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たっちゃんさんのレビュー一覧

投稿者:たっちゃん

24 件中 16 件~ 24 件を表示

紙の本日記をつける

2003/09/05 10:18

のぞき見趣味

3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書のなかに、山田美妙の日記が紹介されている。

 山田美妙、東京・神田の生まれ、本名・武太郎。あはははは… 本人、この名前気に入ってなかったんじゃないのかな。だって、弁慶みたいな名前だもん。たけたろうだなんて。それで、女みたいなペンネームにしたんじゃねーの。それはともかく、硯友社を興し言文一致を提唱した明治の小説家・詩人・評論家として夙(つと)に有名だ。

 高校日本史の教科書なんかに黒い太い文字、いわゆる黒太(くろふと)文字で登場する。なんたって、言文一致の、すなわち、日常用いられる話し言葉によって文章を書くべしという運動のリーダー的存在だったのだから。

 ところが、そんなことを提唱しているにもかかわらず、山田美妙の日記には、ちょっと読んだのではわからない微妙な漢字が出てくる。

 短い日記の最後に、「宝一」とか「宝二」とかの暗号じみたものが現れる。「宝」とは何か。たからとはなにか。しかも、一、二、とは何を示しているのか?

 そういう方面の研究があるのか、はたまた荒川さんの読みなのかは定かならねど、「宝一」「宝二」とは、セックスとその回数を示すものらしい。そうなると、ほかの記号もなにやら妖しく思われ、目玉ひんむいて解読したくなるではないか。

 「宝一」「宝二」のほかにも、「宝一、二を試みて不」「宝一但不(昼宅にて自宝)」などあり。後者について荒川さんは、セックスをしようと思ってできなかったが、それは昼自宅で一人済ませたせいであろうと解説している。ほかにも「宝一大美」「宝一大妙」「宝一至妙」など、満足度を示すものもあるという。

 相当満足したであろう「宝一大美」「宝一大妙」の表現の最後の一字を取ってつなげると、美妙。な〜んだ、そうだったのか。山田美妙の「美妙」にはそんな暗号、裏の意味も含まれていたのか。納得!

 こんなのもあるそうだ。「夜錦子と上野車七銭、すり鉢山にて宝」。野外でか? やらなかった日は「無宝」だって。あはははは… 「宝二、一は逆」二回やったうちの一回はバックってか。「熟睡無宝」もある。あはははは… ただのエロオヤジじゃん。人間だってことだーな。

 東京の出版社に電車通勤していた頃、隣の席にいた中年男性が手帳を広げてセックスの記録をためつすがめつしていたのを思い出す。時代は違っても、ポコチンロケットの男にとってセックスはなんと言っても「宝」なのだろう。こればっかりは無法地帯における男女の営みということだ。

 いまなら「男男宝」「女女宝」も珍しくない。「男女男宝」は言うに及ばず。

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紙の本♂♀

2002/05/27 10:32

エッチの解剖

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 花村萬月『♂♀』(新潮社)を読んだ。鹿島茂『オール・アバウト・セックス』を読まなければ、この作家のものをずうっとこのまま読まなかったかもしれない。車谷長吉を師匠・安原顯さんの書評を読んで興味をそそられたように、これからこの作家のものを読むたび、鹿島さんを思い浮かべるだろう。


 前置きが長くなったが、さて問題(?)の『♂♀』。相当にエッチだ。女がエッチを描くのに比べ男の描くエッチはどうも馬鹿で単細胞、石部金吉。ま、構造上からしても、むべなるかなと思ってきたが、どうしてどうして、目からウロコでした。ガンバレ花村萬月! と応援したくもなった。


 女のエッチは精神的、男のエッチは即物的との言い方がどこかで刷り込まれ、体験的にもさもありなんと心得ている。しかし、読んでいて、くだんの対比が必ずしも無意味で陳腐な決め付けとばかりも言えない気がしてきた。作中主人公の独白はなるほどと思った。


