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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
徳島出身、煙草農家の三男、機械、電気に魅せられ自分の行く道を模索している青年音三郎。明治から大正、まだまだ簡単に情報が入ってくる時代ではない。世相への嗅覚を鋭くし、いかに能動的に動けるか。何かを成し得ている男はだいたい貪欲だ。音三郎は少し違う。完全に研究者。好きなことだけずっと考えていたい。彼には驚くほどの出会い運がある。だから研究に没頭していても、向こうから出会いがやってくる。最高に幸運な男だ。上巻ではまだ何も成功していない。準備段階。下巻ではどのように抜け出していくのか。とても楽しみ。トザ、やったれ。
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投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
木内さんの物語は、日の目を見ない場所に光を当て当たり前のようにコツコツ何かを作り続ける人の話が多い。
本作も葉タバコ農家の三男坊が職工として毎日朝から晩まで当たり前に仕事を続ける音三郎が主人公。
しかし、音三郎は機械の仕組みに異常に興味を持ち研究を重ねる。
そんな音三郎の道も次第に広がりただの職工から機械の開発の仕事ができる会社へ入る事が出来る。
しかし、本作の音三郎はただのコツコツ研究を積み重ねるよい人だけではない。
誰も作っていない機械の開発に異常な執念と執着が強い。
今までの木内作品にない、人間の欲望をあらわにした音三郎を見せて上巻が終了。
下巻が多いに楽しみ。
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技術者の生き様が見れた
自分の開発を進めるが故に変わって行く主人公
最後は友に殺され少しかわいそうだった
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よくもまあこんな専門的な話を書いたなあとその苦労がしのばれる、木内昇さん最新作。
田舎者の少年が電気に魅せられのめり込んでいく。開発に没頭し周りが見えなくなる危うさが冷静に描写されていて、まだ序章のような感じだけど、最後の展開には冷や汗が出た。
すぐに下巻へ。
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日本経済新聞社
小中大
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光炎の人(上・下) 木内昇著
技術者が流転し暴走するまで
2016/9/18付日本経済新聞 朝刊
明治に生まれた徳島の農家の三男坊が、想像もつかないほど遠くまで行く。本書は、ある技術者の流転の物語である。読了した後に、主人公である音三郎の出発点を思い出し、上巻に立ち戻って愕然(がくぜん)とする。煙草(たばこ)を刻む機械に魅せられていた真っ白な少年は、いかにして満州まで辿(たど)り着くのか。
東日本大震災が引き起こした、福島第一原発の事故をきっかけに、木内さんはこの小説に着手したのだという。電力というものの、それがなければ普通の暮らしもままならないものでありながら、人々の当たり前の暮らしをおびやかすものでもあるという両面に接し、「けれど、いかなる技術もスタート地点では、多くの人を豊かに幸せにするという希望があったのではないか」という考えを持たれたのだそうだ。技術の誕生から、それが暴走し、思わぬ方向に拡散してゆく、という流れそのものを体現するように、音三郎の人生は変節してゆく。本書ではまた、音三郎の仕事と人生を出入りする人々の変転も丁寧に描かれる。いい人も悪いやつも怖い人間も、どの人物も印象深い。
始まりの周辺には、真(ま)っ当(とう)な矜持(きょうじ)があった。音三郎が世話になった職工の先輩が、大逆の疑いをかけられて逮捕され、釈放された帰り道で、地位の低い職工のすることや考えや主張などは世の中にとっては木っ端みたいなものだ、と吐き捨てる。その彼に音三郎が「職工は、ええものを造るより道がないように思いますんじゃ」と語る場面は、個人的には小説全体を通してのハイライトだと思う。この誇りを、音三郎がおそらく最後まで持ち続けていたことは何より痛切である。
