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藤井正史さんのレビュー一覧

投稿者:藤井正史

33 件中 31 件~ 33 件を表示

紙の本小説「聖書」 使徒行伝

2000/09/14 18:43

パウロ--"ユダヤ教ナザレのイエス派"を、"キリスト教"として確立させた使徒

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 八百万の神々と諸仏が共存している日本では、唯一絶対の神を奉じる「一神教」の概念はあまり馴染みがない。しかし、わが国を除く先進国の価値観は、キリスト教を背景に成り立っている。また、アメリカ合衆国の政策に大きな影響力を持つユダヤ教(ユダヤ人社会)や、アジアを中心に拡がり既に世界最大の宗教になったとされるイスラム教も、神との契約が違うだけで同じ唯一神を信仰している。現代社会の様々な事象を理解するためにも「一神教」の思想を知ることは欠かせないが、その際優れた参考書となるのは、世界で最も読まれている「聖書」に他ならない。

 『小説「聖書」』は膨大な聖書の物語を三部作の小説に仕立てた著作として、日本でも大きな反響を呼んだ。著者ワンゲリンは『旧約編』『新約編』に続くシリーズ完結編にあたる本作で、新約聖書の『使徒行伝』と手紙類から、パウロを中心にイエス昇天後の人々の信仰と伝道する姿を描いている。

 ユダヤ人として生まれた預言者イエスは、律法を形骸化した祭司、主流派の教条主義者を批判し、異邦人にも教えを説いて癒しをもたらす改革者だった。しかし、このイエスの教えと行動の解釈の違いから律法をめぐって弟子たちに分裂が起こる。

 エルサレムでユダヤ教主流派と対峙する緊張の中、選民思想・律法・割礼などユダヤ教伝統の上に、イエスの教えを守っているヤコブ。はじめは迫害する側だったが、イエスの啓示を受けて回心し、ギリシア・小アジア・マケドニア方面へと伝道へ向かい、律法にとらわれず異邦人たちにイエスの教えを説いて各地に教会を設立するパウ
ロ。ヤコブは愚直さで尊敬を集める生真面目な男。パウロは小さく外股で不格好な風貌だが、救いを説く声で魅了する熱情家。この二人の対立軸を中心に、長い年月を経て弟子たちは年を重ねていく。ローマ皇帝ネロの成長と母殺しのサイドストーリーも絡み、最後の舞台はローマへ。

イエスの十字架の横木を運び、最期の瞬間に立ち会ったシメオンの語りや、ペトロとヤコブの処刑前夜の淡々した雰囲気は印象深い。血なまぐさい迫害の中、まっすぐに信仰の道を歩む女性プリスカの豊かな感情が救いとなっている。人間関係の難しさや、傷つきやすい心の動きを細かく追っているので、キリスト教の教義に興味がない人でも古典を題材にした小説として楽しめるだろう。(藤井正史/ライター)

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紙の本わたしの愛したインド

2000/09/11 17:13

「私の世界は死んだ」インドの核兵器開発と巨大ダム建設の狂気を暴く

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 小説第1作『小さきものたちの神』(1997年)で、英国最高の文学賞であるブッカー賞を受賞したアルンダティ・ロイ。1961年インドで生まれ、映画の脚本などを手がけていた彼女は、これにより世界的な名声を得る。しかし、インドの誇りと賞賛される中で彼女の発した言葉は、自らの身を危険にさらす覚悟を必要とした。支配者たちの偽善を暴く抗議の書だったからだ。

 1998年5月、インド・パキスタン両国の核実験に対して、7月に雑誌へ発表した『想像力の終わり』。1999年2月、インド最高裁がナルマダ川に建設中のサルダル・サロバルダム建設延期命令を解除したとのニュースに対し、現地を視察後、6月に雑誌上で発表した『公益の名のもとに』。この二つを収めて本書は出版された。

