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高橋伸児さんのレビュー一覧

投稿者:高橋伸児

4 件中 1 件~ 4 件を表示

音/音楽を再考するための格好の「入門書」

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 耳は閉じることができない——。こんな、ふだん忘れている、いや、突き詰めて考えたこともなかった「事実」から、この本はスタートする。
 そう、誰もが、音/音楽を聞かずに一日を過ごすことはできない。もちろん、その音は、目覚まし時計のそれで始まるわけではない。眠っている間も、新聞がポストに投げ込まれる音や、鳥のさえずりが耳に入っているはずだ(断っておくが、この本には「聴覚障害と音楽」についても言及されていて、音を受容するという行為は健常者だけの特権ではないことを知らされるだろう)。そうした無数の音=音の群と、作品あるいは曲としての音楽——この二つをまた等価なものとして肯定することが、本書のタイトル『サウンド・エシックス』(音楽の倫理)に通じることなのだが——とはいったい何なのかをあらためて「問いかけた」のがこの本なのだ。

 音楽とそれが発せられる「場」、それが聞こえてくる「場」、それを聴く「場」とは何なのか、音楽のプロとアマの違い、音楽と映画やメディア・アートなど視覚芸術との関係を考え、太鼓やダンスなどから身体性と音楽とを論じ、はたまた、生物に内在するリズムと音にまで思考の対象を広げていく。当然、「引用」される音/音楽は、ノンジャンルだ。クラシック、現代音楽、ジャズ、ポピュラー、民族音楽、そして心臓の鼓動から、クジラの「唄」、携帯電話の着メロまで、加えて、小説、詩、マンガ、映画、思想、ダンス、メディアアートから解剖学や経済学までと、その横断的思考=志向には驚かされる。逆にいえば、この本それ自体が、たんなる楽曲分析や、作品/アーチスト紹介になっているいまの音楽をめぐる言説への痛烈な批判になっているといえるだろう。

 ただ、本書を読んだからといって、音楽と音へのイメージの輪郭が鮮明になることなどありえない。著者が最後に強調するように、それには「音を聴く力をつける」しかないからだ。著者にインタビューした際、彼は大学生の教え子たちに「そんなに聞くのをやめなさい」「しっかり何度も聴きなさい」と一見相矛盾することを伝えたい、と話していたが、その意味も、この本を再読するとよくわかる気がする。

 “音楽文化論”を語り続ける著者、小沼純一(1959年生まれ)の「各論」としては、『ピアソラ』『ミニマル・ミュージック』『武満徹 音・ことば・イメージ』のほか、日本在住の音楽家たちを訪ね歩いた『アライヴ・イン・ジャパン』などを勧めておきたい。また、CDショップ「タワー・レコード」に置かれている隔月のフリーペーパー『ミュゼ』(現代音楽、クラシック、ジャズ好きには最良の音楽雑誌!)でも数多くの短評を読むことができる。 (bk1ブックナビゲーター:高橋伸児/雑誌編集者 2001.09.22)

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紙の本バカなヤツらは皆殺し

2000/07/18 09:15

女の子2人、「超快楽主義」のの暴走ぶりが圧倒的迫力!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本の帯にはこうある。
 「キモチよければいいじゃない! 超快楽主義な女ノ子2人が暴走する!」
 宣伝文句として、これは最悪だ。僕なんか、(ひところよりは減ったとはいえ)ガングロ=ナマハゲやらルーズソックスの「超快楽主義」に見える女の子たちを目にしていると、「おまえらキモチよければいいのかよお」とゲンナリしているんだから。だいたい、タイトルだって、聞き慣れた文句だし。これって、bk1、文芸サイト編集長の口癖でしょ。

 でも、原書房から続けて出たフランス若手作家たちの翻訳シリーズの『不器用な愛』『そしてぼくはママの愛人になった』がすこぶる面白く、この『バカな〜』もシリーズの一作とあって、半ば嫌々読みはじめた。で、実際、女の子2人の「超快楽主義」といったら最初は辟易するほどだったのに、だんだんそれがキモチよくなって・・・。
 
