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パナマ文書で明らかになったグローバルタックスの必要性
2016/04/20 09:27
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
タックスヘイブンや金融の不透明さにかかわる問題がジャーナリストによって取り上げられてはいる。しかしパナマ文書が明らかにしたように、政治・金融エリートたちが行う資産隠しが問題となっている。パナマ文書の教訓に耳を傾け、金融の不透明さに立ち向かうために、本書はとても参考になる。
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租税の理念と原理を理解するための基本書
2015/03/24 11:13
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投稿者:相如 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本で増税問題、特に消費税の増税の問題に対する関心は、一般的にかなり高いと言えるが、その議論の質については、関心の高さに見合ったものとはとても言えない状況にある。一方では、増税を回避すると財政破綻まで一直線であるかのような議論があるかと思えば、他方では増税で経済が瞬く間に崩壊するかのような議論がある。まさに時の人であるピケティが来日した時に、対談した日本の政治家やエコノミストたちが、格差や再分配の問題そっちのけで、消費増税問題に異常な執着を示していることに閉口していたことは記憶に新しい。
本書は、そうした日本の税をめぐる健全とは言い難い言論状況に抗する形で、なぜ国民は税を負担しなければならないのかという、根本的な問題に敢えて立ち戻ろうとするものである。本書の著者は税制を専門とする財政学者であるが、これまで財政学の本と言うと、経済統計や租税制度に関する細かな記述が続き、素人にとって読み進めるのが困難な本が多かった。しかし本書はそうした類書とは異なり、そもそも税を負担する理念や原理は何であるのかという誰もが理解可能な問題意識を出発点に、所得税を中心とする近代的な租税制度が成立していく歴史的プロセスに即して明らかにするものである。
所得税制度の発祥地であるイギリスは、ロックなどの社会契約論に由来する、国家に対して私有財産権などの資本主義的な合理性の保障を求める「権利」としての租税が、後発国家であるドイツでは、ヘーゲルの有機的国家観に代表される、国家の経済に対する規制的な役割を強調する「義務」としての租税が、アメリカでは共和党・民主党の二大政党の政策論争を背景に、社会政策を実現する手段として租税が位置付けられ、特に世界恐慌後にローズヴェルトは累進課税や法人税などを富の集中を解消する手段として採用していった。
そして最後に、1970年代以降の金融自由化とグローバル化によって、所得税のフラット化と逆進的な消費税への依存が高まるととともに、度重なる通貨危機を抑制する手段として、トービン税の可能性(および限界)について解説を行っている。その他にも、租税における財源調達手段と政策手段との間の矛盾や、課税における居住地原則と源泉地原則の違いなど、租税の基本的な原理の問題についてわかりやすく説明されている。
本書を読むと、いかに私たちが税に関する基本的な原理を何も知らないまま、目の前の増税の是非という視野の狭い問題ばかりに拘泥し、中途半端な知識で無責任な「政策提言」を弄んでいるのかを反省せざるを得ないだろう。例えば消費税の逆進性を批判する人は多いが、ではグローバル化という制約の中で、それに代わる社会保障の安定財源が何であるのかを、真剣かつ丁寧に考えている人がどれだけいるか、非常に疑わしい。
本書を通じて理解されるのは、税制は一握りの政治家や経済学者、財務官僚などの天才的発想あるいは陰謀などによってではなく、様々な政治的な文脈や社会的な制約を受ける中で作られていることことである。それゆえ、あるべき税制や税負担の配分のあり方については、あらかじめ正しい結論というものは有り得ず、その議論を常に民主的に開いていくことが必要になる。そういう当たり前の認識から、税の問題が語られていくようになることを望みたい。
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税金の機能史
2018/06/04 13:37
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投稿者:病身の孤独な読者 - この投稿者のレビュー一覧を見る
