片倉さとしさんのレビュー一覧
投稿者:片倉さとし
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紙の本西丸式山遊記
2000/11/08 17:33
道なき道を進もう!西丸式山遊び
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西丸震哉の名を聞いて、私が真っ先に思い浮かべるのは「ウジ虫デンブ」のエピソードである。戦後間もない食糧難の時代、東北の水産試験場に勤めていた西丸は、蠅の幼虫(つまりウジ虫)を原料にデンブ(田麩)をつくる方法を開発した。視察に来た地元の市長に、それを何食わぬ顔で食べさせてしまったという。そんな痛快な人物が書いた山の書だから、ユニークに決まっている。人が登るようなルートからすぐに道を外れて、ヤブをかき分け尾根を登り地図にも記載されていない池を発見したり、スキーで未踏の谷を滑り落ちたりする。それどころか、ストーリー自体が寄り道の連続で、いったい山の話は何割ほどなのだろうか。食生態学者、登山家、探検家、農民運動家、小説家、画家、音楽家……。枠にはめることのできないアウトローだけにけっして相応の評価は得ていないようだが、この西丸震哉という人物、ひょっとしたら天才なのではないかと私は思っている。西丸ワールドの入門書としては最適な一冊だろう。
紙の本武蔵野ものがたり
2000/11/08 17:14
下町でもない、山の手でもない、もうひとつの東京ものがたり
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もうずいぶん前の話になるが、東京は福生市にある田村酒造という酒蔵に電話で取材をしたことがあった。電話口に出たご主人と思われる人物は、「多摩の山々にしみた水がこのあたりに集まり、よい清水が湧くのです」と、折り目正しい口調で答えてくださった。その田村家が、当地に代々続く名家であることを、この本を読んで初めて知った。著者である三浦朱門は、少年から青年にかけて多感な時代を武蔵野で過ごしてきた。その体験と、府立二中(現立川高校)の同窓生たちの話などをまとめたのが本書である。武蔵野の伸びやかな風景ばかりでなく、代々この地で暮らしてきた、したたかで剛毅な人々の横顔を垣間見ることができて楽しい。私自身、武蔵野で生まれ育ったためについついこの手の本には興味をそそられてしまうのだが、東京という巨大都市のひとつの歴史として読んでみても面白いのではないか。
本書は、下町でもない、山の手でもない、もうひとつの東京ものがたりである。
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