痴情の果てさんのレビュー一覧
投稿者:痴情の果て
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紙の本風の男白洲次郎
2003/02/07 02:21
キムタクよりカッコいいオヤジ
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書店で本書を手にし、カバーの写真の男を見て驚いた。何者だコイツは? どうしてまったく見覚えがないのか。日系の作家? 小林秀雄に弟でもいたのか?
「ぼくはなぜ、この男のことを今まで知らずにいたのか」。
一瞬、妙に苛立たしく悔しい感情に襲われた。文学・芸術の領域からサーチしたぼくの低性能の脳みそ(白州正子を読んだことなかった!)では、「白州次郎」という文字と、現代史の一知識として登場する名前とはなかなか結びつかなかった。
その写真は、中味を読む前に、どんな男がそこに描かれ、どんな生き様を伝えるのかを如実に示した肖像だ。
神経質で頑固、恐ろしく短気でぶっきらぼう。上っ面な権威に対する怒りと軽侮。シンプルでストレートで、ハートがあって、気取らず、何より男も惚れるほどカッコいい。
ここに編まれた伝記はすべて、興味深い表紙の写真につけた長いキャプションとも言える。
リッチな英国留学生活や、現代史上一国の帰趨を左右する仕事に期せずして携わったことなど、興味深いエピソードも盛り沢山だが、それ自体はカッコよさの本質ではない。
留学で身に着けた合理性と広い視野、国際感覚、抗いがたい育ちの良さを除けば、一見日本のどこにでもいる、ゴルフ好きの平凡な頑固オヤジとたいして変わらないともいえる。
動悸がするほど胸に迫るのは、あたりまえのことを、当然のこととして、シンプルに、何の気負いもなくやりとげてしまう精神のありようだ。GHQが相手にせよ、百姓をするにせよ、ターフの手入れにせよ。「天衣無縫」と呼ぶほど大げさなものではなく、「イノセント」とでもいうのか。
憂鬱な現代であっても、とはいえ見わたせばまわりに一人ぐらいこんなオヤジがいるような気もする。「プロジェクトX」に出てくるような。
むかし、高校の歴史の先生が言った。
「英雄は生まれてはこない。歴史が見出すだけだ」。
英雄の役割を担うに値する人間はいつの時代にも存在するし、いくらでもかわりがいるが、見出されることの方が稀なだけだという説明がついた。
白州次郎に「英雄」ということばは似合わないが、キムタクよりカッコいいオヤジは、いまどき何て呼ぶんだろう。「地上の星」?
風の男を読んで、ふと思い出した。
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