一石さんのレビュー一覧
投稿者:一石
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紙の本ひらいたトランプ
2004/01/13 22:52
多角的に楽しめるクリスティ作品
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おなじみ、名探偵ポアロ・シリーズ。
パーティでブリッジをしている最中に、ゲームに参加していなかったパーティの主催者が殺される。
ブリッジのルールを知らないと(私もよく知らない)このへんの状況わからないのかもしれないが、知らなくても楽しめる。四人でやるカードゲームだが、順番で「ダミー」というゲームを傍観する役回りがあるようだ。誰かがダミーになっている間に犯行に及んだらしい。しかも、殺された被害者が生前にポアロに言っていたのだが、この日のパーティの客は、みな過去に完全犯罪を犯しているというのだ。
ブリッジのゲームそのものがヒントになっている点もとても面白いのだが、各容疑者の過去を洗っていく段階も、読み応えがある。容疑者一人一人の話だけでも、それぞれ短編が書けそうなぐらいの深みがあるのだ。
ラストはどんでん返しにつぐ、どんでん返し。そこには、クリスティらしいユーモアも隠されている。
この作品は、ポアロ物であるというだけでなく、クリスティ自身をモデルにしていると思われるオリヴァ夫人という推理作家が登場する。彼女は「蒼ざめた馬」にも登場していたし、ほかのクリスティ作品にも顔を出しているようだ。そのオリヴァ夫人の初登場の作品が、本作らしい。
ほかにも、ここでは他の作品で活躍する登場人物が描かれている。
ちなみに、本作品は、何年か前にクリスティ・ファンが選ぶ好きな作品ベスト5に選ばれたこともある。定番以外でオススメするなら、この作品だろう。
紙の本四季 秋
2004/01/19 14:27
S&MとVをつなぐもの
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四季シリーズ第三弾。秋。
主要な森作品は、ひとつの体系をなしている。
このシリーズは、その中で最も謎に包まれ、(ある意味)最も重要な人物である真賀田四季という天才のストーリーである。森作品の体系が徐々に明かされていくのが、とても面白い。
同シリーズの前二作(春、夏)では、真賀田四季の幼年時代、および、「すべてがFになる」で述べられていた四季による(といっていいのかどうか)両親殺害までの経緯が書かれていた。そのため、生まれながらに桁外れの天才だった彼女の言動、思考が中心となっており、大人でさえついていけないほどの高速度な論理展開に翻弄された。もちろん、それもまた一興だ。
今作は、前二作とは異なり、主に登場するのはS&Mシリーズの西之園萌絵と犀川創平の二人だ。バックボーンに真賀田四季博士の影があるものの、ほとんどS&Mシリーズのその後、といった内容である。特に、「すべてがFになる」では明かされなかった本当の真相も明らかにされる。
そして、S&MシリーズとVシリーズをつなぐという意味合いも強い。
些事として明かされていなかったいくつかの謎も、ここで解明する。「100人の森博嗣」の中で森氏ご自身がVシリーズ最後の作品に対するコメントで提示している謎。犀川の妹である儀同世津子が彼を呼ぶとき、なぜ「創平君」と呼ぶのか。犀川の友人、喜多助教授は儀同世津子を見て「似ていない」と言ったが、それはなぜか。などなど。それらの謎に解答を与えてくれる。
メインストーリーよりそちらのほうが面白かったが、そもそもはそちらがメインなのかもしれない。
いずれにせよ、前二作のような難解さはかなり薄れている。
今回のテーマはなんだろう。全編を通して、ある概念が浮かび上がってくる。
難しく言うなら、人のもつエゴとでも言うべきもの。そして、そんな自分を許すということ。
ああ、難しい。
どうせ全てを理解することは不可能なのだから、自分なりに感じたことを、自分なりに解釈すればいいのかもしれない。
できることなら、S&MシリーズとVシリーズをひととおり読了した後に本シリーズを読むことを強くオススメする。が、本シリーズを先に読んだ方が後でS&MシリーズとVシリーズを紐解くというのも、乙な読み方かもしれない。
2004/05/18 12:47
森ファン必読の一冊
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購入したときの第一印象は「思ったより厚いな」。
「森博嗣」の「1000%」を詰め込むには、やはりこれくらいの量が必要なのだろう。
森博嗣氏と対談するために作家になったという西尾維新氏との対談から始まり、S&Mシリーズ、Vシリーズ、四季シリーズ、その他の作品が網羅されている解説、森博嗣ファンクラブ「森ぱふぇ」に対して行なわれたアンケート結果(私も参加させていただいている)、森作品のシリーズ間におけるリンクを暗示する隠しアイテムの紹介などなど、内容は充実しており盛りだくさんだ。
私が特に注目したのは、読者のミスディレクションを誘う「隠しアイテム」をネタバレ必至で紹介しているコーナーだ。だいたいにおいては読者にとって既知のものと思われるが、気づかなかった「隠しアイテム」を見つけ、関連する森作品を再読してしまった。
森作品は、読めば読むほど深みを増している。作品群全体としてどんどん世界が広がっていき、「隠しアイテム」に気づいて得意になっていても、そこがさらなるミスディレクションへの入り口になっている。底知れぬ作品世界。エンターテイメントとは、かくあるべきだろう。
この本の中ではたった1ページにすぎないのだが、森博嗣氏とサリンジャーとの共通点が書かれている。森作品を読むと、サリンジャーから受けた影響が随所に見られるのだが、それらをまとめた解説である。ここでは「引き算の美学」と称されている「書かない手法」は、日本人において稀な存在だろう。「なぜ」という原因にあたる部分を示さず、結果のみを提示する手法。「なぜ」は読者が問うべきものとでもいいたげな。
森作品を紐解く上で、サリンジャーとの共通点は頭に入れておきたい。
森作品、および森博嗣氏をこよなく愛する読者にとって、まさに珠玉の一冊である。
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