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柘榴さんのレビュー一覧

投稿者:柘榴

5 件中 1 件~ 5 件を表示

孤独と人間不信をかかえて生きる人へ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 『木枯し紋次郎』の世界に現代を見た。

 木枯し紋次郎は、生きる目的も行く場所もなく、あてもなく諸国を流れ歩く渡世人だ。
 人に貸し借りを作らず、その場限りのつきあいに徹する。頼まれごとをしても積極的に引き受けない。ただ気まぐれに、好きに行動するようにしている。そうすればどんな結末が待っていようとも、裏切られたことにはならないからだ。
 紋次郎の諸国を流浪した目は、一見良い人に見えても、もしくは親切にしてくれても状況によってはそうではなくなることを知っている。骨の髄まで染み込んでいるともいえよう。
 それでも紋次郎は、死ぬまでの時間つぶしと称して一歩引きながら人の間に踏み込んで行く。作中、そうした紋次郎の矛盾した行動が自然に描かれている。

 この紋次郎の行動が自然に思えるのは、ストーリー構成の巧みさだけによるものではない。
 紋次郎の作品世界が、現代社会と酷似しているからだ。

 昨日の敵はきょうの友、現代ではこの逆がよくある。仲良くしていた友が、突然口を聞いてくれなくなる。それはクラスに波及して、一週間も経たぬうちに孤立するといった学校のいじめ。気を許してなんでも話したら、周りに全て言って歩かれた。長年の親友が落ち目になった途端、掌を返すように離れて行く。
 人は自分が一番かわいい。古来、親兄弟ですら争い合ってきたのだ。そのような他人の間のささいな裏切りなど、大したことはないのかもしれない。
 だが、大なり小なり傷は残る。人と接することにおびえてしまうときもあるだろう。
 そんなとき『木枯し紋次郎』を読むといい。
 たいていの人間は紋次郎のように強く、ストイックに生きることはできない。だが、あさましいまでの人の業をまざまざと見せつけられ、信じないと決めながらも、それでも人を求める紋次郎の姿に、その心の内に感じるものがあると思う。

 時代小説を倦厭する向きもあるだろう。だが、ぱきぱきとした文章は読みやすく、推理小説のようなどんでん返しがあり、ラストに紋次郎が常にくわえている長い楊枝を飛ばすシーンが小気味よく、かつ余韻を残す。時代小説を読んでいない人にこそお勧めである。

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紙の本事件当夜は雨

2003/04/07 23:56

安心していると、足下をすくわれるような痛快さ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 息もつかせぬ展開で一気に読ませる小説も良いが、時々アガサ・クリスティの諸作品のような小説が読みたくなる。殺人の犯人探しでありながら、心地よい空気が漂う。それでいて、スリルやサスペンス、驚きもあるという相矛盾した小説を。

 この作品は、どしゃぶりの雨の降る深夜、いきなり訪ねてきた見知らぬ男が果樹園主を銃で撃つところから始まる。調べが進むにつれて、アメリカの小さな田舎町の住人のだれかが犯人である可能性が高まる。町の警察署長の地道な捜査の結果、捕まった犯人は………。
  
 次から次へと事件が起きるわけではない。緊迫感はあるが、スリルやサスペンスもさほどない。しかし、ラストに至りそれまでの全てを覆したような驚きを得ることができる。実に現代的な動機が示される。読み出したら必ず最後まで読むべきである。
 もちろん、最後から読んではならない。この小説の面白さは、警察署長フェローズの地道な捜査にある。
 フェローズは決して人より知力や腕力に優れていないし、悪を憎む心が格別強いわけでもない。しかし彼は、あきらめないし自棄にもならない。捜査が行きづまっても思考の海に陥ることなく、部下と話し合い常に何かを試しゆっくり動く。こんなこと無駄だからやらない、ではなく、一晩中かかって肥料店のぐちゃぐちゃの伝票を整理したりする。
 行きづまったり、今の自分はこのままでいいのかと思ったとき、つい目の前の現実や日常生活をおろそかにしがちである。結果、散らかった部屋の中でますます自己嫌悪におちいるはめになる。一歩一歩後ろを向いても歩けばいい。読後、そんなことを教えてもらったような気がした。

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紙の本マーティン・ドレスラーの夢

2003/01/26 22:16

内的世界を具現化させた男の孤独と再生。そして優しいこの世界

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 読後、陽だまりでうとうとしているような心地よさにおそわれた。
 私には、この物語は己の内的世界を具現化させ、無意識にそこへ他の者も共にひきこもろうとした男の物語、と読めてしかたがなかった。
 男が己の内部の深部へと掘り進めていくように、果てのない地下世界が現われる。夢は次々と現実のものとなる。だが、世界に自分と全く同じ人間が存在しないように、男と全てを分かりあえる者は存在せず、気がつけば男は一人になっていた。
 
