで、小林敏也さんの絵とあいまり、黒い情念とその後のがらんとした心持ちが痛いくらいにせまってきた。
手元において、ときどきそおっと読みたい1冊。
紙の本物語と夢 対談集
2001/09/23 21:46
知識のリンクへのとっかかり
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作家の井上ひさし氏が、あちらこちらの雑誌などでおこなった対談を集めている。お相手はみな、言葉や本や物語に深く関係する人たちだ。
今回この本を読んで感じたことは、本の内容と直接は関係ないのだが、対談集はインターネットのWWWの世界によく似ているな、ということ。けっして体系だてて内容が整理されているわけでなく、対談する言葉のなかあるいはそれぞれのホームページのなかに、こまぎれの情報がちりばめられている。それに接する人は、そのたくさんの情報のなかから気になるものを選びだし、それをとっかかりにして知識をふかめていくことができる。
たとえば、この本の対談相手のひとりに映画監督の黒澤明がいる。井上氏は黒澤映画にベタ惚れで、自分の物語づくりがどんなに影響をうけてるかをとうとうと訴える。対する監督は、それぞれの映画がどんなふうにつくられていったかを次々に披露してくれる。これを読んで私は、すぐにでもレンタルビデオ店にかけつけたくなった。
また、俵万智が委員をしている国語審議会、ロジャー・パルバースが訳したという「銀河鉄道の夜」、佐高信との対話のなかに出てくる伊丹万作の著作など、私にとっては興味ひかれる「こまぎれ」が満載だ。どこへつながっていくかわからないが、少しずつ知識のリンクをたどってみたい。クリックひとつでというわけにはいかないけれど。
紙の本百物語
2001/09/27 21:58
お隣の怪異
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江戸の日常にひそむ九十九の怪異を、多様なタッチで見せてくれる。百の物語を語ってしまうと、ばけものが現れるというので、一歩手前でおくのだとのこと。
読めば怖い。強烈にせまってくる恐怖ではなく、じわりとくる。私は夜中に寝床で読んで、思わず布団にもぐりなおした。
しかし、どうだ。ここに登場する人たちはいったい怖がっているのか? どうもそうは見えない。楽しんでいるわけではない。が、馴れっこになっているという感じ。どんな怪異に出会っても、その表情はこちらが拍子抜けするほど淡々としている。近ごろ流行りのホラーに出てくる、これでもかこれでもかとショックを繰り出され、わめきながら逃げ惑うような登場人物たちではない。起こったことをきちんと受けとめ、すうっとそれを許容してしまう。いわば、すぐ隣りにあるものなのだ。
江戸というのは、そういう場所であり、時代だったのだろうか。聞くところによれば、大きな都市でありながら、自然とうまくつきあえる人たちのくらすところだったという。人もばけものも狐も狸も木も草も、いっしょくたになって生きる都市。
ちょっとうらやましいぞ。怖いけど。
2001/09/16 22:08
書は捨てず、野にも出よう
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何かを食べるということは、人間にとって欠かせないもの。そのためか、食べることへの感心は高い。
この本の著者は生物の先生。授業のなかで、生徒といっしょに、いろんな野の植物を食べてみる。ポップコーンにしたネコジャラシ、ドングリでつくったプリン、テンナンショウの毒イモのドーナツ、ジュズダマのクレープなどなど。そこまでして食べるか、とも思わせる活動ぶりだ。
しかし、極商のみを採集して粉にしたり、渋や毒をぬいたりする努力のつみかさねから、作物ってなんだろうということが見えてくる。そして、「作物には、植物自身の進化の歴史と、作物に関わってきた人間の歴史が合わさっている」ということばに納得させられる。
この著者の本を読むと気分が落ち着かなくなる。身近な自然のなかに、面白いことがごろごろしていることを教えてくれるから。本書のほかにも「冬虫夏草を探しに行こう」(日経サイエンス社)や「ぼくらの昆虫記」(講談社現代新書)など、読むとすぐにも野山に出かけたくなる本が多い。ぜひご一読を。
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