技術を追求してゆくにつれ、音三郎は壁にぶつかる。開発していた物が大企業に先を越され、ライバルに負けもする。そんな逆境にあっても、ある程度順当にキャリアを積んでいったと言える音三郎を歪(ゆが)めていくものは、周囲の人々であり、時代の趨勢であり、本人の中に潜んでいた非人間性である。さまざまな要素が複雑に絡み合って、音三郎はある歴史的な地点へと突き進んでゆく。
音三郎はどこで引き返せたのか。いくつかの分岐点はあったように思う。純粋な技術への憧れを出発点としながら、その思いは本質を保ったまま姿を変え、希望を野心で塗りこめてゆく。読み終わって改めて、その興味深くも辛く長い過程は、だからこそ書かれる意味があるのだという強い気迫と責任感を感じる。この物語を引き受けた木内さんの誠実さに、強い敬意を捧(ささ)げる。
(KADOKAWA・各1600円)
きうち・のぼり 67年東京生まれ。作家。著書に『漂砂のうたう』(直木賞)、『櫛挽道守』など。
《評》作家
津村 記久子
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夢中になって読んでいた
電気のこと、明治から昭和の時代のこと
専門的な事や歴史上のことなど、難しいことも多かったけど
ぐいぐいと引っ張られるように物語の中に引き込まれる
人は、こわい。破滅へと向かう人は特にこわい
本人はそんなこと全然わかっていないのがこわい
楽しい話ではないけど、読んでよかった
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福島の原発事故が、執筆きっかけのひとつであったという。科学技術は、ひとの幸せのためにあるものである、そのはずだった。
木内さん渾身の長編です。得意だった幕末、明治の少し先から第二次世界大戦まで、今度は技術者が歴史に翻弄される様を描いています。
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帯文:”日露戦争の行方に国内の関心が集まっていたころ。徳島で一人の少年が電気の可能性に魅せられていた。「電気は、人々を救うのだ」 彼の情熱が、のちに日本を揺るがしていく。” ”直木賞作家が放つ問題作!” ”金もない、学もない。だけど、情熱だけは誰にも負けない。少年は、大きな一歩を踏み出した。”
目次:第一章~第五章
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徳島の極貧の煙草農家の三男音三郎の機械に魅せられたような人生.彼に纏い付くしがらみに,性格も歪められていく.彼一人ではなかった底辺の職工のあり方を,丁寧に描き,またそれだけではない職工の誇りや生きがいにも光を当てている.後半が楽しみである.
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ちょっとNHKの朝ドラみたいな物語かな?
と、思って読み始めましたが。どうしてどうして。大人の味わい。辛口の酒。
明治後期から昭和。田舎寒村の農家から、技術者になっていく。
時代とともに、電気技術を追って、成り上がっていく…。
そんな朝ドラみたいな世界から発射した物語は、予想範囲の安全地帯をどうやら突き抜けて。
「ヒトって、ああ、そうだよな、こういうワガママに陥るよね」
「ずるい、ひどい、痛い、でも仕方ない」
「こういう残酷さ、あるよね」
「こういう醜いところ、うーん、非難できない…」
みたいな。
「主人公、けっこう悪い奴だけど応援したくなってしまう状態」
まで、ぐんぐん、小説世界の高度を上げていきます。
#
今年2016年に出た本、木内昇さんの新刊です。
木内さんは、お友達との読書会で、「茗荷谷の猫」を読んで面白かったことがきっかけで。
以降、「地虫鳴く」「櫛引道守」を読みました。どちらも読ませましたし、特に「櫛引道守」は感心しました。
何と言っても、同時代の作家さん。
1967生だそうなので、まだまだこれからたっぷり楽しませせて貰えそうです。
#
今回は恐らく木内さんにとって最長の小説。単行本上下巻。
時は明治後期〜昭和初期。
四国。徳島県の山間部。田舎も田舎の山奥、タバコ農家の三男坊として生まれた、音三郎、が主人公。
この主人公の、まあ一代記。
無論のこと、架空の人物(でしょう。確認はしていませんが)。
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音三郎、理系なんですね。
その地域の他の農家の子供を同じく、小学校もまともに出ずに働いていましたが、農作業をしていても、どこか利発。工程や道具に常に工夫する。
家は別段、豪農でもありません。零細です。