   亀頭原理主義者としては、律子の躯の構造に未練がある。
   これからも調子よく摘み食いをするだろう。だが、それは、
   異性の躯を用いた自慰にすぎないような気がする。
   新たな、しかし以前から抱いていたであろう疑問が湧きあがってきた。
   私は、いまだかつて性交をしたことがあるのだろうか。
   異性と交わったことがあるのだろうか。


 鹿島さんが『オール・アバウト・セックス』で引用されていた箇所もそうだが、この本にはたしかに「いま」がある。エッチを通俗に堕さずに描くには相当の力量が要るだろう。エッチの解剖はアタマが良くないとできない。ぼくの好きな岡崎京子さんや内田春菊さんは天才だが、花村萬月も相当にアタマのいい人だと思った。


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紙の本内田金玉

2002/05/16 11:49

金玉力

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 天才・内田春菊編集長による『内田金玉』(イースト・プレス 本体1,524円)を読んだ。そこへ、吉本ばななさんが「金玉について」という玉稿(あくまで「ぎょっこう」です。けして「たまこう」と読まないでください。言われなくてもわかってる? さいですか。失礼!)を寄せている。一部引用しますと、

…男の独特のあの力、山を動かしてしまうようなあの集中力、たぶんそれこそが金玉力なのだろう。男の底力の切ない源だ。その力は男にものすごい集中力を発揮させ、あとさきかえりみずに突っ走らせ、偉大な仕事をさせ、漂白の旅に出させ、そして、情けなくかわいらしく「わかってはいたが、できなかったんだ」と言わせるのだろう。

 ブハハハ…。そのとおり。ばななさんも天才か? どして、男の秘密わかっちまったのかな。この論をすすめていくと、うしろ姿のしぐれていくか、の山頭火が漂泊の旅に出たのも金玉力だったことになる。いかにもデカい感じするもんなあ。ブハハハ…。
 しかるに! 女というものは、ばななさんいわく、

別れ話で大泣きしていても、「こんな腫れた顔で帰るんだから、タクシーに乗ろうかな、でも今月金ないしな」というようなことを考えているような生き物だ。

 ブハハハ…。そ。そのとおり。なんでわかっちゃうんだろ。そか。ばななさん、女だからな。ばななさんも別れ話のときそんなこと考えたのか知らん。

 許せん! 断じて許せん、そんな女は…。なんて思うけど、これまで付き合った女性に、多かれ少なかれそういう印象を僕もたしかに持った。叙情的で独り善がりな物語の主人公になりきっているときに、なんでそんなに散文的なの、なんて憤慨したものだ。それが、みんなみんな金玉力の仕業だったとは…。トホホ。

 この本のうしろのほうで、医学博士の斎藤学氏と心理学者の岸田秀氏、それと天才・春菊先生が対談している。
 男ふたりの股間に金玉が合わせて4コ、チン座ましまして(あたりまえか)いるのかと想像するに、こむずかしい理屈を話し、いかにご高説を垂れても、お二人、とても優秀なのにどことなく間抜けに見えてくる。
 なんていうか、春菊さんが服を着ているのにハダカ。対する男は、ハダカで喋っているようなのに服着てる感じ。しかたないか。

 好きなサリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」なんて、ありゃ、金玉力をモチーフにした悲劇であり傑作喜劇かもしれないな。


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ひとは勝手なことを言う

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 岩田書院では、新刊を出すたび宣伝用に「新刊ニュース」を出しているそうだ。それに「裏だより」として書いてきたものを、今回1冊にまとめた。

 そこまで書いちゃっていいの?というぐらい、経営内容を含め、文字通り赤裸々につづってある。また、だからこそ、出版人にとって身につまされる話ばかりだ。出版社以外の人にとっては、現代の職人の悪戦苦闘記録として面白く読めるのではないだろうか。

