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感情教育 上(光文社古典新訳文庫)

感情教育 上 みんなのレビュー

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2014/11/19 17:46

投稿元:ブクログ

さすがは光文社新訳文庫!
訳注がとても親切な上、随所に画像が挿入されていて非常にわかりやすいです。さらに訳者まえがきでは、時代背景が解説されており、巻頭には地図、巻末には年表までつけられています。しかもしおりには、主な登場人物の簡単な紹介が。
このようないたれりつくせり、非常に快適そうな書なのですが、その入り口はなんだかとっても敷居が高いです。

「しばらくの間、辛抱強く読みすすめていただくことを願っています」だとか、「ともあれ、これから『感情教育』の大洋に乗りだす読者が、つつがなく航海を終えることを祈ってやみません」なんてなことが、いきなり、訳者まえがきに書かれているではないですか。
どうもこの上巻は、辛抱の巻であるらしく、読む前から、ちょっと心が折れそう。


ですが、ですが、心配ご無用です。
確かに、主人公の若者フレデリックは、美術商アルヌーの妻に恋心を抱きつつも何ら関係は進展せず、アルヌーの愛人であり他にも幾人もの男と関わっている女性ロザネットにもふりまわされるばかりだし、運よく伯父の遺産を相続したものの、特に何かになろうとするでもなく、「まだる」く物語は進んでゆきます。
が、このまだるさ、連綿と続くちょこちょこした出来事の一つ一つが、なんと非常に面白いのです!登場人物たちが織り成す出来事の数々には、彼らの底の浅さやこずるさが容赦なく絶妙に表現されているのも楽しいです。

そういう楽しみが凝縮されているのが、この上巻の終わり近くにあるフレデリックとシジーの決闘のエピソード。まるでドタバタ喜劇のような展開です。

フレデリックが片思い中のアルヌー夫人をシジーに馬鹿にされたと感じて暴れたことから決闘となる流れからして馬鹿馬鹿しいです。にもかかわらず、一人の女性のために決闘するのだ!とか、一人盛り上がるフレデリック。
決闘の立会人をたのまれたルジャンバールは、相手が貴族と知って居酒屋で剣術指南をはじめちゃいますし、当人に確認もせず断固和解を拒否しちゃう(それに対してフレデリックは「誰か他の人を介添人にしたほうがよかったかも…」と思っちゃう)のみならず、さらに侮辱を受けたのはどちらか、という解釈についてまで話をややこしくしちゃいます。
シジーは、決闘に対して非常に弱気で、いとこが黙って決闘を中止にしてくれないかなとか、フレデリックが脳卒中で死んでくれないものかとか、暴動が起きないかとか、自分が病気にならないかなとか、翌日学校へ行きたくない小学生みたいなことを延々思っていたりします。挙句が当日現地にて失神。せっかくの小説の盛り上がりどころであるはずの決闘なのに、全然かっこよく決まりません。
とどめが「私のために争わないで」と決闘を止めに入るのが、なぜかアルヌー!!

フレデリックの父親が決闘で亡くなっているのですから、この決闘も、普通だったらもっとドラマチックなものになりそうなものですが、全くそうはなりません。というか、フレデリックにしろ、ルジャンバールにしろ、アルヌーにしろ、各々ドラマチックに行動しているのですが、全く現実とかみ合っていないのです。


この小説の注目のしどころは色々あると思いますが、私自身が目が離せないのは、フレデリックとデローリエの関係。

出会いは鉄板の寄宿制の高等中学校、片や、傾きかけた資産しかないものの貴族の旧家出身の母を持ち、平民の父親は生まれる前に死亡していたため、父親不在の家庭で一人息子として期待され大事に育てられてきた者、片や、余裕のない家庭で、もと軍人の執達吏の父親から殴られ続けて育った者。はじめは特に親しくなかった二人ですが、デローリエの暴力事件を機にフレデリックの方から近づいて親友に。上級生と下級生の微笑ましい美味しい仲良し生活の中、卒業後一緒にパリで暮らすことを夢見ます。が、デローリアは、あてにしていた母親の遺産が手に入らないため、学資を貯めるためにトロワで働くことに。

デローリエは、運よく伯父の遺産を手にすることになるフレデリックとは非常に対照的な人物なのです。そのため、現実的でフレデリックにはない上昇志向や野心をもっています。

ただ一人の親友的存在であるはずのデローリエですが、フレデリックからの扱いは非常に酷いです。デローリエをとるかアルヌー夫人をとるか、という選択の場面が2度ありますが、どちらもアルヌー夫人の圧勝。全然つきあってもいないのに。
一時期疎遠になっていた時期には、ロザネットと一緒に乗っていた馬車で泥水ぶっかけたりまでしています。上巻の最後あたりで、仲直りしますが、この二人の今後が非常に気になります。


あと、真っ直ぐで気のいいもじゃもじゃ頭の屈強な青年デュサルディエも気になる存在。彼が登場するだけでなんだか癒されるような気持ちになるのですが、巻末の年表に1851年12月に死亡と書かれてしまっているではないですか!?
私にとってはこの小説を読み進める上での大事な憩いの場的存在ですから、できればそれは、下巻の終わりのほうであってほしいです……。


前書きを読んだ時点では、下巻が出るまでに読み終えられないんじゃないかとか、挫折しちゃうんじゃないかとか心配したのですが、もう今は下巻が待ち遠しくてたまらないです! 

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