戦艦比叡さんのレビュー一覧
投稿者:戦艦比叡
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2009/11/10 11:55
読んでも、気持ちは、変わらない
51人中、46人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
増田美智子というフリーライターによる、2チャンネルでいう「電凸」形式の個人実行版と思えばいい。
1999年4月14日に山口県光市で発生した凶悪犯罪。当時18歳の少年により主婦(当時23歳)が殺害後屍姦され、母親の亡骸を求めた娘(生後11カ月の乳児)も殺害された。この事件の加害者と、関係者に取材したノンフィクションだ。
加害者の男は、裁判に入ると、明らかに「死刑にはならない」ことを想定して「被害者を愚弄するような反省なき手紙」を書く。犯行当時18歳だった、という理由から、1審では、死刑が選択肢に入らず、無期懲役判決を被害者家族に強いた。大きな社会問題となった事件だ。
刑務所に収監されている本人はもちろん、加害者の家族や元同級生たち、加害者を過剰に防護する人権派弁護団に対して、手紙やFAXで取材を求める。黙殺・拒否されると、直接相手の居住地や勤務先に突撃取材を行い、その際に、対応したすべてを、相手の同意なしに、そのままぶちまける、という手法。この野蛮とも思える手法が貫徹され、余計な装飾も技巧もなく記録されている。
一部の方が批判するほど、内容は拙劣ではない。加害者と十分に面会を果たし、手紙でのやりとりも実現している。また、多様な人々の立場に、不要な配慮もせず、インタビュー内容を推敲するというフィルターもかけていない。このため、加害者の声が、そのまま届いてくるようだ。加害者を報じた、これまでのどの報道よりも、本人に近づいた取材だと思う。
凶悪犯罪を犯した男が、もう少し、きちんとした社会教育の機会を得ていたら、あんな事件は起こさなかったはずだ。そういう気持ちにもなってくる。
しかし、この本を読んだからといって、「彼の更正を期待するか」という気持ちには、なれない。母子殺害の事実を認めている加害者が、あの日、どのような状況で、どう殺害したのか。その点については、一切やりとりをしていないので、この本をまともに読むと、「加害者への同情と理解」で、終わってしまうことになる。
殺された側の理不尽はどうなのか。被害者の家族はどうなのか。読み終えて、より、強く思う。おそらく被害者家族の時間は、あの日から止まったままだ。
この著書のタイトル「殺して」の部分を、「生かして」に書き換えて、著者が、我々の顔面に向けて打ったと同じ強さで、渾身の鉄球を打ち返したい、そういう気持ちになる読後感だった。
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