 なによりもまず文章が上手い! それと、どんなに苦しくても、自分を笑い飛ばすユーモアがある。ぼくは、ほんとうに元気をもらった。岩田さん、ありがとう。読みながら笑いすぎて涙が出た。たとえば、こうだ。

 「岩田書院の図書目録は、この新刊ニュースを1枚ずつまとめてホチキスで綴じて作っているのだが、現実的な問題として、50号まとめるとホチキスの針が通らなくなってきた」。わかる。わかる。コストと手間を考えての涙ぐましい努力と知恵がつたわってくる。

 創業2年目の年、読売と朝日あわせて130万円をかけ新聞広告を出したことについて、「弱小出版社としては、かなりの広告費をつぎ込んで、まさに4階の事務所から飛び降りるつもりでやったのですが、結果は足の骨を折った、というところでしょうか(死なないでよかった)」とコメントしている。これなど、ウチ(春風社)もまったく同じ体験をしているから、よ〜くわかる。『「いい子」の非行』の広告を、朝日は値段が高いから、また1回だけでは効果が薄いだろうから、などと浅知恵をはたらかせ、読売に2週つづけて広告を出したことがあった。広告を見ての注文とハッキリわかったのが数件。そんな程度だった。

 ヨチヨチ歩きもいいところの時期、これは痛かった。骨身に染みた。二度と新聞広告は出すまいと心に決めた。新聞広告を見て本を買う時代じゃねーなと確信もした。

 なので、以後はひたすら書評依頼に力を注ぐことになった。内容をかんがみ、媒体を調べ、いままで好きになったどんな女性にも書いたことのないほど熱烈なラブレターを、気合を込めて書く。書く。となれば、どんなに小さな書評でも、自分のところで出した本の書評が出れば嬉しい。好意的な内容なら、もっと嬉しい。デカくあつかってもらえれば、もっともっと嬉しい。そんなものだ。

 岩田書院では書評が出るたび、その本の紹介ページに自社のロゴである「烏」マークをつけるらしい。「私は、これが増えるのを楽しみにしています」。う〜、わかる、わかる。そうだよな。ほんとうに嬉しいのだ。

 ところが、そんな気持ちを知ってか知らずか、差出人名も書かずに、「賞をもらうとか、好意的な書評が出るとかで点数をつけるというのは、岩田書院の「こころざし」とは、どういう関係にありますか? 岩田書院は「こころざし」ある本屋だと思っていました」なんてハガキをよこした馬鹿がいたそうだ。

 朝の2時3時、遅くなるとき(朝だから早い、か?)は4時5時まで、身を粉にしてはたらいている人をつかまえ、勝手に「こころざし」ある出版社にまつりあげ、苦労も知らずに、ああだこうだと能書きばかりほざきやがる。こんな手合いが多すぎる。

 岩田さんは書いている。「私は、岩田書院のことを「こころざし」のある出版社だとは思っていないのです。これしかできないからこうしているだけで、ただそれだけなんです」。

 要するに、ひとは勝手なことを言う。いろいろいろいろ。いちいち反応していたら身がもたない。陳腐な言い方だが、自分を信じるしかない。いや、忘れるしかない、と言うべきか。

 岩田さんは「思っていない」と書いているが、岩田書院はやはり「こころざし」のある出版社だと思う。岩田さん、ガンバレ!

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紙の本マイルス・デイビス自叙伝 1

2002/05/14 14:57

帝王マイルス

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 『マイルス・デイビス自叙伝』を読んだ。知っているジャズメンが次々に出てくるし、歴史のお勉強にもなるし、細部が面白くすぐに読めた。マイルスがますます好きになった。

 ジョン・コルトレーンが修行僧のように女に見向きもしないのに、マイルスは演奏が終ると女のケツばかり追いかける。ヒップに決めてモテモテなのだが、フランシスという女性と恋に落ち、はじめて嫉妬の感情を知ったと。「クインシー・ジョーンズってハンサムね」の一言にキレて美しい彼女の顔に手を上げる。以来、二人疎遠になるまでフランシスはクインシーの名を決して口にしなかった。

