むしさんのレビュー一覧
投稿者:むし
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紙の本幻世の祈り
2004/08/05 01:25
既成の家族像の崩壊
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普通の家族という幻想を持つことは悪いことではないと思う。ただ、その幻想が、えてして自らの家族の現実から目を背けさせ、外の形ばかりが幻想に近づき、結局のところその幻想が家庭を押しつぶしてしまう。
この物語はそんな既成の家族像による家族の崩壊を描いている。かつて実際に起きた「失敗作」の子供を「作者」たる親が殺す事件。または「失敗作」がその「作者」を殺す事件。いくつかあったその種の事件を多角的に描いているのがこの作品といえよう。
殺す側がいればもちろん殺される側がいて、そのどちらも幸福な家庭を求めていたはずなのだが、それは少しずつ少しずつずれていって。最後には片方が片方を殺すといった結末を迎える。
このような事件の背景には核家族化や地域社会の崩壊、個人主義の台頭、受験戦争など様々な理由があるとされてきた。
しかし本当の問題はそこにあるのだろうか。「普通の家族」あるいは「幸福な家族」といった幻想にばかり目を向けていて、目の前にいる自らの家族が求めているものに気づかなかった、そこにこそ悲劇の本質はあるのではないだろうか。
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