亜李子〓Aliceさんのレビュー一覧
投稿者:亜李子〓Alice
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紙の本雪が降る
2003/02/04 21:04
読み易さは綺麗な日本語だから
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初めて読んだ藤原伊織氏の作品は、この『雪が降る』だった。表題作の他に五篇の短篇作が納められている。どの作品も胸を張って薦められるものだが、中でも、表題作と『台風』の二作は何度でも読み返したい気分にさせられる。
——母を殺したのは、志村さん、あなたですね。
それは、一通のメールから始まった。
『雪が降る』は一見草臥れた中年男性の過去の出来事が、昔関係した女性の息子が現れることによって鮮やかに蘇る。
“今”を生きる人びとが、ふと後ろを振り返ってみる瞬間。それをピントがブレることなく映し出した作品だ。
ことによると湿っぽくなりそうな題材を選んだものだが、そこは藤原氏。そんなことを微塵も見せずに書ききった。
雪が降る日、ふと読みたくなる作品だ。
『台風』は、ひとを殺しかけた部下からストーリィが流れ出す。主人公が昔、出会った『人を殺した人間』の話がメインに展開される。
人を殺すこと、そんな権利は誰ひとり持っていない。しかし、殺されるに等しい暴力を受けたのならば、権利があろうとなかろうとひとは思わぬ行動を起こすものだ。
悲しいまでの美しさ、そして強さ。
後悔は今に必要ない。必要なのは、ただ、過去から学んだ強さなのだ。
どの作品も読み易く、そして奥が深い。けれども良く味わってみない限り、その奥深さは感じ取れないだろう。藤原氏の文章の美しさは、さらに多くを読んでいない限り解らない。大したことがない、と云うひとは、まずその辺りの作品と較べてみるが良い。これほどまでに美しい文章を、驕ることなく如何にも当たり前のように書いている作家は早々存在しないはずだ。
紙の本津軽殺人事件
2003/02/04 20:25
『無惨』な結末
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謎かけは、良かったのではないか。少し捻り過ぎて登場人物でないと解らないようなものもあったが、そこそこ良いとしよう。けれどもやはり、名探偵・浅見光彦以外の人物が上手く動かせていない感が否めない。
被害者の娘・石井靖子の司法試験仲間として、浅見光彦の友人でもある村上正巳が登場する。登場するのは良いのだが、ハナから出てくる割に翳の薄いひとだ。まるで繋ぎの意味しか持たないような人物で、或いは他のキャラクタでその場を埋めることも可能だったのではないかと思わせる。例えば堀越部長刑事。また、彼も警察との繋ぎだが。
太宰の作品や津軽の風景が、事件解決への旅路に編みこまれているが、いまいち色彩がぱっとしない。色々とアクセサリをつけ過ぎて、どれかひとつ、目立たせたいものが判らなくなってしまっている状態だ。主要な謎を一本筋立てて、それに細かな謎(こちらは解り易くて良いから)を組み合わせていきたい。そのほうが読後感もすっきりとするだろう。間違っても、太宰の作品を読んでほど津軽に行きたい気分にはさせられない。
なかでも、特に不完全燃焼だったのが村上氏の存在。光彦の友人だというのは解ったが、妙なところで見え隠れしているのが解せない。犯人かと読者に思わせる効果なのか、それとも出番が少ないからちょっと出してみただけなのか……。伏線の効果としてももっと良き使いかたをしてやって欲しかったと思うのだ。
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