八幡イチローさんのレビュー一覧
投稿者:八幡イチロー
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2003/07/15 20:53
変動する世界と日本の関わりを考察
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本書は題名の示すとおり、江戸時代においてナポレオンとその覇業に関する情報がどのように受容されたかを研究するものである。だがそれだけに留まらず、西洋列強の進出する世界と鎖国日本との関わりを広く考察する内容になっている(なお、一般的に使われる「鎖国」という呼称が正しいか、という考察もこの本でなされている)。文章は平易でありながら、豊富な史料を駆使した詳細な研究がなされており、読者は自分の知らない江戸時代の側面が次々と明かされてゆく様に知的興奮を禁じえないであろう。本書の内容を簡単に要約すると次のようになる。
1 江戸幕府はオランダ、中国、朝鮮とだけ貿易していた。オランダがナポレオンに征服されたとき、幕府はそれを知らなかったために様々な事件(フェートン号事件など)が発生した。
2 ナポレオンの存在がロシア経由で初めて日本人に認知されたのが1813年、一般に知れ渡ったのが頼山陽がナポレオンの詩を詠んだ1818年である。ナポレオンの最晩年である。それまでオランダ領事館はナポレオンの存在自体をひた隠しにしていた。
3 西洋砲術を導入した高島秋帆、蘭学者箕作阮甫、吉田松陰の師佐久間象山らによってナポレオンは研究され続け、幕末維新イデオロギーの形成に一役買った。また、幕府にも将軍徳川慶喜をはじめナポレオン崇拝者は多く、幕府の親フランス政策に影響している。
幕府はナポレオンの存在自体を知らず、その名を日本人に知らせたのは在野の学者たちであった。それもナポレオンが既にセントヘレナに流され余命いくばくもない時であったというのが、鎖国日本の悲しさを思わせる。しかしナポレオンによるヨーロッパの戦術の変化(砲兵の活用)、自由主義の高揚、国際情勢の変化などはナポレオン研究家たちによって徐々に明かされていき、それが物理的にも精神的にも幕末維新の原動力に結びついていったのである。「世界の中の日本」を考えるに当たって重要な一冊。
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