こみさんのレビュー一覧
投稿者:こみ
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紙の本約束の地
2003/08/08 15:27
古く新しい物語
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どこか古い、でもどこか新しい。
平谷美樹とはそういう作家であるように思える。
平谷美樹は基本的に直球勝負の作家だ。だが直球勝負を挑んでくる作家で、今これほどの直球を投げられる作家はほとんどいない。逆に一回りして新鮮に思えてくるほどである。
この作品も、直球ど真ん中という感じの超能力モノのSFだ。
超能力モノのSFなどというと、少し陳腐な印象を受けるかもしれない。実際、迫害を受ける超能力者という設定はもちろん、超能力というガジェットそのものがすでに古典的と言って良い。けれどこの作品は古典的なにおいを漂わせつつもそれに留まらない。
超能力者一人一人に焦点を当てていく形で構成された前半部は、次第に緊迫感を孕んでいく。
後半部で展開される非常に派手で映像的な超能力バトルは圧巻。
特に後半部。超能力バトルもさることながら、それぞれの立場、それぞれの思いには心を動かされるものがある。
自分たちの安住の地を求める超能力者たち。強大な超能力者に恐れを抱く超能力を持たない者たち。そして超能力者たちに協力し、軍を相手に立ち向かう寒村の老人たち。特に老人たちの姿にはなんとも言えない切なさを感じた。
この小説の古さはあくまでガジェットや設定のテイストだけである。作者はあくまでも今の感覚で話を作っている。一人一人に焦点を当てていく前半部の構成などは昔ではありえないものだ。
昔の小説の良さも、今の小説の良さも持っている。だからこそ面白い。そういう話である。
この小説は、今、平谷美樹だからこそ書ける、平谷美樹にしか書けない傑作なのではないだろうか。
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