江戸時代と変わらない不便な暮らしです。
主人公はまだ少年の頃に、友人に誘われて、山を降ります。
徳島の池田。都会です。ここのタバコ工場に工員として入ります。
このあたりは一種、「次郎物語」とか「オリバー!」みたいな感じです。過酷な労働。少年同士の陰湿ないじめ。連帯。貧しさ。
ところが、この小説の面白いところ、主人公・音三郎の魅力は。
とにかく、機械が好き。
なんですね。
いわゆる主人公みたいに、「闘争心がある」「正義感がある」「他人のために頑張る」「世の中の不正を正す」「天下を取る野心がある」うんぬん…
と、言うのは、全く無いんです。
とにかく、機械が好き。理屈ぬき。
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と、言うわけで。
池田のタバコ工場の仕事は辛いんですが、恐らくこの時期ですから蒸気などの動力で稼働する機械を見て、大興奮。
もう、わずかな空き時間も機械を触って、仕組みを勉強するので大満足なんですね。
小さいときから手先が器用で、なんでも解体して組み立てちゃう、そういうタイプですね。
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出自は、寒村の農家。
極貧で、特段の工夫も���く、循環のように暮らしている家族から出てきて、町工場で働く。
空き時間まで機械と過ごしているので、完全独学ですが、詳しくなる。
「あの小僧は機械が修理できる。メンテできる」
と、なってくる。
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この小説のもう一つの魅力は、その音三郎が、自覚が無いままに時代に寄り添って生きていくことです。
ここンところが、流石、木内昇さん。
21世紀を生きている僕らも同じなんですけど。
音三郎さんも、時代をリードしたり動かしたりはしません。
けれど、確実に時代の、政治の影響を受けて人生が流れていきます。
明治末期、日露戦争。
そして第1次世界大戦。
日本はかつかつながら「戦勝国」として不平等条約も解消、大まかに言うと成長経済に乗ります。
それに乗って、音三郎も「機械がわかる小僧」としてスカウトされて、大都会・大阪に乗り込みます。
そして、「電気」と出会う訳です。
大阪では電気、電線に使う銅線を加工製造する町工場で働きます。
同じように、初期資本主義の非人道的工場労働なんですが。
それでもステップアップ。単純労働ながら、やや専門性がある。
それから時代も、「労働争議」とか「組合っていうものがある」という時代に入ってきます。
同僚や周りの人たちの間で、そういう社会主義的な活動に身を投じる先輩も描かれます。
でも、音三郎さんは、そういう社会の動きには全く興味ありません。
大阪でも、機械が好き。そして電気に興奮。
#
でも、貧しいんですね。
少年工員たちが、たまの休みに何をするか。
デパート、心斎橋の大丸に行くんですね。
行くんだけど、買い物なんかできない。
大丸の前でぼーっと人の出入りを眺めるんです。
それであーだこーだ仲間でおしゃべりする。
たまに、女の子にわけのわからんからかいで声をかける。
(主人公は、女の子に声をかけるタイプではないんですが)
それが娯楽なんですね。
このあたりの描写が圧巻でした。そういう暮らし。
厳しい労働の合間に、趣味生きがいとして独学工作研究を繰り返す。
取引先の女中さんとの、淡い恋。
この恋も、切なくてかわいらしくて、楽しい。
待ち合わせて散歩してしゃべるだけ。
文楽やお芝居の小屋の賑わいを外から見て、すごいねー、とか言うだけ。
主人公は、電気関係の機械を試作してます。
厳しい労働の合間にしています。
原材料一つ手に入れるのに小遣いをはたきます。
そうこうして、完成する前に、同じような機械を別の工場で先に完成されてしまったりします。
くやしい。くやしい。
ここで、音三郎は、実家への仕送り用の金を自分で着服?して、
試作用の原材料購入にあてはじめます。
自分の稼ぎをむしりとるだけの家族のためにお金を払うのが、惜しくなります。
それより、自分の自己実現に投資したい。
このあたり。
音三郎さんの中で野心が頭をもたげ、エゴが強くなるあたり、これもぞく��くします。
そして、とうとう、より大きな会社に転職します。
それも、今回は工員としてではなく。
開発技術者としてです。大きなステップアップです。
ここでは、周りは大学出が揃っているわけです。
小学校も出ていない音三郎さんは、強烈な劣等感に苛まれながら、なにくそ!とさらに勉強します。
