紙の本
遠い接近
2020/08/01 19:32
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
召集された主人公の父親が、故郷である広島に帰るのを楽しみにしている場面が悲しくたまりませんでした。親戚も親切にしてくれて、仕事も世話してくれて、そして・・・。あまりにも惨くて読むのも辛かったですが、ミステリー小説としてだけではなく戦争について知るためにも読んで良かったと思えました。
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【清張さんの軍隊経験を盛り込んだ長篇小説】赤紙一枚で家族も自分の人生も狂わされた山尾信治。復員後、自分を召集した兵事係を見つけだし復讐を誓う。その企ては成功するのか。
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かなり詳細に兵営での生活と徴兵の諸々に関する描写があるので資料として買ったけれど、普段こういったジャンルの小説はほとんど読まないにも関わらず一気に読んでしまうくらいおもしろかった。やっぱり売れてるひとにはそれなりの理由がちゃんとあるのだということを再認識。
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(相変わらず、松本清張さんの未読作品をつぶしています。本当に作品を多く残された・・・!)
*****
昭和17年、主人公は徴兵検査で第二乙種不合格だったのに32歳にして召集令状が来てしまった。入隊後のいじめ、残してきた家族への思い、朝鮮への転属、死なずに復員してきたのに家族6人は広島の原爆で死に、たった一人になってしまった。戦後の混乱そして赤紙を書いた人たちへの恨みに凝り固まって、復讐を目指す。
*****
そんなことを言ってはなんだが、ありそうなストーリ、だが、清張さんにかかると迫真だ、ご自身の経験もあるそうなのだが。
主人公はちょうどわたしの実父と同じくらいの年齢、父も教育招集は受けたが、その後、乙種だったからなのか、役所勤めだったからなのか、ツテがあったのか戦争中ずっと父はいた。ま、わたしは昭和16年生まれだからなにせ幼児、後から聞いた話。でも、母は、家族は心強かっただろう。わたしたち幼い姉妹も苦労してないはず。
それに比べてこの主人公色版画工の職人は自営業ゆえ、自分がいなければ商売ができない。その苦労を残った家族にさせ、あげく帰還しても、何もかも失ってしまったことがわかる。なぜ自分がこうなるのか、不公平への悔しさ、恨み。
この不条理を述べないでなるものか!という意気込みがひしひしと伝わる。
しかし、作者は「かたきを撃って」ストーリをおしまいにしない。
だいたい「かたきとは何か?」戦争というものか、政治家か、軍人か、国家なるものを憎むべきか。大きく言えば人間の営みの矛盾か。
小説の最後、主人公の頭の中で
「・・・・・モモナク、ソチラニイク。ヨシコドノ」
という電信文の想起に、泣いてしまった・・・・・・・・・。
解説に代表作の大作『昭和史発掘』がこの小説と同時進行とある。氏が何に情熱をかけたのか伝わるではないか。
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紹介文を読まずに読み始めて、
細かい郡の描写に、
Wikiとみくらべて清張の実体験なのかな…と思ってたら
途中からもちろん完全なるフィクションに入った。
そこからは一気読み。
赤紙がテキトーに、かつ悪意や欲で配られていた暴露話は、
文春の昔の号をまとめたものに、
同じことが載っていたな。
読み終わったあと昼寝したら、
警察に追われる夢を見てしまった…。
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過去の徴兵検査で第二乙種不合格になっていた印刷工の山治は、32歳のときに3ヶ月間の召集令状が届く。その点呼のときに漏らした担当官からの「ハンドウをまわされたな。」という言葉。その後、そのまま朝鮮への赤紙出兵が言い渡される。残された家族は広島に疎開し、一家全滅。復員した主人公・山治の復讐が始まる。
戦後から75年が経つ日本。軍人恩給、戦犯にまで恩給が国税から支払われるも、戦火に見舞われ、土地や家屋を失い、命をおとし、身体にも大きな傷を残した人びとには、戦争の保障は一切行われていない日本。
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「松本清張」の長篇ミステリ小説『新装版 遠い接近』を読みました。
『表象詩人』、『溺れ谷』に続き、「松本清張」作品です。
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過去の徴兵検査で第二乙種不合格、そして三十二歳となった今、兵隊にとられることはないと確信していた「山尾」に、召集令状が届く。
この一枚の紙が、「山尾」のみならず家族の運命までも大きく狂わすことに。
古兵の制裁にも耐え復員したが、すべてを失った「山尾」は、召集令状を作成した区役所兵事係への復讐を誓う。
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「朝日新聞社」発行の週刊誌『週刊朝日』に『黒の図説』として発表されたシリーズの第9話にあたり、1971年(昭和46年)8月6日号から1972年(昭和47年)4月21日号に連載された作品、、、
「松本清張」の軍隊経験が織り込まれており、旧日本軍における召集・軍隊生活や終戦後の闇市の様子を交えつつ、戦争で家族を失った者の悲しみと完全犯罪計画が描かれた作品でした。
1944年(昭和19年)、33歳の色版画工の「山尾信治」のもとに突然召集令状が来た… 身体検査に赴き、仕事が忙しく教育教練にあまり出席していなかったことを話すと、在郷軍人の一人「白石」から「ハンドウを回されたな」と言われる、、、
佐倉第五十七聯隊第六中隊第二班に入隊後、私的制裁に遭った補充兵が同じ言葉を呟くのを聞いた「山尾」は、その意味が「仕返し・腹いせ・懲らしめ」であると気づき、中年の自分が召集され朝鮮半島に送られたのは教練に欠席がちだったことへの嫌がらせからだったのではないかと思い始める… しかし、「山尾」にそのような意思を働かせた者は、具体的には誰なのか?