 男の夢の世界は、万人の夢だ。この世で一番心地よい場所から一歩も外へ出ず、永遠に夢を見つづける。
 作中、男の夢の集大成である建物の住人が言う。
 「私、ここが本当に好きだわ。世界中ほかのどこにも住みたくない。外へ出たくなければ全然出なくても済むのよ」−−これに対して友人は答えた。「私もここに遊びに来るのは好きだけど、でもねえジュリー、ここに住むのは私には無理だわ。これってあまりに、あまりにーー」。
 たいていの人間は欲張りだ。内的世界の深化、充実には限界がある。いくら満足していても、もしかして他にもっと良い場所があるかもしれないという思いが頭をかすめる。また、そうした欲望があるから、人は世界へ出て行ける。それに、そこにこもっていたくてもそうはさせてくれない現実がある。生きるためには、働かなくてならない。
 アリの出る隙間もないほど完璧な夢の世界を創り上げた男の世界もまた、現実に侵食されていく。男も夢の世界から出て行かねばならなくなる。
 
 私はラストの数ページに夏草の香りをかいだ気がした。新たな夢を紡ぎ出すであろう男と、それを静かに支える世界の優しさに、目頭が熱くなった。

 人と人の距離が近くて遠い世の中に疲れながらも、気力をふりしぼって外へ出て行く人、出て行けなくなってしまった人、そんな人に読んでもらいたいと思う。改行が少なく、見た目は字がびっしりで敬遠してしまうかもしれない。だが、一章一章が短く読み始めると意外にすらすらと読めてしまう。
 できればたくさんの人に、一編の詩を読むように作品世界を感じて欲しい。
 私はすこしだけ自分の属する外世界が素敵だなと思った。

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紙の本GOTH リストカット事件

2003/03/02 23:39

退屈な日常、と思う人へ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 多くの者は、人間が密閉された狭い場所に封じこめられる作品に心惹かれるようだ。古今東西多くの作家が手を変え品を変え密室殺人に挑んでいる。江戸川乱歩は押し絵の中の美女に恋した男を押し絵に封じこめ(『押絵と旅する男』)、京極夏彦は、箱に少女をみっしり詰めてしまう。(『魍魎の匣』)
 もし、この世に「封じ込め文学」「箱文学」なるものがあるのなら、本書の中に収められている「土」は、その正統な系譜を受け継ぐものだと思う。
 
主人公は、人間の暗黒面、異常な事件や実行者に惹かれながら、普通を完璧に装う男子高校生と、暗黒の中に棲むかのごとき森野夜という少女である。本書には、二人が遭遇する暗黒の6つの事件が収められている。
 逆転に次ぐ逆転、鮮やかなオチには驚かされる。だが、本書の魅力は著者にしか出すことができないであろう味にある。
 現代は、価値観等が画一化していると言われている。みんなと同じではないと恥ずかしい、全く同じでもそれはそれできまりが悪い。誰もが、みんなに許容される範囲のものを探している。でも見せることのできない価値観もある。人には決して理解されないだろう、石を投げられるかもしれない、だがどうしようもなく惹かれてしまう。だから、その格好をしているときは、人に会わない。
 著者は、そんな暗黒の中でしか認められない嗜好を持つ者らを繊細に描き出している。 そこに、世間の認める情などなきに等しい主人公の男子高校生のクールな視線が加わったため、情にとらわれべたべたしたところが払拭され、気持ちのよいバランスを保っている。
 私は、人間はもっと命汚いものではないかと思うのだが、作品の空気に触れると納得させられてしまうところもある。これが著者流の愛の形なのかもしれない。
 私は、自分のものの見方が固まっていたような気におそわれた。

 日常が退屈に見えたり、頭が固くなってきた気がする人にはおすすめである。
 特に、「土」のラストの至高の愛の形と、付随する恐怖を多くの人に味わってほしい。

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紙の本七王国の玉座 上

2003/02/19 22:07

磁力を持つ物語

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 読んでいて続きが気になるのに、無慈悲にも視点と舞台が切り替わってしまうことにどれほどもだえ苦しんだことだろう。
 
 季節も人の心も長く厳しい冬へと進みゆく物語の舞台は、王都、スターク家の領地、戦場といった人の営みの中心から、正体明らかならざる異形のもののいる北方、南方の辺境と多岐に渡る。 語り手だけで8人いる。語り手以外にも魅力的な個性の持ち主ばかりで、彼らの行く末が気になってページをめくってしまう。1章1章が約40ページ弱で、必ず引きがあるため、とにかく先が気になる。舞台がかわっても、数行読むうちに作品世界に引き込まれてしまう。

 登場人物がたくさんで、人の名前を覚えていようと思ったら先に進まない。日本人のわたしたちに外国人の名前を覚えるのは難しい。だから、この人誰だっけと思っても読み進めた方がいい。視点がぶれないため、わけがわからなくなることはないと思う。巻末には王国の貴族九家の人々の人々のくわしい紹介もついている。
 とにかく流れにのってどんどん読んでいってほしい。読むうちに物語の魔法にかかり、ラストで良質の推理小説を読み終えたような満足感にひたることができる。
 
 私は、読むうちに作品世界にぐいぐい引き込まれ、いつしか自分も作品の中で遊んでいるような錯覚におちいった。ぜひたくさんの人に、この物語の持つ磁力を体感してもらいたい。
 先が長い物語でありながら、『七王国の玉座』で一応の決着がついているが、やはり次巻が待ち遠しい。次の表紙に誰が描かれるのかも楽しみだ。
 
 

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