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RUIさんのレビュー一覧

投稿者:RUI

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本谷間の百合 改版

2012/02/03 20:22

谷間の百合

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 バルザックの作品はまだ数冊しか読んだことがないのですが、この長編小説も読者をひきつける非常に高度な文章構成をしている作品でした。フェリックスの身の上話をだらだら、その周りの人物をだらだら、といったように非常にじれったい描写を幾度となく繰り返すがその反面、要所においての物語の盛り上がり方は半端なものではなかった。この作品のなかで特に私が好きな場面は、ルイ18世に見初められていままさにパリに上らんとするフェリックス青年にモロソフ伯爵夫人がフェリックスに手紙で助言を与えている場面です。この手紙には社交界での振舞い方、友達、交際関係、貴族として、そして人間としてのあり方、などモロソフ伯爵夫人の考察、考えを非常に広範囲にわたって記してあり、例を挙げれば、信頼を安売りすれば尊敬をうしないますし、あいそよくしすぎれば軽蔑され、熱意を見せすぎると人からいいくいものにされてしまいます。(p246),お若いかたがたは、ただ若いというだけで、好感をよび・・・でもこうした人生の春も、またたくまにすぎてしまうのです。ですからよく心して、この時期を充分活用するようになさいませ。(p258),といったように現代に生きる私たちの心にも響き、とても深く、ためになるような内容です。この十数ページにもわたるモロソフ伯爵夫人の助言が、今まさに出世の道を見出している青年フェリックスの心にどれほど響いたのかは想像に難くないでしょう。この一節はただそれだけにはとどまらず、当時の貴族社会、社交界がどのようなものであったのかといった時代考証の観点から言っても非常に価値のある一節であるとわたしは思いました。わたしがこの時代考証の点でもう一つ興味深く思ったところは、イギリス女とフランス女、ひいてはイギリス文化とフランス文化の比較です。フェリックスがイギリス出身であるダドレー婦人とフランス出身であるモロソフ伯爵夫人を天秤にかける場面で、“フランスでは贅沢も個性の表現です。・・・イギリス流の贅沢は、これもまた単に機械的なものにすぎず(p463)”といったようにさりげない比較を挿入しています。これが現代にも通ずるのかはわかりませんが、こういった何気ない考察にバルザックの観察能力が垣間見ることができるのではないでしょうか。
 バルザックの作品を何冊か読んでいて気付いたのですが、バルザックの小説はどれもただの小説ではありませんでした。バルザックの非常に高い観察能力、現代に生きる私たちを納得させる先見性や洞察力が注ぎ込まれた小説が単なる小説で終わるはずがないのです。時代考証や人間観察ももちろんそうなのですが、それをもっとも痛感したのがこの小説の形態にありました。最初はまったくわからなかったのですが、最後まで読むとだれもがこの400ページにも及ぶ小説が何であったのかということに気が付くことでしょう。最後の最後で生じるこの大どんでん返しが読み終わってもなお、わたしたち読者の興味をかきたてることに一役買うのです。こういったいくつものからくりが仕掛けてあるこの「谷間の百合」も、ただたんに「フェリックス青年が谷間の白百合のようなモロソフ伯爵夫人に恋する恋愛小説」で片づけることはできないでしょう。おすすめです!

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