税金がどのように発生し、どういう社会状態からできたのかを最初に簡潔に述べてある。そして、税金の支払いに対し一定の主張を行う。その後、現在までにおける税制についてその歴史をたどりながら、税金のあり方について考察している。
本書ではグローバル化時代の税制についても考察しており、財政破綻がささやかれている今日の日本においては学ぶところは多い。ただし、あくまでも税制概論と言ったところである。読みやすく経済の知識もあまり持ち合わせていない人でも理解できる。税金を考える上での最低限の知識が詰まっている本だと思われる。
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「税金」と言われると、いやいや払うものというイメージがどうしてもある。
広辞苑を引くと、「租税」の項には、「みつぎもの、年貢」という定義の次に、「 国家または地方公共団体が、その必要な経費を支弁するために、法律に基づき国民・住民から強制的に徴収する収入」とあるという。
国家というものがあり続けるためには、「税」という収入源が必要なのだ。
本書では、租税が歴史的にどのようにして生まれてきたのかを追い(主に欧米が対象)、その意義を問い、将来を考える。
税制の歴史の流れとともに、哲学者・経済学者たちの種々の国家論や租税理論を紹介・解説している。
近代までの国家は、国家の持つ財産(「家産」)で財政を賄う「家産国家」だった。だが、支出の増加のため、それでは立ちゆかなくなり、「租税国家」へと移り変わっていく。
多くの場合、租税制度を変化させる大きな契機は戦争であった。有り体に言って、戦争には「金」が掛かるからである。
租税を考える上で、「義務」として政府が上から払わせるか、「権利」として市民が下から支えてくかの2つの視点がある。市民革命を経た場合は、国家を支える「権利」としての側面が大きいという。
課税をいかに公平に行うかというのは大きな問題である。制度の変遷は公平さを追い求めての変遷とも言える。
租税は「財政上の必要を満たすため」という面が大きいが、一方で、政策手段として行う場合もある。課税により、経済システムを制御していこうという試みである。CO2排出に掛けられる税などがこれにあたる。この課税の問題は、政策上の目的が達成されれば、税収が減るというジレンマである。
税は時代とともに変わる。近年、新たな税として注目されるのは、「金融取引税」である。金融派生商品に掛けられるもので、元はといえばリーマン・ショックに端を発するという。経済は実物経済から金融経済へと大きく推移してきた。こうした税が導入されれば、金融危機の対処費用としても運用可能であり、投機的取引を押さえる政策課税としての側面も持ち、またこうした税の負担は主に富裕層に掛かるため、公平性の面からも適切と言えるようである。
国際化が進む情勢の中で、将来的にはグローバルタックス(世界共通の課税)が構想されてきている。南北格差や環境に関する問題など、国を超えて解決しなければならない問題に充てる財源を持つ必要があることが見込まれる。こうした税を誰がどのように管理するか、実際上の問題はあるが、大きな視点で見ていくことは大切なことだろう。
日本の税制の流れについては、あとがきに簡単にまとめられている。
日本の所得税は明治20年に導入されている。明治政府による「上から」の導入になる。但し、日本の税はいささか特殊で、納税と選挙権が連動していたため、「名士」の証明となる面もあった。高度成長期には放っておいても税収は伸びたが、そのままの税制では難しくなってきている。公平性をもって税収を上げていく必要がある。
いささか断片的だが、本書で印象に残った点を挙げてみた。専門外のため、読み落とし、読み��いがあると思う。ご指摘があればありがたく受けたい。
*18世紀のイギリスでは、収入を正確に見積もることが困難であったため、馬車や下僕を所有しているかで課税率が決まったりしたこともあったという。
**以下、まったくの与太話です。
一応、個人事業主なもので、年度末は毎年、ぶーたらいいながら確定申告します。必要経費をまとめ、帳簿を整え、控除分を引き、課税率を掛け、なんちゃらをかんちゃらし・・・。
「むきぃぃぃぃ。どこの世界に支払うものの代金を客に計算させる商売があるんだよ(怒)!! しかも計算がめんどくさすぎ!!」と荒れ狂ってやるわけですが(^^;A)、これもまぁ「むしり取られている」と思うからそう思うわけで。
税金の本を読んだし、今年度からは「あら、面倒だけど、仕方がないわね、おほほ・・・」とココロ穏やかにやれるかな(==)。きっと無理(^^;)。
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非常に勉強になる本でした。私にとって、こんなに勉強になった本は初めてかもしれません。
