koitaroさんのレビュー一覧
投稿者:koitaro
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紙の本赤ひげ診療譚 改版
2004/09/24 10:22
必死で生きる庶民と支える医師の師弟に感動
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名作としてあまりに有名な作品。
時は江戸時代。場所は小石川養生所。長崎遊学から戻った保本登(やすもとのぼる)は、幕府の目見医、御番医という出世街道を歩むはずだったが、小石川養生所の“赤ひげ”と呼ばれる新出居定(にいできょじょう)に呼び出されて、医員見習いを命ぜられてしまう。貧民層の患者を診ることになり、最初は反発していた登は、強く、人間を愛してやまない赤ひげに次第に惹かれてゆく。青年の心の成長と師弟の魂のふれあいを描く傑作。
狂女の話
駆込み訴え
むじな長屋
三度目の正直
徒労に賭ける
鶯ばか
おくめ殺し
氷の下の芽
の8話からなり、1話ずつ独立していながら、登が次第に成長していく過程が見て取れる。
読んでいてとても考えさせられてしまった。人生において、どうしようもない状況、特に貧困によるそれらの問題において、生きる意味とはなんだろうという命題。この書は決して「こうあるべき」などという解答を押しつけずに、あなただったらどうするだろうかと突きつけられる。
それがもっとも出ているのが「鶯ばか」の、ある貧困家庭の一家心中だろう。
「放っといてくれれば親子一緒に死ねたのに、どうして助けようとなんかしたんでしょう、なぜでしょう先生」という一命を取り留めた母親に、「人間なら誰だって、こうせずにはいられないだろうよ」とかろうじて言う登。そして「生きて苦労するのは見ていられても、死ぬことは放っておけないんでしょうか」、助かったとして、苦労が軽くなる見込みはあるのか、との問いに、登は返すことができない。
人間とは苦しくとも生き続けるものだ、などとおこがましいことは言わない。決してこの母親を心から納得させる正解があるわけではない。自分の努力はまったくの徒労に終わるかも知れない。しかし、そういった庶民にこそ医者が必要なのだと、赤ひげと共に「徒労に賭ける」決意をする登。
読み終わった後、自分はどう生きるのか、じわりじわりと考えさせられる良書である。
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