 パリのクラブでバド・パウエルに会ったときのこと。長い間離れ離れになっていた兄弟が再会したように抱き合って騒いだ。バド、よっぽどうれしかったのか会場備え付けのピアノを弾くことになった。最初は上手くこなしていたのに、途中からアレヨアレヨと乱れに乱れメチャクチャな演奏になった。その場に居合わせたものたちは仕方なく拍手を送る。
 席に戻ってきたバドにマイルスは、
「バド、そんなに飲んだときは弾いちゃダメだ。わかるだろ」
 バドは当時、分裂病がヒドくなっていた。


 それにしても、当時ジャズメンがこれほどまでヤクに浸かっていたとは知らなかった。チャーリー・パーカーやビリー・ホリディがヤク中がもとで死んだのは有名な話だが、ずっとクリーンなミュージシャンはいないと言ってもいいくらいだ。
 マイルスがコールドターキーになって薬を断ち切る姿は壮絶を極めるが、それをじっと見守る父親に打たれる。その父が、功成り名を遂げた息子に会いにニューヨークまで来る。特別な話もなく、一通の手紙を渡して帰っていった。毎日忙しく、中身を見ずに手紙をそのまま放っておいた。まもなく父の訃報がマイルスのもとへとどく。急いで帰って手紙を開けた。「おまえがこれを読む数日後に、私はもうこの世にいない。マイルス・デイビス。私のほこり」とだけあった。

 怒りと憎しみ、音楽への情熱、つきあった女性への感謝、差別のこと、家族への思いやり。自分のダメさ加減の吐露もバランスよく読んでいて気持ちいい。頭にきている奴のことにしても、事実であっても、当人に障ると思われるところはちゃんと配慮している。

 マイルス本人の人柄もさることながら、話をまとめたクインシー・トループ、訳者の中山康樹さんの愛情を感じる一冊だ。

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紙の本双子のオヤジ

2002/06/02 16:26

人生論漫画

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 しりあがり寿『双子のオヤジ』(青林工藝舎、本体1300円)を読んだ。


 山奥の奥の奥、双子のハゲオヤジが住んでいて、自分たちの想念だけを遊び道具に生きている。存在、時間、自分、幸福、夢、神様、民主主義など、テーマはいろいろ。


 「ホメる」というタイトルのがいちばん気に入った。

 ひとりが本を読んでいると、もうひとりの存在が薄くなって、絵もぼやけてくる。読書していたハゲオヤジ、双子の片割れが気になって、
「なんだかオマエ薄いぞ」
「存在を無視されると存在濃度が薄くなるんだよ」

 本を読んでいたほうのオヤジ、存在が薄くなった片割れがさびしがらないように、チャブ台やタンスをそばに置いてあげる。ところが、存在感ますます薄くなり、
「だってオレなんだかかえって疎外感感じるもん」
「いったいどーすりゃいいんだ?」
「オレをホメてくれよ!!」


 というわけで、存在濃度が薄くなっていたハゲオヤジをホメちぎると、どんどん濃度が濃くなる。最後のコマでは、白隠描くところの達磨の絵の如くに太い線で素描され、
「ふーっこゆくなったー」
「辛いもの喰いてえ」
となる。


 三木清『人生論ノート』(新潮文庫)のパロディーのようでもあり、哲学的で、それでいてわかりやすく、双子のオヤジが可愛く、装丁も素敵です。

 最終章のタイトルは「そして…」ハッとさせられる。

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しないことをする

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 ヴェロニク・ヴィエン著『何もしない贅沢』(光文社)を読んだ。らしい写真が散りばめられている。撮影はエリカ・レナード。翻訳は岸本葉子。三人とも女性。岸本さん、かわいい。ま、それはいいとして、この類の本が最近かなり出ているのではないか。「シンプルな豊かさ」だとか「シンプルライフ」だとか、よく目にする。