もう、このあたりで、自己実現、自分の野心、自分の名声のためだけに突き動かされます。
#
はじめは愛らしかった、恋人との関係も。
徐々にお金ができて、いつのまにか、会ったらラブホテル(待合)
に入って、Hする間柄になっています。
いつのまにか、数年が経っています。
彼女さんは結婚してほしいんですね。
でも、音三郎さんは、Hが終わったらひたすら技術書を読んでいるような青年になっています。
そしていつの間にか、自分の野心やステップアップに、何の貢献もできない彼女さんが、疎ましくなっています。
別れます。
#
そして、家族との関係。
池田のタバコ工場時代から、つきまとう「叔母さん」がいたんです。
この「叔母さん」は、池田の街でいかがわしい女中業か何かしていたんですね。
この叔母さんが、読者としては、「あ、どうやら実の母親なんだな」というのが分かります。
(音三郎の生母は早世しています)
その叔母が、寄生虫のように大阪までやってきて、厚かましく同居して、養ってもらいます。
この叔母がまた、実にニンゲン臭い。
ぜんぜん、「良い母親」ぢゃないんですね。
田舎町で、泥水飲んで水商売で生きてきたんです。
まともに手のこんだ料理なんかできないし、する気もない。
だらしなく、おしゃべりで、知性も品格もなく。
俗で、遊び好きで、男好きなんです。
音三郎は、寄生されながら、この叔母が疎ましい。
この叔母も、池田の山間部の実の家族も、もう誰も、音三郎が生きている世界のことは想像もつかないんですね。
家族は相変わらず電気も通らない山間部で、地べたに這いずり回るようにタバコ農家をして、かつかつの極貧暮らし。
特段の工夫も無く、音三郎の仕送りをあてにしていて、その上、たまに帰省すると偉そうな訳です。
たまりませんね。
#
でもそれって、昭和の中期〜後期まで。いや、今だって。
地方から大都会に出てきた労働者が、大なり小なりぶちあたる現実なんですね。
#
そして、音三郎は会社でひとつの結果を出します。
出しかかります。
電気を使った無線。会話ができる無線。
そのラフな装置を作り上げた。
大事なプレゼン。
これが上手く行けば、自分の名前がつく、名前が残る、偉大な発明となるかもしれない。
そのプレゼンで。
うまくいった!
だけど。
音三郎のうっかりミスもあり、手伝ってくれた後輩が電気ショックを受けて、半死半生の怪我…。
その後輩の苦しみを前にして、音三郎が思��ことは。
「こんなことで俺の成果が台無しになったらどうしよう」
ということだけでした…
で、下巻に続きます。
#
面白い。
申し訳ないけど、ドラマ化映画化を意識してそうな、軽目の小説に比べて、鉄槌のような重みのある、人間ドラマ。
いや、人間の向こうに、歴史と時代と社会が見えてくる。本格ドラマ。
なんとなく、本屋さんの「文芸」のコーナーに行くと、よく目につくんです。
ライト読者層を意識した、楽しくてキャッチーでつかみが上手くて、結局は「NHKの朝ドラの精神世界レベル」から全くはみ出ていないような、現代風俗ものの小説。
なんていうか、「編集者の顔」が見えちゃうような。
こういう構成で、こういうタッチで、このくらいの分量で、こういう主人公で、こういうラストで、そうそう大事なのは気が利いてるタイトルで… 「売れる文芸本」。
その作者さんだから書ける、その作者さんならではの長所と短所。
そういう作家性みたいなコクが、えぐみが、異形さが、野菜についた土みたいなものが、全く無い。
漂白洗剤で洗ってある、形も揃えて保存薬ぶっかけた野菜みたいな。
そういうのに、まっこう抵抗する、小説ですね。
長い小説なので、「木内さん、大丈夫かな?」なーんて傲慢に心配しながら読み始めたのですが、すぐにそんな心配よりも「面白い!」というワクワク感だけでのめり込みました。
なんというか、小説の書き方がまた上手くなったなー、という感じ。
もう、書いてる側の不安や疲弊が感じられない、堂々たるものです。
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木内昇が紡ぐ歴史の中に埋もれた物語には、いつもひたむきな人が登場する。その不器用さに多少の歯痒さを感じながらも、読むうちにいつの間にか主人公の目線と同化して、歴史のうねる波間を漂うことになるのが常だ。この「火炎の人」も、主人公である音三郎の真面目さと天賦の才の徐々に開花する様を追いながら、やはり同じような感慨を覚える。