 エロビデオとウォークマンが大好きな女の子、ナディーヌ。おじさんたちを相手に出張売春もしている。一方、ドラッグを扱ったりのアブナイ男友だちに囲まれながら、酒とセックス浸りの生活を送るマニュ。物語は最初、そんな彼女たちの生活を交互に追い、後半は、パリで2人が出会って意気投合してからの「皆殺し」の道を描いていくのだが、この2人が知り合ってからの「暴走」ぶりが圧巻だ。ひたすら酒をあおり、バーで男をナンパしてはセックスをし、ところかまわず(としか思えないのだが)人を殺しては車で走り続ける・・・。こんなストーリーとあってか、フランスでは一時、出版停止になったという。

 こうした物語は、レイプしようとした男を殺す羽目になった女性2人が車による逃避行を続ける映画「テルマ&ルイーズ」を思い出させるし、実際、この小説には、死を覚悟した2人が車を走らせながら手をつなぐという、映画からの引用(だろうな)もある。だけど、あの映画が、「日常の鬱屈した生活から解放されようと自由をめざした女の物語」なんていう紋切り型の受け止められ方をずいぶんされてしまったのに対し、この小説にはそんな陳腐な解釈の入る余地はまったくない。ただただ2人は「暴走」するだけだ。現実社会に対する怒りだの日常への疑問だの、彼女たちの行動を読み解くための描写はほとんどないといっていい。マニュが「あたしらに情状酌量の余地なんかないよ」と言うのはまったくその通りだし、逆に、「情状」を読み解こうとした途端にこうした「暴走小説」はつまらなくなる。ひたすら彼女たちの「暴走」に並走するのみだ。

 作者のヴィルジニ・デパントは今年でまだ31歳、フランスで「第2のサガン」とも評され、「パリでレコード店を開き、娼婦やパンク仲間ともつきあいがある」そうだ。この作品がデビュー作で、以後、いくつか書いているが、日本での翻訳はこの1つのみ。若い訳者、稲松三千野さんの訳も、一見なんでもないような文に見えながらも、物語の疾走感にふさわしいヴィヴィッドな文体とワイルドな台詞まわしがいい。ここはデパントの新しい訳書を期待して待とう。 (bk1ブックナビゲーター:高橋伸児/編集者 2000.07.17)

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物件を売買する時は、この本持参で不動産屋に行くべし!

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 先日、ある不動産仲介業者の営業所長に話をうかがう機会があったのだが、「特に中高年のお客さんは、不動産業者に抜きがたい不信感をもっている、というか、まあ、業者のことを、人を騙してカネをせしめる千三つ屋ごときものと思っているんですよ」と半ばあきれた口調で話していた。それを聞いて、「『千三つ屋』とは、近頃聞かない言葉ですね、時代劇みたいじゃないですか」なんて、大笑いしてしまったのだが、「千三つ」とは言わないまでも、不動産業者にいまだにどこか怪し気なイメージを抱いている人は少なくない。ところが、たいがいの場合、不動産売買をする段になると、営業マンのなすがまま、というのが実際のところではないだろうか。

 本書はまず、マンション価格の決まり方の説明から始まり、さらに、「完売」「先着順」「公庫付き」という「業界用語の真意」、新築マンションの「青田売り」の危うさ、はたまた、ニセ不動産屋の見分け方、手抜き工事のやり方とそのあばき方、ハズレ業者の撃退法、マンション管理の実体と対策等々、微に入り細に入り、豊富な事例(これがめっぽう面白いのだ)をもとに「不動産営業マンに負けない」ためのノウハウを次々と提案していく。

 しかし一方で著者は、「一部の業界関係者の質の低さに責を求めては何も始まらない」とし、法律の不備とともに、客に対して「せめてもう少し不動産についても営業マンに対しても選別できる目をやしなってもらわないと」と注文をつける。不動産の取り引きに関する法律はもちろん、自分の買いたい、売りたい「商品」に対する基礎的な知識についても、客の側は何も知らないのも同然だからだ(「重要事項説明」の何たるかを理解している人がどれだけいるだろう)。不動産屋を訪れる客は、その多くが「初心者」なのである。