 ぼく自身は、こういう本を、それだけ狙って本屋に行くことはまずない。本を買いたい欲望をつのらせ、酒が入ったときのように気持ちが大きくなりどんどん脇に抱えていく。そんなとき「…しない」「捨てる…」「シンプル…」などの言葉に目が行く。すると勢い、抱えた本の上にそれもヒョイと積み上げてしまう。自分だけのオマケを見つけたような気になる。


 しかして、帰宅後どうしてかわからぬが、まずオマケに手を伸ばしてしまう。食べ物ならいちばん好きなものから始めるのに、本の場合は逆が多い。
 寝転がってぱらぱらページをめくる。写真が多いし、小ぶりの瀟洒な本なのですぐ読める。途中気の利いた言葉にぶつかり、そうだな、そういうこともあるよな、なんてえもので…。しかし、この類の本を読むとき必ずと言っていいくらい感じる違和感を今回もおぼえた。


 「何もしない贅沢」と言うけれど、「何もしない」どころか、いろんなことをずいぶん積極的に「する」「している」し、人にも勧めているからだ。散歩したり、読書したり、水浴びしたり、寝転がったり。それだけだったらまだしも、そういうことのなかに、普段気づかないすばらしい宝を積極的に見つけようという魂胆が、失礼、意識が働いていて、読者へも、休み時間のなかで積極的に無為の宝を見つけなさいと勧めている。「何もしない」ことにまで意味をもたせ、効率性を追いかけるケモノ臭さを感じる。


 カバーの袖にある三人の経歴を見て、なるほどと思った。きっと忙しく働いている人たちなのだろう。休みの日、効率的にリフレッシュしなければならない要請に駆られているのではないか。


 こころの10分マッサージ、目もぱっちりリフレッシュ、よ〜し、また仕事するぞ〜、そんな感じの本でした。

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天才は一日にして成らず

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 チャーリーは、もはやリンカーン・ハイスクールに通うことを装うことさえしなくなっていた。自由な時間の多くを、彼はオールドマン・ヴァージルの小屋でがらくたの仕分けを手伝ったり、一緒に横丁を歩いたりしながらあれこれと話をして過ごした。ある時彼は、ジェンキンズの楽器店から、店員の目をかすめて失敬して来た二つのリードをヴァージルに見せた。ヴァージルは叫んだ。「そいつあ、万引だ!」会衆に向かって声を張り上げる説教師のようだった。「そんなことをすりゃあ、二年も感化院だぞ! 前科は一生ついてまわるんだ。チャーリー、おれとちょっと話し合おうじゃないか」老人は家具屋の廃品置場から貰い受けて来た椅子に、チャーリーを向き合って座らせ、彼の身の上話に黙って耳を傾けた。
「お前にゃあ親父がいないから、このおれが四つの規則を定めてやる。おれは年寄りだ。年の功ってことがある。規則の一は、“盗みをするな”だ」ヴァージルは言葉を切ると、熱い目付きでチャーリーを見据えた。「感化院に入れられる時間を考えてみろ。たかが五十セントのリード二個が何だって言うんだ? そいつを聞かせてもらおうじゃないか」
「馬鹿な話さ」チャーリーは言った。
「盗みなんてのはな、ろくでなしのするこった。規則の二は“人を悪く言うな”だ。悪口を言うのは簡単なこった。あっちこっち行っちゃあ人の悪口を並べても、お前には何の得にもならねえよ。悪口ってのあ、きっと、そいつの出どこへ帰って来るもんだ。他人は皆、お前が何を言ったか、ちゃあんと憶えているからな、人を悪く言って良いことがあるはずねえんだ。良く憶えておけよ、チャーリー。人のことを良く言えねえんなら、端っから何も言うな。そうすりゃ、お前、人から良いやつに見られるってもんだ。
「音楽の話をしよう。おれあ、手前じゃあブルースをちょっとやるくらいで、何もできやしねえがな、長年通りをうろついているうちにゃあ、ずいぶん音楽も聞いたさ。お前はまだほんの駆け出しだ。おれたち黒人にはな、そうそう道が開けているわけのもんじゃねえ。音楽があれば、黒人は手前の道を歩けるんだ。このカンザス・シティにはな、国中どこへ行ったって誰にも引けをとることのねえ演奏家が大勢いるんだ。覚えられるものあ何でも覚えろ。練習をさぼっちゃいかん。食いついたら離れねえこった。お前、ホーンをはなすな。ホーンさえやってりゃ、人生どこへでも行きたいとこへ行ける。
「最後の規則はこうだ。“良い女を見つけて、浮気はするな”」老人は言葉を切って、それから言った。「さあ、おれの後について言ってみろ」
 チャーリーは四つの規則を繰り返した。「盗みをするな。人を悪く言うな。ホーンをはなすな。良い女を見つけて、浮気はするな」それから何週間か、チャーリーはオールドマン・ヴァージルに会えば必ず、小屋であろうと、通りや路地裏であろうと、どこでも四つの規則を教義問答のように暗誦させられた。



