Spicaさんのレビュー一覧
投稿者:Spica
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紙の本フリーター、家を買う。
2009/12/17 22:35
ひとりの青年の奮闘と成長の厳しくも温かい物語
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「家を買う」なんてちょっと楽しそうなタイトルに可愛らしい装丁。
さらに著者は「図書館戦争」の有川先生とくれば、どたばた甘辛コメディ的なものだろうと勝手に想像していました。
ふたを開けてみると、序盤から「まさか、この子が主役?!」と、お世辞にも素敵とは言い難い男の子が登場。
不自由無く良い大学を出て、良い会社に就職したものの、研修中に何かこの会社のノリにはついていけない、と三ヶ月で退職。
しかし世間はそう甘くなく、再就職は決まらない。とりあえずバイトでもするかな、でも店長が気に入らないから今すぐ辞めます、といった具合でバイトも続かず、のらりくらりと一年半が過ぎ・・・。
そんな日々を送っていた誠治ですが、ある日突然、母親の心が折れてしまったことを知ります。
父親も自分も、こんな状況になるまで気づきもしなかった。何もしなかった。
でも、これからはそうはいかない。
そこから彼の奮闘が始まります。
読んでいるこちらの心が折れてしまいそうになる感じがするくらい、いろんなことが起きます。
何度もぐっと目にこみ上げてくるものをこらえました。でも、後半は彼の奮闘ぶりに逆の意味で熱いものがこみ上げてくるのをこらえなければいけませんでした。
大切なものを失って初めて気づくことが多いものですが、それを完全に失わないために、何とか間に合わすために頑張った彼は、本当に強く素敵になっていきます。
父親との関係の変化、彼のお姉さんの強さ、そして彼が頑張っていくのを陰で支えてくれた職場の人たちの温かさも、物語の柱の一つとなっています。
はたして彼は「家を買う」ことができたのか?
「家を買う」ことに込められた思いとは?
読みだしたら止まりませんでした。
最後の方には有川先生お得意の甘い会話も楽しめます。
働くことの意味、誰のために?何のために?
いろいろ考えさせられる一冊でした。
でも、読み終わった後には「今日も一日頑張ろう」と力の湧いてくる、そんな作品だと思います。
紙の本追想五断章
2009/10/01 01:38
小説の中の小説に隠された真実
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
一人の少女の文集の作文から物語は始まります。
背後から迫ってくる暗闇から逃げたいのに逃がれられない。
文章からはそんな不安と怖れが伝わってきます。
いったい彼女は何を怖れているのだろう、と冒頭から惹き込まれました。
伯父の古本書店で腰掛バイト中の芳光のもとに、ある日、一人の女性が訪れ、亡くなった父親が書いた短編小説を探して欲しいという依頼を受けます。父親の小説は全部で五篇。残されたメモから推察するにどれもリドルストーリー、すなわち読者に結末を委ねて結末を描いていない小説とのこと。
数少ない手がかりを頼りに探していくその捜索の過程も面白いですが、その見つかった小説と可南子が見つけたというリドルストーリーの結末の一行が明らかになっていくのが面白かったです。
さらに、物語を追ううちに芳光は、スイスで起こった「アントワープの銃声」というある事件に行き当たります。その事件の真相も小説同様、闇に包まれていて。
小説を見つけるごとに増えていく謎という、ぐいぐい読ませる手法にはまって一気に読んでしまいました。現実の事件と小説の結末とがリンクしていくのですが、それがリドルストーリーを使って巧く描かれています。
辿り着いた一つの結末。
そして一番最後に見つかった一篇。
本当の真実とは?
今までの米澤さん作品とはまた違った引き出しの中を見せられた感じです。
全篇を通じて重く静かな雪が降る中を、雪に足をとられながらも一歩ずつ真実に向かっているような静寂と重厚さが合わさった作品でした。
読了後に再び序章の文集を読むのがおすすめです。
紙の本恋文の技術
2009/12/10 00:29
一筆したためてみたくなる一冊です
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
読んでいると無性に手紙を書きたくなります。
人の手紙を覗き見る快感も味わいつつ、彼の恋を応援しながらも変な方向に進んでいく彼の恋路にゲラゲラ笑い転げてました。
まさに恋文ならぬ「濃い文」!
気持ちがこもっていれば、どんな手紙も愛しくなるんだな、と実感です。
能登半島の研究所へ出向くことになった彼がこの機会にと、世の女性を手紙一本で落とすための恋文の技術を身につけるため、文通三昧を始めるお話。
そして本一冊、まるまるその書簡集なのです。
親友から、天敵の女性の先輩、妹、小学生、そしてなんと小説家森見登美彦先生!などなど、相手は様々。
友達とのやりとりで不明瞭だったところが、先輩とのやりとりで明らかになったり、ひょんなところで小学生の子につながったり、もちろん森見先生も大活躍!
肝心の愛しの彼女、伊吹さんへの恋文は失敗を重ねるばかり。失敗書簡の変態振りといったら!でも、その失敗書簡集、ずっと読んでいると結構心傾いてしまうかも、と思ったりもしました。
基本的に収められているのは彼本人の手紙のみ。
相手からの返信は無いんです。
それだけでよくココまでやれるものだな、と感心です。
あれよあれよの大文字山への集結がお見事。
彼と森見先生の手紙のやりとりが、他の森見作品誕生にも絡んできたりしていて、森見ファンとしても楽しめる一冊でした。
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