 著者の稲葉なおとは、建築プロデューサー、一級建築士。マンションや一戸建ての企画、設計に携わってきただけに、不動産実務の現場の空気を知り、業界内部に知人も多い。不動産屋の手口なり、それに対抗してうまく立ち回った客の事例が専門的かつ説得力をもって紹介されているため、たんなるハウツー本ではなく、家を売買するときの格好のテキストになっている。すでに買う(売る)のを済ませてしまった人も、本書を読むと、当時の己の無知さ加減に気づかされ、地団駄を踏むことになるはずだ。 (bk1ブックナビゲーター:高橋伸児/雑誌記者、編集者 2001.04.19)

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プロ野球選手たちの甲子園での成績を徹底紹介したマニア垂涎の本

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 オタクが創った本というのは楽しい。生活の実用には何の役にも立たない、ただただ眺めているだけで時間を忘れることのできる本。最近、実用性(=実用情報)がないと雑誌は売れないなんて散々聞かされてうんざりしている僕(=編集者)としては、こんな本を見つけると素直に嬉しい。

 ここ数年、夏の甲子園大会を連日取材しているのだけど、試合で、あるいは取材で印象に残った選手がプロでどうなったか、というのはすごく気になる。それも、松坂大輔のようなスターではなく、入団してまだ数年、プロで芽が出るのか出ないのか、といったクラスの選手たちだ。だから、スポーツ新聞の二軍戦のテーブルをときどきチェックして、「おおっ、五番でヒットをニ本も!」なんて安心したり、お目当ての名前が見つからないと、「まだ二年目だしな」なんて無理に自分を納得させたりもしている。

 もちろん僕みたいな立場にいなくたって、野球ファンなら、あの選手は甲子園でどうだったか、なんてたまに気になったりするものだろう。

 さて、この本は、現在プロ野球に在籍している選手のなかから、春夏の甲子園大会に出場したことのある選手をすべてピックアップし、その甲子園での戦暦を逐一紹介するという、まさに正真正銘のオタク本で、野手であれば全打席の成績、投手であれば投球数にいたるまで、とにかく甲子園で何を残したのか、漏らさず記録しているのだ。

 ピックアップされた選手は全部で約320人。1999年のドラフトで入団した選手まで入っているから、昨夏の優勝投手、正田樹(桐生第一から日本ハム)も当然入っているし、松坂大輔(西武)の春夏連続優勝の投球を辿ることもできる。

 だが、ここで面白いのは、いまでこそプロ野球で活躍しているけど、甲子園ではまったく目立たなかった選手を見つけることだ。たとえば、今シーズン、ホームランを量産してタイトル争いを独走、シドニー五輪でも四番候補、と注目されている中村紀洋(近鉄)。彼なんか、大阪・渋谷高校時代、二年生ながら四番を打っていたところに片鱗を感じるものの、三振、右飛、中飛、一邪飛の4タコに加え、エラーまでして一回戦で消えているのだ。しかも、本人のコメントなどは載せずに、ただ結果と数10字の選評だけが無造作に並べてられているのだが、これも逆に、妙な叙情性があっていい。松坂なんぞの傑出ぶりを再確認することよりも、こうした「意外性」を見つけることに、この本の醍醐味があるような気がする。まあ、甲子園での苦戦と現在の活躍を比較して、「甲子園での悔しさや教訓をプロで生かしている」などと「紋切り型」の受け止め方をするのも自由、ただ気になっている選手の過去を興味本位に渉猟するのも自由だ。

 ともあれ、こんな本をいくらめくっていても、当然、何の役にも立たない。この「無用の用」こそ読書の喜び。ただ、肝心の編者・恒川直俊氏がまったく紹介されていないのはなぜなのだろう? インターネットで過去の著作を調べてみたが、これも見つからなかった。いずれにしても、こういうオタクはまた奇想天外な本を創るのだろうが。 (bk1ブックナビゲーター:高橋伸児/編集者 2000.07.17)

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