yuriさんのレビュー一覧
投稿者:yuri
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紙の本神様のボート
2004/03/21 01:52
狂おしいほどの愛
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消えない愛、心の中にずっと残る愛。忘れられない恋をしたことがある人にとっては、母・葉子の気持ちが痛いほど伝わる話である。
母・葉子と娘・草子は「神様のボート」に乗って、街から街へ引っ越しを繰り返す。心の中に草子の父であり、葉子の恋人の“パパ”が現れるのを信じて。いつか現れる、必ず戻ってくると半ば狂気のように信じ続ける葉子の孤独な悲しみが切ないくらい伝わってくるような小説だ。
母と娘の二人のそれぞれの視点から物語がすすんでいく。母、葉子が語る場面では大人びた豊かな表現方法が使われているが、一方、娘が語る場面で小学生のような文章に突然変わる。母から見た景色と娘から見た景色がみごとに絡み合い、物語を一層豊かで面白みのあるものにしている。かつて、「冷静と情熱のあいだ」で辻仁成とタッグを組んで、女性からの視点をものの見事に表現した江国香織の作品を思い出させる。今回はひとつの小説の中に母から、娘からの二つの視点で同じ場面を描くというむずかしい方法をとり、1人二役を見事に演じる。江国氏のこの主人公を二人置いて進められる小説方法は、ホモの夫と精神病を持つ妻の話「きらきらひかる」でもとられており、一種の彼女の特徴といえよう。かなり独特で面白みのある作法だ。
好きな人がずっと心の中にいて、それを信じて生きていくことのすばらしさ、大切さを教えられた気分になった。現在では携帯電話が発達し、簡単にコミュニケーションができ、Easyな恋愛も多い中、1人を愛していくこと、「純愛」のすばらしさをしみじみ実感できる作品でもあろう。
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