 1つのニュースから見えてくる、インド(そして世界)を覆っているおぞましいシステム。圧倒的な力は、小さく雑多なものを押しつぶし、一極支配を強めている。調べていくにつれ明らかになったのは、人々の生活と文化を破壊するダム建設・開発援助受け入れと、卑屈な自尊心を煽るための核兵器開発という同根の病である。核爆弾でロシアンルーレットをしている世界秩序へ参加したのだ。愛するものすべてを一瞬にして滅ぼす核のボタンを誰が押さないと信用できるのか。なぜ信用しなければならないのか。また、巨大なダム建設に隠された、ヒンドゥー至上主義支配層の明確な意志。土地や水も奪い、独占しようとする暴力。立ち退かされる人々は少なくとも5000万人(パレスチナ難民の10倍)、その60%を先住民、被差別民が占める。狙い打ちされた結果だ。

 インド最大級の河川流域の環境を変えるダム建設への抵抗運動は20年以上続いているが、強者と弱者の関係は変わらない。積極的な融資でインドを借金漬けにする世界銀行と、国を売り渡す権力者たち。進められる核実験とダム建設、そして、追放され消え去る人々。「この国は誰のものだろう」彼女は嘆いても絶望はしない。奪われた世界を取り戻すためには「ナルマダ川から始めればいい」。

 日本は援助大国として途上国の社会構造の変化に深く関わる。また、アメリカが先導するグローバリゼーションという、奪い奪われるシステムを受け入れ、その輸出にも加担している。国内でも公共投資見直しの時期を迎えた現在、私たちが日本の在り方を再検証するつもりなら、彼女が愛するインドへ投げつけた怒りから目をそらすことはできないはずだ。 (藤井正史/ライター)

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真理へと近づくさまざまな実験を重ねたマハートマーの実像!

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 非暴力主義で民衆を導き、大英帝国から独立を勝ちとったインド建国の父、マハートマー(「偉大なる魂」の意)・ガーンディー。これが大半の日本人が持っているイメージだろう。精神的指導者・禁欲的な聖者としての生き方を理想的に取り上げられる一方、現在は政治家としての功罪を厳しく批判されることもある。
 モーハンダース・カラムチャンド・ガーンディーは1869年 インドに生まれ、イギリスへ留学して弁護士となり、1893年 南アフリカに渡る。ここでの厳しい体験がイギリス仕込みの紳士を一変させる。インド人労働者を組織化し、差別虐待に対して非暴力による抵抗運動を始める。1915年インドに帰国。その後、国民会議派の指導者となり、不可触民への差別に反対し、何度も投獄されながら非協力運動を続ける。ヒンドゥー、イスラーム両教徒の協和を訴え、幾度もの断食を行うが、願いも虚しくパキスタンとの分離独立となり、1948年ヒンドゥー教狂信者によって暗殺された。
 この激しい歴史の流れのなかをガーンディーは何を考えどう実行していったのか。『自叙伝』は、ガーンディーが自ら発行する週刊誌「ナヴァジーヴァン」において、1925〜29年、彼の母語、グジャラーティー語で連載されたものだ。後に知識層向けに編纂された英訳版からの重訳とは違い、ガーンディーの肉声が残されたオリジナル本からの本邦初訳である。
 副題の「真理へと近づくさまざまな実験」とは、不服従・非協力のサッティーヤグラハ運動・ブラフマチャルヤ(性に関する禁欲)・菜食主義など、自ら真理を求めて実生活で試みたものだ。
 少年期の思い出、13歳での結婚、若き日の挫折、性欲の悩みや子供たちの教育法。インドの習俗など何事も具体的に書かれ面白いエピソードにあふれている。イギリス留学時代、ガーンディーは英国紳士を目指してシルクハットを着用し、ダンスやバイオリンを習い、毎日鏡の前でおよそ10分間ブラシで髪を整えていた。弁護士になっても法廷では上手く話せない。インドへ帰国後、多くの人を前にした演説では震えが止まらず頭がくらくらしてしまう。彼は決して生まれながらの偉人でも聖者でもなかった。
 イギリスに対する非協力運動を展開する渦中にあって、ガーンディーは「…この面白い話は、さあ、後で。」と親しみを込め、矛盾と迷いに満ちた自らの生きざまを読者に語りかける。
 絶望的な逆境に耐えつつ、生きる姿勢とユーモアで人々を惹きつけていったガーンディー。真理に近づこうと歩きつづけたマハートマーの生涯に、現代の読者もまた圧倒されることだろう。
(藤井正史/ライター)

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