久本福子さんのレビュー一覧
投稿者:久本福子
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紙の本原理 NAM
2000/12/09 13:25
年来の読者にとっては既視感とある種の戸惑いを覚えずにいられない内容
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柄谷氏の『原理』はその名のとおり、資本主義のメカニズムを原理的に明らかにしたものです。柄谷氏の初見読者には新鮮な印象を与えるであろうことは間違いないと思いますが、年来の読者にとっては既視感とある種の戸惑いを覚えずにいられない内容です。『群像』で連載された「トランスクリティーク」、同連載の一部を収録して編まれた『可能なるコミュニズム』、あるいは『批評空間』でくりかえし論じられた内容と大差ないということ、さらに同論考群の核になっているのが、30年近く前に書かれた『マルクスその可能性の中心』だからです。
ではなぜご当人の書かれたものだとはいえ、旧著『マルクス』がリバイバルしたのでしょう。実は私はその秘密の一端を明らかにした『柄谷行人論』という本を、7月に出版しました。自分で設立した出版社エディター・ショップから出したのですが、なぜわざわざ会社までつくって本を出したのかは、本書をぜひお読みいただきたいと思います。今ここで申し上げたいのは、柄谷氏のマルクス「回帰」と私の「柄谷論」との関係です。
私の本は理論編と実践編に分かれていますが、本編にあたる理論編は、柄谷氏の思考の骨格がマルクスにあることを、氏の論考から析出したものです。そしてその思考の形を「動的な原理性」と命名しました。原理的であるがゆえに持ちうる思考の普遍性は、いろいろな問題に応用可能であるという意味です。
柄谷氏はこの原稿を本になる以前から読んでおられます。私がファンレター代わりに柄谷氏に送ったからです。さらにこの原稿執筆の2年ほど前にも、本稿の原型にあたる「柄谷論」を10枚ほど書いています。この原稿も日の目を見なかったのですが、ここでも柄谷氏の思考の特質をマルクスにみています。
文芸評論家としての枠をはみ出しはじめた柄谷氏のここ数年の動きは,私の「柄谷論」がきっかけになっていると自負しておりますが、NAMにまで至ると熱烈なファンであった私も強い戸惑いを覚えてしまいます。正直な
ところ子供のお遊び,組織ごっこという感じがします。
明らかに組織拡大のために出された『原理』は,目的に奉仕させられた拙速本との印象は否めません。第一、この本はほんとうに柄谷氏の著書だといえるのでしょうか。
(エディター・ショップ有限会社/久本福子)
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