本書は「税金」を中心に据えながら、歴史や戦争、民主主義、資本主義、国家観(その背景にある哲学、例えばホッブズ、ロック、ヘーゲル)などを体系的に学ぶことができる内容となっています。
しかもこれらが補足的に語られているのではなく、それぞれがつながりをもって語られているので、「税金」を考える上でこうした項目が必須であるということを痛感させられました。
特に税金と戦争の関係は切っても切れない関係にあるということを思い知らされました。戦争が大規模化するにつれて必要経費も急増し、その中で生み出されたのが税金なのです。
ただ、1つ注文をつけるとしたら、日本についてはほとんど触れられていないというところです。目次を見るとわかるのですが、出てくる国はイギリス、ドイツ、アメリカで、分量的にアメリカの税制について多くを割いています。日本については「あとがき」にほんの少し触れられていますが、あとがきですのでやはり物足りないなと思いました。海外については把握できました!じゃあ日本はどうなのよ?と考えるのは自然なわけで・・・
もちろん、これだけの本を書ける方なので、日本についても書きたかったのだろうと思いますが、恐らく紙面の都合上でしょう(本当のところはわかりません)。
ということで、私は日本について書かれていないことを逆手にとって、自分ならどうすべきと思うかを考えていきたいと思います。もしかしたらこういうことを意図してあえて日本について書かなかったのかもしれませんねw著者の日本の税金論が出ることを期待しつつ、自分でも勉強しようと思った次第であります。
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少し堅く言えば、租税を通して見た国家論です。扱っている範囲が近代の欧米、それも英米仏と独が中心なので、そういう意味での限界はあるでしょうが、現在の日本国民が考えなければいけない項目はキチンと提示されていると思います。バランス良く叙述しながら、これからの最大の課題である、国境を超えた金融取引と課税回避行為について、読者が前向きに考える材料を提供しています。
国家の役割と限界、グローバル化してゆく資本主義経済の制御、そのためのトービン税(金融取引税)など新たな税制の可能性、と書くとなんだかとっつきにくそうな印象を受けるでしょうが、大学教養課程程度、かつ、表現も平易で読みやすい本です。
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いわゆる税金ノウハウという本ではなくて、「租税論」的な本です。国家の政策レベルの租税の考え方を述べてます。これはこれで興味深いのですが、手軽に「租税の歴史」を学べるかな?と思った自分にはちょいと荷が重いというか、文章が重かったです。ただ、内容は深みがあるので、がっちり勉強されたい方向きかと思いました。
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何かのレビューを見て、読みましたが期待していたものと全然違いました。タイトルにある結論に至るまでの、解説の長さに根が負けます。とても教科書的な本で、私にはとてもハードルが高すぎました。世界における税金の成り立ちから、それを納める必要性までをそういう方向から捉えたい方には向いているかもしれませんが、軽い気持ちで読み始めると永遠に終わりが来ないかもしれません。
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読み終えるのに長時間かかってしまった。内容は平易とは言えないが、読みやすい。英米の租税思想史が興味深かった。
日本はどうしても税金=おかみに召し上げられるもの、という反感が強いのに、タックスペイヤーとして税金の使い道に強い関心を寄せる米国がとても印象的。
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とても勉強になります。二度目の読みなおし中です。
タイトルから感じられた哲学的なところまでは掘り下げられていませんでしたが、税に関するわかりやすい思想史であり、現代の課題も丁寧に書かれていて、仕事にも直接的に役立ちます。素晴らしい一冊だと感じています。
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諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史』新潮社。市民革命以降の欧米の税制の思想史から税金と共同体の関わりを考える一冊。租税は国家が市民の生命財産を保護することの対価と考えたロック。参加し担うから「仕方なく払う」のではない。税制輸入した日本とは対極的だ。
