パンデの安さんのレビュー一覧
投稿者:パンデの安
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2004/02/07 00:52
今すぐにひもとく新型インフルエンザ対策のバイブル
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
狂牛病が恐くて牛肉を控えているあなた。もしかしたらこの焼き鳥にインフルエンザウイルスが付いていないかと不安になったあなた。どれも間違いです。恐がらなくてもよいものを恐がっているのです。あなたがこのノンフィクションをひもとけば、すぐに偽りの恐れから真の恐れへベクトルの向きを変え、そして力強く太い線を引き直すことでしょう。生き延びるために。
悪性のかぜをインフルエンザと言う人がいますが当たらずとも遠からずです。では悪性のインフルエンザは何というか知っていますか? ……法律では『新型インフルエンザ』ということになっています。これらの病気をたとえで言うと震度がイメージ的にフィットします。普通の鼻風邪、のど風邪は震度3、毎年はやるインフルエンザは震度4、そして忘れられたパンデミックは震度5や6や7にあたるのです。いつ起きるか解らないがかならず起きるパンデミック・インフルエンザは同時に震度が5で来るのか7に達するのかも起きてみなければ解りません。20世紀には3度おきました。この本に欠かれているスパニッシュ・インフルエンザはアメリカ合衆国生まれの震度7で20億人の世界人口の2%の4000万人を一気に地獄に落としました。1957年のアジアン・インフルエンザは200万人が死んだ震度6の中国を震源とするパンデミックでした。震度5の1968年の香港・インフルエンザは50万人がその年で死に、いまだに生き延びている小悪魔で去年の日本では合併症で1万人が餌食になりました。
そして2004年。ベトナムで見え始めた悪魔の炎は100年に3度以上必ず来るパンデミックになるのでしょうか? 来れば震度はいくつになるのでしょうか? 地震がなぜ感覚的に恐怖と結びつくかは説明がつきます。地震の恐さは最初の揺れの時に集約できます。「来た! これから激震がくるのではなかろうか、そしたら死ぬのではなかろうか…」この近未来に対する死に対する恐怖心がすべてなのです。これが不揮発性メモリーとなって防災行動に走らせるのです。ですから震度5より遙かにゆれているジェットコースターを真に恐いと感じているひとはいないでしょう。死の恐怖が凝縮された一瞬の体験が日本人の共有感覚になっているのです。
一方、百年に数回かならず襲ってくるパンデミック・インフルエンザ(新型インフルエンザ)は死の恐怖が共有されにくい災害です。熱を出して寝込む日常生活で、これはかぜ、これはインフルエンザ、そしてこれはパンデミック・インフルエンザと分けて感じとり、説明するひとはいません。たとえパンデミック・インフルエンザにかかっても死ぬとは思っていないはずだからです。数日響く死の足音はもうろうとしたなかでの夢の出来事であり、全神経を集中して身構える一瞬の地震とは異質の恐怖なのです。
だから人類はこれほどの人的被害を出しても忘れることができるのです。そういった恐怖回路が組み込まれているのです。ですから疫病が歴史に爪痕を残すためには死者が人口の3割以上でなければならないのです。すなわち家族にかならず犠牲者がでる頻度に達しなければ、語り伝えられないのです。人の死には重さがある。インフルエンザの死は大変軽いのです。私の場合この本から得られた一番の収穫はここにありました。
さて、この本の最大の活用法はパンデミック対策のイロハからxyzが網羅されていることです。答えを一つだけ述べれば「献身」すなわち命を懸けたボランティアの存在が助かる人を助けたのです。
私も含めて現代日本人はインフルエンザと戦う術を知っています。ただ皆の恐怖心が足りず、想像する力も少なく、そしてドンキホーテが出現しなかったために「特効薬」を買うお金を工面することを面倒がってしましました。その結果我々は21世紀最初の犬死にさせられる世代になるでしょう。多分。
それでも道はあります。この本の中に。
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