 ロス・ラッセル著/池央耿訳『バードは生きている』(草思社)の一節。チャーリーはジャズの歴史を塗り替えたチャーリー・パーカー。当時彼は14歳。これから人生に船出しようとする少年に、ユーモアとウィットを交じえ老人が励ましの言葉をかける。古き良きアメリカの断面。ぼくの好きなマイルス・デイビスは、留保なしで真に天才と呼べるのはチャーリー・パーカーとバド・パウエルと言ったそうだ。チャーリーがその後、四つの規則を守り通したかどうかはまた別問題。

 チャーリー・パーカーを聴いていていつも思うのだが、即興演奏が乗ってきたなあ、おおおっ、と身を乗り出した頃に、当時の録音技術の制約なのか、3分かっきりで終ってしまう。A面1曲のみ延々30分なんてのがあったら、かっとんだろうになあ。

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紙の本文章読本さん江

2002/05/13 10:33

ベッドの中で死にたいの

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 ブハハハ…。タイトルをみて、え? と思ったでしょ。おめえのキャラじゃねえって、いくらなんでも。ブハハハ…。

 ハイそのとおり。内田春菊さんの短編集『ベッドの中で死にたいの』でした。
 なら、最初から『  』を付けろや、ということですが、自分で声に出してみたら、あまりの可笑しさに、つい悪乗りしてカッコを外してしまいました。スンマヘン。

 内田すぁんとか岡崎京子すぁんとか、女性の天才の描くものを読むとグ〜の音も出なくなる。いやほんと。やる気なくす。こういう女性に好かれる男になりたいな〜と鼻の下のばして思うけど、無理無理、最初から白旗。努力の甲斐がない。何を隠そう、おいちゃん、努力がけっこう好きなのですが、上記ふたりの漫画をみるたび、こんなふうに接しられたら俺なんかかたまっちまうな、と思う。間や空白の感じは、ほかでは味わえない独特のもの。最後のコマで、

  魚が浅瀬で遊ぶようなその音
  私の中にもこんなに水分があったのでした


 斎藤美奈子さんの『文章読本さん江』も、ちょと恐い本。世の中に何百とある文章指南の本を一刀両断。これ読んでると、毛むくじゃらのオトコのポーズ、ヒトリヨガリ、エゴ、ウソ、カンチガイ、ゴウマン、バカ、ヒクツが炙り出され、白日のもとにさらされる。オトコという生き物がまるでアホウみたい。あ〜〜あ。ってな感じ。

 オビに「斬捨御免あそはせ!」(「ば」でなく「は」)とある。ほんと、大事なところをカミソリでスッとやられたような痛さだよ。

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