モンキーマンさんのレビュー一覧
投稿者:モンキーマン
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紙の本シンセミア 上
2004/01/15 00:14
疑念を持つべき読後感
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果たして『シンセミア』は傑作長編なのだろうか? 800ページを読み終えて、そこに残るのはある種の爽快感である。台風が過ぎた後の様な、無駄と思える位の碧空が広がっているような感じである。今までの阿部和重の作品が読書後に残す陰鬱な思索はもう必要がない。その点において、『シンセミア』はこれまでの阿部和重作品と一線を画したものである。だから、今までのような読書後の陰鬱な思索を期待していた人たちにとっては期待外れになってしまっているのかもしれない。
しかし、それだけで評価を下すのは余りにも早い。今まで以上に、登場人物の多くが直感的かつ暴力的であり、ストーリーの展開と共に常軌を逸してゆく。そして、男/女、老人/若造、人間/自然、親/子、他人/友人という様々な二項対立が繰り広げられて巻き込まれていく。にもかかわらず、痛々しいはずの文章が疼きもしない。登場人物も私たち読者の視点も、その時点においては真剣であり熟慮を伴っていたからである。その切実なまでの熟慮が冒頭に述べた爽快感を導き出す。現代人の冷め切った熟慮が心地よく感じられる小説である。それこそが『シンセミア』の大きな魅力でないだろうか? 本文中に出てくるような阿部和重に読者が引きずられていけば、さらに魅力を感じ取れると私は思っている。
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