財務危機が日常化する現在、単純な増税が決していいわけではない。税金を切り口に参加型民主主義を経済の側面から考察する上では、非常に刺激的な一冊。経済行為がやすやすと国境を越えていく現在、著者は租税に関しても国際的な規制(「世界国税庁」)をも視野に入れる。
ややもすれば感情論で扱いがちなやっかない「税」の問題を本書は、国家や市場経済とどのように結びつくのかわかりやすく解き明かす一冊。消費税増税前に読んでおきたい。
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[「られる」一辺倒の卒業]給与明細を見るたびに、なんとなく「取られている」と感じてしまう税金。そんな税金がどのような思想を背景として成立し、国民国家内に取り入れられてきたかを解説するとともに、「上からの税金」とは一線を画した考え方について提唱する一冊。著者は、京都大学で教鞭をとられ、財政学を専門とされている諸富徹。
税金というと複雑かつ難解という印象を受けますが、その成立を根本から整理してくれているので非常にわかりやすく、税を(良い意味で)身近なものとして感じられるようになるのではないでしょうか。特に、財政調達と政策達成という二つの手段が税に内包されていることを指摘しながら、ドイツやアメリカの歴史を語る章については、税にまつわる歴史のおもしろさを堪能することができました。
〜「下から」の方向性を徹底させ、そして「市民からの法人への働きかけ」という視点に立つならば、「政策手段としての税」は政権の手にあるだけでなく、たとえ間接的な形ではあれ、私たち自身の手にあると考え直すことができるだろう。つまり、「市民社会が租税を自らの道具として使いこなして経済をコントロールする」という租税観、新たな政策課税論への転換である。〜
古くて新しい問題なんですね☆5つ
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いやー、なかなか面白かった!
市民革命などの歴史を、税制度に着目して考えたことないし、納税を権利だと考えたこともなかったし。(とはいえ、私の場合は別に納税に対してネガティブでもなかったけど)
あと、哲学的な話かと思いきや、意外にもグローバル税の話にも十分な紙幅を取って言及されていた感じだし、アトキンソンが言ってたような、最近の格差拡大と税金種別の割合の話などにも触れられていた。多国籍企業の税金対策などについても。金融取引税の話も興味深かったな。
あ、あと、世界の話だけでなく、ちょいちょい日本の現状にも触れられているのが良かった。
これだけいろいろ触れられていて、専門性もありながらも、一般人に分かりやすく書いてくれている気がしました。取っ掛かりとしてはありではないかな!
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租税には,国民の生命・財産を保護するための財源を確保する役割だけではなく,経済をコントロールするための「政策手段」の役割もあるという。単に「上」から義務として押し付けられるものではなく,「下」から経済に働きかけるために国民が持つ手段として租税をとらえることができる。
グローバル化が進み,貨幣や企業が国民国家の枠を越えて自由に移動するなかで,国際的な経済活動に対する課税権を国民国家を超えたどのような主体に付与することができるのか。「下」からどのようにアプローチできるのか。「グローバルな『共通課税権力の樹立』」が実現するには,夢物語と思えるほど現在は程遠い地点にある。本書でみられた租税の歴史のように,今後さまざまな議論や論争を経ていくしかないのだろう。
日本の財政についても,議論や論争を重ねて漸進していくしかないのかな,と思った。
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イギリス、ドイツ、アメリカの近代以降の租税論通史の本。ホッブス、ロックにはじまり ニューディール政策、現代の国際租税回避まで、わかりやすく説明されている。それぞれに ドラマがある
個人の所得に応じた累進課税による所得税、消費(支払能力)を反映した内国消費税、富の再配分としての相続税、独占企業政策や個人所得税の補完としての法人税 、戦時の異常税率などの導入経緯、根拠、歴史的変遷を記述
次の論述と税金との関係性を整理することから 始まる
*ホッブスやロックの国家論
*アダムスミスの国富論
*ヘーゲルの市民社会の原理
ドイツ租税論(シュタイン、ワグナー)
*個人と国家は運命共同体
*納税=個人の義務
*日本は ドイツ租税論を導入
ニューディール租税政策
税金は 単なる財源調達手段としてでなく、所得や富の再配分、独占企業のコントロールなど 政策手段としても 用いている