吉本たいまつさんのレビュー一覧
投稿者:吉本たいまつ
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2006/03/20 00:10
ちょっとこれはないでしょう
78人中、78人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「腐女子」な人々の思想と生態を解剖する、と帯にはありますが、この本に書いてあることが「腐女子」と呼ばれる人々の全体像を表しているかといえば、残念ながらそうではありません。
そもそも前提となる情報に間違いが多く見られます。「やおい」=既存の作品や人物をもとにしたパロディ、二次創作、「ボーイズラブ」=オリジナル作品と定義していますが、現在ではこうした使い分けは行われていません。また女性が作る同人誌の最初のブームを「ゴッドマーズ」とし、その後「キャプテン翼」「スラムダンク」「テニスの王子様」と続いた、と述べていますが、他にも実に様々なブームがありました。これらの他にも間違った記述が多数見られ、調査が不足していることがうかがえます。
また、「腐女子はこういったものである」という記述も多く見られます。例えば、「腐女子は世界をすべて『攻め』と『受け』で分けられるという暴力的な考えを持っている」「朝の通勤時間、全国紙を買っている20代後半のOLは絶対に腐女子である」といったような。ですが、こうした記述において、「なぜそうなのか」という理由は、ほとんど語られません。まんだらけの店員に聞いたり、ボーイズラブ誌の編集に聞いたといった情報源が記載されているものもありますが、それは非常に少数で、多くは「私の知っている人はこうだから」という、薄弱極まりない根拠が示されているだけです。中にはなんの理由も示されないものもあります。そもそも説明にさえなっていない部分が多く、憶測と決めつけで「腐女子はこういうものである」と語っているとしか読めません。
このことはもう一つ、重要な問題を生みます。確かに著者が語るような「腐女子」はいるのでしょう。ですがそうでない人もたくさんいます。世の中すべてを「受け」と「攻め」の二元論で区切ってしまう人もいるでしょうが、そうではなく、違った判断をする人もいるはずです。「腐女子」という存在は、非常に広い考え方、嗜好、萌えで成り立っているのですが、著者が語っている範囲から外れる「腐女子」は、あたかも存在しないものとして扱われるのです。この本は、「腐女子」という言葉が含む多様性を、ごっそりとそぎ取ってしまっているのです。
確かに現状を鋭く指摘している部分もあります。「萌えと恋愛は別腹」「腐女子は女を降りているわけではない」など。ですが全体的には、根拠が薄弱で、著者が知ることができるごく限られた範囲の「腐女子」を取りあげているに過ぎません。この本に書かれていることが「腐女子」のすべてではありません。この本を読んで、「腐女子ってこんな人たちなんだ」と思うのは、大きな間違いだといえるでしょう。この間違いが広まって欲しくないものだと、強く思います。
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