Ryosuke Nishidaさんのレビュー一覧
投稿者:Ryosuke Nishida
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紙の本国境の南、太陽の西
2004/06/28 01:09
取り戻したものは、失ったものなのか?
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大ヒットした長編小説『ノルウェイの森』に繋がる、「僕」一人称で書かれる村上春樹が半自伝に見せて仕掛ける長編。小説としての完成度、構造の多重さは『ノルウェイの森』に譲るが、むしろ、「僕」の内面に焦点を絞って淡々と物語に長い時間が流れる本作のほうを好む人も多いのではないだろうか。喪失と再生がテーマ。失ったものを取り戻したように見えるとき、果たして今、掌の内側にある「それ」は本当に「失ったもの」そのものだろうか。いろんなものをなくした人、なくしかけている人、取り戻そうとしている人にお勧め。
2004/06/28 01:49
「もてる/もてない」を越えたとき見えてくるもの。
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もてない男とは、評者のことを指す…ではなくて、「もてないというのは恥ずべきことではない」をモットーに東京大学大学院比較文化専攻博士課程を経て、ブリティッシュコロンビア大で学術博士を取得した筆者が古今東西の媒体から引用して、もてない男の文化論を展開する。残念ながら、これを読んでももてる男にはならない。ジェンダー論の一種、男性学の一形態を論じていると思えば良い。しかし、世の中、評者の他にも、もてない男は思いのほか多いらしい。
紙の本縁切り神社
2004/08/12 17:48
コラムではなく小説である、ということ
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ネットコラムニストで作家の田口ランディの短編集。
田口ランディの小説と言えば、『コンセント』『アンテナ』『モザイク』といった少年犯罪、ひきこもりといった時事的な話題を取り上げた長編小説が有名だが、私は文庫書き下ろしで若干マイナー感が否めないこの『縁切り神社』が気に入っている。桜井亜美の小説にも言えるのだが、田口ランディの小説は取り上げているテーマ自体が興味深いにも関わらず、イマイチ頭で作り上げた小説であるような感が抜けない気がしていた。それが直接どこを指すのか、と言われれば困るのだが、実際、参考文献に社会学者の宮台真司の著作を挙げたりもしている(『モザイク』参考文献参照)し、実際宮台の著作で表現されるモチーフを援用していると思われるくだりも見受けられる。もちろん中には、自身の体験をモチーフにしたと後にネタバレしている『コンセント』のように勢いのある小説もあるが。おそらく彼女は非常に敏感かつ、また頭の回転が速い。それは『もはや消費すら快楽じゃない彼女へ』や『できればムカつかずに生きたい』と言ったコラム集に顕在している。敏感さと過剰に執着しない彼女のコラムはこの純愛ブームだとか屈折した愛国心が表象化しているご時世非常に心地よい。ただ、小説を創る際には逆に、その頭の良さが逆に小説世界を縛ってしまっている気がするのだ。さて、この『縁切り神社』。非常に短い12の短編から構成されており字の密度も薄い。しかし、「変わったもの」と「変わらないもの」をテーマに淡々と等身大の風景を描いたコラム以上小説未満といったようなこの12の小説たちは、私が読んだ彼女の小説の中では際立って残っている。彼女の頭の良さが身を潜め分析が入らないがゆえに、敏感さのみが全面に押し出され、小説としてスムーズな仕上がりとなっていると思う。おすすめは表題作よりも『再開』『どぜう、泣く』
紙の本それから 改版
2004/06/27 12:13
漱石から100年、ここまで、と、それから。
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江藤淳の夏目漱石に関する評論を読んでいる関係で、
最近、夏目漱石の作品を読み返している。
漱石は作品を通じて、初期近代知識人(=文学的な言葉では高等遊民)の隘路=富国強兵という有形財の大量生産や学問等々様々な西洋近代の産物の輸入を通じて、急速な近代化を志向する後発国日本の社会の中で、有形財を生産しない知識人(=高等遊民)という近代社会特有の、前衛的な視点と身分を有する者の非肉、苦悩を描く。
しかし、果たして、その時代から僕らはどこまで進んだのか。
中学高校時代に読書感想文の題材として漱石の作品を読んだ人も多いだろう。だが、改めて読み返すとつくづく漱石が浮き彫りにした日本の近代化過程の問題点は平成の今においても過去のできごととは思えない。
また、明治の時代に、近代化が今日に至るまで連綿と、とりわけ知識人に対して(日本においてその階層があいまいになってしまったにせよ)、もたらし続けている非肉、苦悩をここまで鋭敏に感じ取り描いた漱石の作品は読書感想文の課題として読むだけではもったいない。
紙の本プラハの春 上
2004/06/30 00:50
本日のお勧めメニューは、外交の恋愛包み揚げ。
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冷戦終結直前期のプラハにおける民主化運動=プラハの春と外交官堀江亮介の恋愛をからめて描く歴史小説。作者が元外交官と言う事もあり、史実、国際情勢の分析が詳細で臨場感があるにも関わらず、巧みな恋愛エンターテーメントに仕上げてあり勢いで読める。現代世界史の概観にもいいかもしれない。下巻と続編『ベルリンの秋』上下巻に続く。あえて難点をあげるとすると、だらだらと続くナルシシズム的なセックス描写がくどい点か。
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