KBTさんのレビュー一覧
投稿者:KBT
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紙の本ナンシー関大全
2003/09/30 01:20
文章とバックグラウンド
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「死んだときに泣いてくれる人の数でその人の価値がわかる」とよく
言うが、ナンシー関が亡くなり、惜しむ声の数が絶えないのは、彼女
の偉大さをよくあらわしていると思う。
彼女のコラムは、ものすごく複雑で微妙なバランスの上に成り立って
いる。厳しく、鋭く、痛い所を突くが、文章全体からにじみ出るやさ
しさがある。テレビという、文化人がけなすことでアイデンティティ
を保つ即物的なテーマを扱いながら、社会のそこをえぐるような視点
には、はっとさせられる。
彼女の実母が「こんなに人様の悪口を言って大丈夫?」と彼女を諭し
たエピソードがこの本にある。ナンシーはそれ以来、両親に本を送ら
なくなったというが、親に心配かけたくない、という、類まれなコラ
ムニストの暖かな一面がよく出ている。
この本は彼女の過去の文章を集めたもので、目新しさはないかも知れ
ないが、「コラムニスト」ナンシー関が好きだった私は、この本をに
出てくるちょっとしたエピソードを読んで、「人間」関直美の魅力を
感じられるようになった。
どこか暖かで、機知にとんだ文章。そして人間性。この本を読んで、
彼女と仕事や青春をともにした多くの友人たちが、本当にうらやまし
くなった。
2002/07/13 02:48
と学会会長が書いたトンデモ本
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本、最高の読みどころは「あとがき」ではないだろうか。
正直、本編の「空想科学読本」シリーズの著者、柳田理科雄氏を批判、
笑いものにしている部分は、山本弘氏の科学に対する知識、考証の正確
さに感心させられこそすれ、単なる「ツッコミ」であり、笑える部分は
少なかった。
山本氏の文章の上手さである程度隠れてはいるが、異様なまでの柳田氏
に対する恨みにも似た執念が文章の節々に感じられる。エンターテイメ
ントで(少なくとも出版社は)売りたいのであろう主旨からいえば、読
失格かもしれない。
そんな感想も、柳田氏は自分の読者を裏切るというもの書きにあるまじ
きモラルの低さが許せなかった、というあとがきを読んで、吹き飛んだ。
私は最近、書き飛ばされる小説や新書、雑誌に嫌気がさしている。
著者の真摯な態度が感じられる本は本当に少ない。数少ない本のうちの
ひとつがこの本だと言ってよい。
この本は、山本氏が愛してやまない「著者の意図していないところで楽
しめる」トンデモ本だ。とても嬉しい意味で。
苦言をひとつ言わせて貰えば、この本に関しては、と学会会長の肩書き
を入れず、小説家「山本弘」として出版して欲しかった。
紙の本エジプトがすきだから。
2002/07/19 00:04
「感情」のガイドブック
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一つ自慢させてください。ワタクシ、エジプトを旅行しながら
この本を読みました。この本を読んだことのある人、うらやま
しいでしょ。
この本ほど、変な功名心も無く、素直な気持ちでバックパッカー
が旅先の国で出会う楽しみと苦しみを表現した本はなかなかない。
バックパッカーの聖書、沢木耕太郎氏の「深夜特急」とは全く
違うベクトルで、旅を上手く表現している。
旅しながら読んで驚いたのは、旅人がエジプトで遭遇する出来事
から受ける印象と、本を読んだときに感じる印象が、かなりシン
クロしていたことだ。ガイドブックとは全くちがう、旅のガイド
の本にもなっている。「実用」のガイドではなく「感情」のガイ
ドブックだ。
kmp(金もーけプロジェクトの略らしい)の本は他にも読んだが、
処女作のこの本が一番のお気に入りです。
紙の本トンデモ本の世界R
2002/07/06 01:41
「ツッコミ化」と「本来の趣旨」のバランス
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「と学会」シリーズである。最初の「トンデモ本の世界」が出版されてから、はや
7年(R出版当時は6年)。早いものである。
「作者、筆者が意図していない部分で面白い本」というトンデモ本ではあるが、最
初の「〜世界」のころと比べると、単なる「間違ったところのツッコミ」化しつつ
あるように感じる。最初の頃は、本のもとの文書を読んだだけで大笑いしていたが、
