momoさんのレビュー一覧
投稿者:momo
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紙の本中国洗面器ご飯
2003/04/28 02:08
臭いを伝える筆力
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著者が「一条さゆり」である。まず何…??と思わされた。二代目がいらしたことは知っていたものの在中国とは。「一条さゆり」というネーム・バリューにひきよせられて読み始めた。そしてこうも行動力のある姐さん(失礼)て一体どんな人なんだろうと今や興味津々である。
本書は、いわゆる異文化体験の最たるものは食にあると教えてくれる。食べ物そのものだけでなく、器や食べ方、最終的に排泄までも含めた全体としての「食」である。タイトルの「洗面器ご飯」が普通の中国の人々の定番メニューであるらしいことは、可能な限りごく普通の若者たちに触れようとする身の置き方を選んできた著者ならではの発見であろう。一品一品それぞれおいしそうな「中華料理」がひとたび「洗面器ご飯」とされるくだりは、強烈な臭いまで伝わってきそうなパワフルな筆致である。
百年以上前の日清戦争時、帰国した兵士たちが清国の人々に対し蔑視的態度を抱いた一因は強烈な臭いを指して即ち不衛生で非文明的なりとの判断によっていたそうだ。そこでなぜそういう違いがあるのかという問いに向かうのでなければ百年前と同じである。現在の中国は経済発展著しい世界の工場といわれ、人々の夢を喰うバクさながらである。しかしそんな中国観は、生身の人間が放つ強烈な臭いの存在にすら気づかないふりをすることで成り立つ虚構でしかない。
果して本書が触れているように一人っ子政策が生む悲劇、職のない若者のギラギラした眼、際限のない農村の貧困など、中国の抱える現実には臭いとともに気づかないふりをされている事柄が何とたくさんあることか。しかし多くの問題をはらみながらも四千年とも五千年ともいわれる悠久の歴史を背負い、「中華」なる自意識に満ちた人々の国である。「洗面器ご飯」は雑多な要素のまぜこぜであると同時に何があるかわからないエネルギーの根源のようなものの象徴なのかもしれない。本書は、「洗面器ご飯」を身を以て体験する著者の生活力によって産み出された、活字の力で現在のリアルな中国の一面を伝えてくれる恰好の異文化体験ツールである。願わくば中国の若者の恋愛事情などにもっともっと触れた一編を新たに読んでみたい。(了)
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