パスカルさんのレビュー一覧
投稿者:パスカル
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紙の本ハタチ狂騒曲
2005/04/03 03:17
遅れてきた文学青年☆大貫和☆
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何だろうか…この読後感は…。
著者はハタチの大学三年生という。私は小説通である友人の薦めを聞き、わざわざ取り寄せてこの本を手にした訳だが、これは私にとって例外的な行動で私は滅多に人から薦められて本を買うことはない。だが今回に限ってはこの『ハタチ狂騒曲』なる本を薦める友人の態度が尋常ではなく、まるで自分だけが秘密の楽しみを知り、それを独占しているかのような実に小憎らしい表情を私に対してしてみせたのである。私は彼の表情が物語る真意を確かめずにはいられなくなり、半ば運命的に『ハタチ狂騒曲』の世界へと誘われることとなったのだ。
まずページを開いてみると…ちょっぴりグロテスクな大貫和ワールドの入り口がものものしく佇んでいる。『年上の彼女。あるいはセックスと人生論』『駅とコミュニケーション』『天野と哲学と精神科の三角関係』『風俗大王と文化の性。あるいは単に射精したかった』『オチ。誰だっていつかは骨になる』…などなど。何やら妙に長ったらしい、胡散臭い題名がつらつらと並んでいる。が、しかし不思議と好奇心を刺激されるコトバ群でもある。
…読み始めて一時間弱、気がつくと私はいつのまにやらこの本の最後のページに手をかけていた。読みながら色々な思いが頭に去来していったはずなのだが、読み終えて後は何も考えることが出来ず、ただ呆然と寄る辺ない静寂の銀河に漂っているかのような私。だが、その気分は不思議とカルイ。なぁーだ、世界とか愛とか真実とか、哲学とか青春とか…そんなおっかなびっくりの偉そうな概念が、この本を読み終えた直後、溶け出すように私の心から雲と散り、霧と消えていったのだ。
最後に!! この作品はちょっと異質な私小説のようにも思えるが、否、たいていの読者はそう思うに違いない。しかし私には、どうしてかこの作品が全編にわたって大いなるウソ(虚構)によって構築されているように感じられるのである。誰もやらないようなヘタレ純文学! 悪趣味な青春期のナルシシズム! 変幻する軽佻浮薄な文体! どれをとってもマイナスに捉えられる可能性が高いでしょうが、私はこの若い作家が計算ずくでこれらすべてを体現し表現しているように思えてならない。言うなれば偽善者の反対、偽悪者のような。著者がその若さに任せ、仕掛けた冒険を私は存分に楽しむことができた。決して売れる、万人受けする本ではない。でもある種の人々にとってはとてもスリリングで愉快で感情移入しやすい本であるとも思う。
久しぶりに面白い『文学』を読んだ。
それにしても大した才能だ! 期待してるぜ、大貫和!! byパスカル
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