最近はツッコミ文を読んでから笑いがくることが多い。科学的に専門化もしつつあ
る。
たが、それを差し引いても、やはり面白い。会長の山本弘氏の文章の上手さもある
が、会員の方のトンデモに対する愛情と執念には感心させられる。本当に世にトン
デモさんは多いのだ。
一点気になったのは、小林よしのり氏の「戦争論」を取り上げたこと。私も山本氏
の書いた通り、「戦争論」はトンデモだと考えているが、これまで避けてきた思想
系に踏み込むことは、ノンポリが偏重される日本のサブカルにおいて、偏向したイ
メージを持たれる可能性があるからだ。
自由闊達さ、先鋭性を多くの人が感じたと学会。末永くシリーズが続いて、私たち
をもっと楽しませてもらいたいと、心から願っております。
2002/07/19 01:18
心に残る一節
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北朝鮮という国にたいして、多くの人が漠然と「恐ろしい」という
感情を持っていると思う。本当に漠然と。
著者の萩原氏は、本来北派である共産党機関紙「赤旗」出身。その
彼が北朝鮮との訣別を宣言する。自分は微力で、もちろん恐ろしく
もあるが、行方不明になった友人たちや、北朝鮮で政府に抵抗し亡
くなった人たちの思いに、今後の人生をかけて応えると誓う。
この本を読んでもう4年になるが、この一節にはいまも爽やかな感
動を受けるし、かの国の不条理に怒りも覚える。
北朝鮮の恐ろしさを書きたてる本は多いが、その多くが右的な人た
ちが本当かどうかも分からない噂や、単に自分の思想に依拠して北
朝鮮のイメージを利用しているだけのものが多いように感じる。多
くの北朝鮮関連本の言葉は、その内容に反して軽い。
北朝鮮と、北朝鮮に関わる人たちと人生を共有してきた萩原氏の半
生を読み終わったとき、そんな軽い言論も許される日本の自由が、
本当にありがたいと思った。
2002/07/13 03:11
ジャーナリストを育てる現場
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私の知り合いの記者が、9.11アメリカ同時多発テロを中継したニュース
を見て「ショックを受けたけど、同時に現地にいるジャーナリストが羨まし
くなった。今は無名でも、この取材を体験した記者の中から、歴史に名を残
すジャーナリストが出ると思う」と感想を漏らした。
西岡研介氏は、少なくとも日本のマスコミ史の歴史を記した本の数ページを
飾るだけの成果を、政治家と検察のトップの首を取ったことで既に残してい
る。まさに「トップ屋」である氏を形成したのは、日本において同時多発テ
ロと同じくらい衝撃が大きかった阪神大震災なんだと、この本を読んで思った。
警察取材が好きな事件記者だった氏が、自分の無力さと直面しながら現場を
這いずり回った震災体験。人の感情、絶望、力強さ全てに体当たりでぶつか
ったからこそ、今の「トップ屋」が出来たのだと思う。人間の感情の機微に
鋭敏で、誰かのために泣くことの出来ない人間でなければ、自分の人生を託
すほどの情報を話そうとは誰も思わないだろう。
彼の心には、常に震災があるはずだ。彼が大事件をスクープする記事の一文字
一文字が、彼なりの震災被災者に対する弔いの言葉なのかもしれない。
2002/07/04 21:34
キャプつば世代の邂逅
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題名を見た瞬間、「うまい!」と思った。W杯による「出版バブル」
で、書店に単なる観戦ガイドや安易なサッカー本が溢れる中、手にと
ってみようかという気を起こさせる。アイデアによる「技あり」であ
る。
今年10年目を迎えたJリーグ。1993年に開幕した際、時を同じ
くして誕生した若いサポーターの多くが、少年時代に「キャプテン翼」
を読んでいた「キャプつば世代」だった。
サッカーのプロ化を推し進めたサッカー協会幹部、各地域のリーダー
達、「サッカー狂会」を代表とする日本暗黒の時代を支えた原始サポ
ーター(失礼)の功績はもちろん大きいが、それだけであの観客席は
埋まらなかった。
ドーハに行ったウルトラスのメンバーも、Jリーグブームが去った後
の観客席を支えたコアなサポーターも、みんなキャプテン翼世代だっ
た。
サッカー漫画が日本サッカーの興隆に果たした役割は、本当に大きか
ったのだ。トルコ戦の後に襲った虚無感のうちの幾ばくかに、「翼く
んの夢はついえた」という、「キャプつば世代」の夢の終わりも込め
られていたと言っては言いすぎだろうか。いいすぎかな、やっぱ。
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