但馬オサムさんのレビュー一覧
投稿者:但馬オサム
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紙の本アトムキャット
2001/08/17 15:28
異色の『鉄腕アトム』番外編
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マンガ好きの少年・つぎ夫くんが、ひょんなことから子猫を拾う。耳が黒くて鉄腕アトムに似ていることから「アトム」と名付けられた子猫は、つぎ夫くんともども、地球旅行中の宇宙人夫妻が運転する車にはねられてしまう。衝突のショックで即死のアトム。
責任を感じた宇宙人夫妻は、失神したつぎ夫くんの記憶をもとにアトムに改造手術を施すのだが、鉄腕アトムのイメージが混線していたために、アトムは10万馬力で空を飛ぶスーパーキャットに生まれかわってしまう。つぎ夫くんとアトムの活躍が始まった!
『鉄腕アトム』の番外編はいくつかあるが、その中でも異色な作品。見方によっては晩年の手塚が『ドラえもん』や『E・T』のブームをちょっぴり意識したのかな、そんな印象も受ける。宇宙人夫妻の名前がチャールズとダイアナ、いじめっ子の名前がカダフィというのも手塚らしい時事ネタということで(笑)。
第1回の冒頭が、『アトム』第1話(トビオのエピソード)の80年代版リメイクというのは本家アトム・ファンに対するサービスということでしょうか。それにしても手塚は生前、アトム第1話を何度描き直したことだろう。
2002/02/12 22:15
事実上の一番弟子による、特撮の神様・円谷英二の肖像
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筆者・うしおそうじは手塚治虫と同期で、人気を二分した児童マンガ家であり、また『マグマ大使』や『スペクトルマン』といった特撮ドラマの制作で知られるピープロダクションの社長さん。近年はもっぱら映像文化の語り部として良質のエッセイを数多く発表している才人である。
その筆者と円谷英二との出会いは戦前の東宝特技課時代に遡る。同課の線画室にアニメーターとして入社した十七歳のうしお少年は、名ばかりの課長職を与えられ、直属の部下もなく、トリック技術の開発研究に孤軍奮闘する円谷を不憫に思い、部署の違いを越えて私設助手を買って出る。いわば、円谷英二の事実上の一番弟子であるのだ。
本書は「円谷英二伝」でありながら、ゴジラもウルトラマンも登場しない。特殊技術のテクニックのについての記述も驚くほど少ない。むしろ、多くページを割いて描かれるのは”世界のツブラヤ“以前の円谷(本名・英一)、の肖像である。そのため、数多く出版されている円谷英二関連の書籍の中にあって地味な印象を受けるのは否めない。だが、その不遇時代の円谷と多くの時間を共有した筆者だからこそ知りえるエピソードが数多く紹介されている点で、やはり貴重な一冊と言えよう。特に戦中、国民の戦意高揚のための国策娯楽映画、あるいは兵士育成のための教材映画作りに、東宝特技課がいかなる役割を果たしてきたか、当事者の一人としての証言が生々しい。実際、円谷はそれがために戦後の一時期、戦争協力者のレッテルを貼られ映画制作の場から追われるのである。
幼くしての父母との別れ、飛行機乗りへの夢と挫折、新天地・東宝でのカメラマン仲間からの不当なつまはじき、そして公職追放と、円谷の生涯の実に半分は、不遇の連続であった。だが同時にこの巨人は、いかなる逆境にあっても、研究と創意工夫を忘れない努力の人でもあった、と本書は教えてくれるのだ。(bk1ブックナビゲーター:但馬オサム/ライター)
2001/08/17 15:17
再び『神曲』の世界に
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『魔王ダンテ』『デビルマン』そして『デビルマンレディー』、いわゆる永井豪の悪魔三部作の原風景には、作者が少年の頃に読んだダンテの『神曲』があった。
ダンテは14世紀イタリアの詩人で政治家。政治的陰謀で故郷フィレンツェを追われた彼は諸国を流浪しながらライフワークともいえる『神曲』を書き上げた。『神曲』は、ダンテが師ヴィルギリウスに導かれ冥界を旅する物語で、キリスト教神学をベースに据えながら、ローマ神話、ギリシャ神話のモチーフまで自在に織り込んだ一大叙事詩。特に地獄編で描かれる責め苦の数々は、宗教絵画を初めとして後世のマエスト
ロの仕事に多大な影響を与えたという。
本書は、かつてマンガ版『ダンテ 神曲』を完成させた永井豪が、再び『神曲』の世界にアプローチした一冊である。基本的に活字本なのだが、「永井豪『神曲』を語りき」といった構成をとり、平素な言葉で解説されているのでたいへんわかりやすく、入門書としても手頃。清濁あわせもつ人間ダンテを読み解こうとする視点に、永井氏の人間肯定ぶりが伺い知れて好感なのです。
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