コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2024年4月号
今月の特集は
『記憶をつなぐ聞き書きの地平』
『豊潤な仏教の世界』
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
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今月の特集(一部抜粋)
『記憶をつなぐ聞き書きの地平』
2015年、ベラルーシの作家、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさんにノーベル文学賞が授与されたのは比較的記憶に新しいところですが、その後、いろんな本を手に取っているうち、アレクシエーヴィチさんが用いたような「聞き書き」の方法をベースにした書物に出会う機会が、なんとなく多いなと思うようなことがありました。
日本では、もとより、藤本和子さんの『塩を食う女たち――聞書・北米の黒人女性』(岩波現代文庫・1,188円)、石牟礼道子さんの『苦海浄土――わが水俣病』(新装版、講談社文庫・836円)、そして森崎和江さんの『まっくら――女坑夫からの聞き書き』(岩波文庫・880円)といった作品に代表される、聞き書きの名著があります。わたしは、このお三方を勝手に聞き書きの「三大女王」と呼んでいるのですが(アレクシエーヴィチさんも含めると「四大女王」でしょうか)、それぞれの方の他の作品も重要なものばかりですので(藤本和子『ブルースだってただの唄――黒人女性の仕事と生活』(ちくま文庫・990円)、石牟礼道子『椿の海の記』(河出文庫・935円)、森崎和江『買春王国の女たち――娼婦と産婦による近代史』(論創社・2,640円)など)、まずは何はともあれ、それらを手に取っていただき、そこに流れるさまざまな「声」に耳を澄ましていただければと思います。
文学者の佐藤泉先生は、『思想』(2019年第11号)に掲載された「記録・フィクション・文学性――「聞き書き」の言葉について」において、韓国での従軍慰安婦の方々への「調査」のあり方の変遷について説明されるところで、こう述べていらっしゃいます。
当事者の語りを尊重するために、調査は「尋ねる」ことから「聞く」ことへと移行していくが、それと同時に――一見すると逆のベクトルのように見えるが――調査者の位置を可視化することも重視されるようになっている。……被害者たちの経験には最終的に汲み尽くせない奥行があり、それゆえどのように問うか、どのような相手に向かって話すのかによって証言は変わり得る。証言は聞き手と証言者との間に生まれるのであり……(証言者らが:引用者)深い沈黙に沈められてきた経験を語ることができるようになるためには、その声に真摯に耳を傾ける聞き手が現れること、そしてその間に時間をかけて築かれた信頼関係が成立していることが不可欠である。(『思想』2019年第11号、71頁)
…続く
2024/04/01 掲載