しかしその印象は、主人公の向上心が少しずつ常軌を逸するにつれ変化する。自身の功績のためではなく探究心に突き動かされていた筈の向上心が、他人を蹴落としてまで這い上がろうとする野心へと変わっていく。その変化は丁度、二分冊の上巻から下巻へ映るところで、際立って起こる。実験を手伝って負傷した者より自らの成果が台無しにならぬようにすることに執着し、やがて出自を偽ってより高い地位を得るべく奔走する。はたと、これは芥川龍之介の蜘蛛の糸をなぞらえた物語なのだな、と気付く。
己の欲望にまるで気付かないかのような性格の音三郎の前に開けた自分の才で切り拓ける道。給金のほとんどを家族の仕送りに充てながらも新しいことに触れられる喜びで満たされていた筈の思いは、やがて己の向上心にのみ執着するように変わっていく。カンダタのように一本の蜘蛛の糸にすがるように、己の道を進もうとする主人公の背中にべったりと張り付きすがる、産みの親と思しき人物。大震災に乗じて切ったかに見えた縁は、まるでカンダタの背後から迫ってくる亡霊たちのようにしつこくどこまでも追ってくる。それを振り切ろうと非道な言葉を吐けばどうなるか。
最終章において起こる語り手の交代は、予想されていたとはいえ、悲劇的な結末を決定づける効果が大きく、まるで映画の中で流れる音楽が物語の顛末を告げるような印象を残す。歴史は未来から見た必然によって解釈されるべきではないし個々の歴史を単に束ねたものでもないと、木内昇を読むたびにしみじみと思うものなのだが、これ程までに大きな流れの中に沈んでゆく人物を描かれると、その思いも乱される。個は全体の中において飽くまでも要素でしかないのか、と。市井の人々に焦点を当ててきたこれまでの木内昇とは、やや趣きを逸にする作品だと思う。
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上巻は徳島の農家の少年が機械に魅せられて勉強してぐんぐん高みを目指して登っていく話。途中まではサクセス・ストーリーかなと思いきや,上巻のラストあたりでは音三郎の冷たい部分がクローズアップされて不気味な感じで終わり,どうなるのか下巻が楽しみ。
上巻の中では一番金海に好感をもった。態度は鼻持ちならないけれど,誰にでも安全に使えるものを目指す姿勢,それが大事だなあ。下巻ではみんなどのように変化するのだろうか。
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日本の産業革命時代を舞台にした機械に取り憑かれた少年のビルディングスロマン。上巻で主人公の音三郎は日清戦争、日露戦争を挟んで、明治から大正へ、四国から大阪へ、歯車から電気へ、突き進みます。そのエネルギーは「物狂い」と言われた、機械の仕組みを理解したい、という情熱と欲望。それは日本の近代が工業化していく時の先端科学技術への恋愛感情とシンクロしているのだと思います。だから本書は小学校も出ていない少年の成長物語というだけではなく日本の産業の成長物語であり、社会の成長物語てもあります。ただし、単純に成長礼賛といかない不安も感じます。この後来る二つの世界大戦を知っているからなのか、主人公の純粋なメカニズムラブが狂気をはらんでいるからなのか、下巻も楽しみです。重苦しいけどページめくる手が止まらない不思議な小説。
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私が心酔する作家木内昇、彼女の魅力のひとつはまるでその時代に生きていてそれを見聞きしたかのように描く精緻を極めた筆力。
そして本作では明治から昭和初期の一人の技術者を取り上げるのだが専門的な知識を交えながら葛藤する心の描写はどれだけ取材を重ねようが出来るものではなく何かが憑依した?とも思える程のリアリティはこの人の真骨頂。
物語としてはどてらい男(古っ)のエンジニア版かと思いきやそうでなくページを捲るたびに「漂砂のうたう」に代表される時流の悪魔に翻弄されて行く主人公。
いままでの作品になかった重苦しさを纏いながら下巻へ
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徳島出身、煙草農家の三男、機械、電気に魅せられ自分の行く道を模索している青年音三郎。明治から大正、まだまだ簡単に情報が入ってくる時代ではない。世相への嗅覚を鋭くし、いかに能動的に動けるか。何かを成し得ている男はだいたい貪欲だ。音三郎は少し違う。完全に研究者。好きなことだけずっと考えていたい。彼には驚くほどの出会い運がある。だから研究に没頭していても、向こうから出会いがやってくる。最高に幸運な男だ。上巻ではまだ何も成功していない。準備段階。下巻ではどのように抜け出していくのか。とても楽しみ。トザ、やったれ。