軍隊生活を送りながら、「山尾」はひそかに調査を開始する… 手段を尽くした探索の末、「犯人」を突きとめたと思った「山尾」、、、
やがて終戦を迎える… 帰国すると家族は原爆で全滅していた! 「山尾」は、自分を召集し、それにより家族の運命を狂わせた兵事係「河島佐一郎」と、入隊後に私的制裁を加えた古兵の「安川哲次」への復讐を誓う。
その企ては成功するのか!? 復員後、「山尾」は「安川」と出会い、「安川」のヤミ屋を手伝うことになる、そして、偶然にも「河島」の消息を知ることになり、二人を利用した完全犯罪を計画する、、、
二人の死体を発見した警察は、当初は「山尾」の目論見通り、「河島」が「安川」を殺害し、「河島」は自殺した… と推理するが、「河島」の自殺方法や遺書に不審な点があることに気付き、「山尾」に疑いの目を向ける。
前半~中盤は、徴兵され衛生兵として朝鮮半島に出征した「山尾」の軍隊内での辛い体験や人間模様、そして、焦燥や苦悩、憎悪等、犯行に至る背景が描かれており、この部分で、どんどん「山尾」に感情移入していきましたね… そんな下地ができたあと、終盤に突入、、、
「山尾」が完全犯罪を計画・実行するあたりからは、一転してミステリ色が強い展開になりますが… 気持ちは「山尾」とシンクロしているので、犯罪を犯す側の立場になり、殺害は成功するのか?警察の捜査は誤魔化せる��か? と、ハラハラドキドキしながら、一気に読み進めました。
バランス的に、前半~中盤部分は、もう少し短い方が読みやすいかな… と思いましたが、あれだけのボリュームがあったからこそ、「山尾」と気持ちをシンクロできたのかもしれませんね、、、
「松本清張」らしい作品で愉しめました。
以下、主な登場人物です。
「山尾信治」
神田小川町在住の自営色版画工。
妻と三人の子に加え、老いた両親を扶養する。
「山尾良子」
山尾の妻。人付き合いがうまく近所から好かれている。
「山尾英太郎」
山尾の父。広島に従弟の太一がいる。
「白石」
町内の酒屋。教育訓練の助教で予備陸軍伍長。
「安川哲次」
山尾と同じ班内の万年一等兵。
召集兵苛めを鬱積の捌け口にしている。
「山崎英夫」
山尾と同じ班の銀行員。優等生的な振る舞い。
「森田」
龍山基地医務室内の軍医。法医学の本を所有する。
「細井」
上等兵で釜山市役所の吏員。
「河島佐一郎」
山尾の住む地域の区役所の兵事係長。妻は小学校の教員。
「与田喜十郎」
雑誌「真実界」編集長。
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松本清張作品一作目です、
戦争モノが読みたくて読みました、でもそれだけにとどまらない壮大さ、よかったです。
赤紙について、どこまで本当なのかなとも思いつつ、似たようなことはあったのかな?
戦争が終わって、復讐劇が始まる。完全犯罪?で終わったら、物足りない。そこで終わらせないのが良い。でも、なぜバレた?その部分がうまい。伏線ぽいのがあるため、読者にはこっちかな?と想像させるのだが、しっかりとその裏をかいてくる。
戦時中に得た知識がまさか仇になるとは。そして、遺書の偽装、これもそうだったのかと。