ふみちゃんさんのレビュー一覧
投稿者:ふみちゃん
2019/09/23 21:58
戦前の日本のことがよくわかる
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作者が中高校生の前で講義した内容をまとめたものだが、かしこの学校の歴史研究部の生徒が相手とあって内容はしっかりしたものになっている。胡適の日本切腹中国介錯論(これは面白い論で、胡適という人は相当に頭がいい)、戦争に負けるということは戦勝国に自国の憲法を書き換えられてしまうということ、日露戦争では中国人が結構加担してくれたこと、松岡だって「堂々と退場す」だけの人ではなかったということ、日本の統治が悪いから三・一独立運動がおこったと言っているまっとうな軍人もいたということ、満洲侵攻にはまっとうな理屈がないと思っていた人も結構いたこと、逃げた関東軍ももちろん悪いが満洲に彼らを送り出した自治体はもっと酷いということ、などとってためになることがつまっている
2019/01/30 17:27
それにしても19世紀にこれだけ行動力をもった旅人がいたなんて何という驚きだろう
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作者は「朝鮮にいた時、わたしは朝鮮人というのはくずのような民族でその状態は望みなしと考えていた。(中略)真摯な行政と収入の保護さえあれば、人々は徐々にまっとうな人間となりうるのではないかという望みを私にいだかせる」と、沿岸州の朝鮮人の暮らしぶりををみて考えが変わったことを辛辣ではありながも語っている。当時の朝鮮の両班や貴族の横柄な態度は平民のやる気を根こそぎ剃ってしまっていたのだろう。働けば働くほど金になる社会がそこにはなかったのだから。それにしても19世紀にこれだけ行動力をもった旅人がいたなんて何という驚きだろう。
紙の本対岸の彼女
2019/08/17 22:51
そうなんだよなと何度も頷いてしまった
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中学時代、高校時代、いろんなことを語り合ってきた「こいつとは一生の友になるんだろうな」と思っていた友達も生活環境が変わって、大学生になり社会人になってしまうと疎遠になって日ごろ思いだすこともなくってしまう。それって寂しいことだけど仕方がないことかもしれない。いつも私が思っていることを小説にしてくれたのがこの作品のような気がする。同じ方向を向いていると思っていた友達が実は全然違う方向を向いていたということは今では当たり前に思えることをあの頃は全く考えもしなかった。この作品を読んでそんな友人の何人かに連絡を取ってみようかと一瞬思ったが、すぐにやめた。私たちは全然違う世界に生きているのだから。今は。
2019/01/16 22:16
さすがの短編集
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文芸春秋社の創設者という実業家としての肩書ばかりが私の頭の中にあったのだが、この短編集に収録されている10篇を読んでわかるのは、作家としてもとんでもなく才能がある人だということが認識できる(とても大作家には失礼な表現だが)。表題の「忠直卿行状記」「恩讐の彼方に」や「藤十郎の恋」と言った代表作と言われている作品はもちろんなのだが、死にたくないのに首をくくらなければならなくなった「頸縊り上人」や腕や足を切られても「命だけはご勘弁を」と恥ずかしげもなく叫び続けるなさけない武士を描いた「三浦右衛門の最後」などの恥ずかしながら今まで知らなかった作品も面白く読ませていただいた
2019/12/11 22:27
この作者の作品は、こころに染みます
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この作者の作品を読むのは「オリーブ・キタリッジの生活」についで2作目。前の作品で感じた、何の変哲もなく感じられた生活の中にも確実に歪みはあり、その歪みは人々を苦しめているという感想は田舎町が舞台だった前作と同じように今回のニューヨークを舞台にした作品でも同じだった。いつごろまでは私は私小説的な作品というのは日本にしかない特殊な文学と思っていた、でもこのエリザベス・ストラウトや「シカゴ育ち」のスチュアート・ダイベック、「イラクサ」のアリス・マンローを読んでいるうちにクジラや拳銃は登場しないが読み応えのある小説はいくらでもあるということに気づかされる。当然のことなのだけど
紙の本草迷宮
2019/01/24 22:15
やっぱり泉鏡花はとんでもない人だ
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私には少し難しい明治時代の言葉が残っている(文語体の匂いがする)文章だったの読むのに苦労した。しかし、泉鏡花の幻想的な話というのはやはり面白い。筋は母の手毬唄がどのようなものだったか知りたいという若者が泊まっていた荒屋敷に奇怪な事件が多発するというものだが、なかでも作者らしいのが茄がけらけらと笑い出すという場面だ。もちろん、美しい女の幽霊もとうじょうするのだが、この茄や西瓜の化け物が登場したり、嘉吉という狂人が面白くうろちょろするところが愉快で、これが明治に書かれた作品かと思うと、やはりこの作者はただものではない、もっと評価されるべきと思ってしまう
2022/09/07 13:21
米国に対して「お前が言うな」という彼らの反論は否定しない
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新疆という地区の通史というものが今まで存在しなかったと著者の熊倉氏はいう、中国とソ連の民族政策を研究されている方だ。著者がいうとおり第三者な立場で自己抑制して描かれている、中国の政策がジェノサイドかどうかは私たち読者に判断を委ねているようにもみえる、たしかにナチスドイツのユダヤ人政策とは真逆のようにも思える(ナチスはユダヤ人を追放しようととし、中国はウィグル人を取り込もうとしている)。ただはっきりと言えることは中国政府がしていることはウィグル人がムスリムとして生きるということを完全否定しているということだ、彼らにとって産児制限は神の意志に背く犯罪なのだ、モスクを遭えて養豚場に転用した事例もあったという.。ただ私は中国の現状を肯定はしないが、米国に対して「お前が言うな」という彼らの反論は否定しない
紙の本ザリガニの鳴くところ
2022/09/06 11:13
こういう結末なら大歓迎
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タイトルの「ザリガニの鳴くところ」というのは、茂みの奥深く、生き物たちが自然のままの姿で生きている場所、ということらしい。テイトが教えてくれた。まさに主人公海カイアは、そんな湿地で少女時代から一人暮らしをやむなくされた。村の青年、チェイスが火の見櫓で殺された、彼は優秀なQBで村の人気者だった。彼を殺した犯人は誰なのか、もしかしたらテイトかもしれないと考えた、それだけはあってほしくなかった、カイヤとテイトは最後は結ばれるべきだと私は思っていたから。テイトは犯人ではなかった、そして二人は結ばれた、よかった、よかった、じゃ、犯人は誰?、湿地の生き物に詳しいカイアはホタルやカマキリの雄と雌の交尾について何回も言及していたから、察しはついていたけど、こういう結末なら大歓迎
紙の本世界の果てのこどもたち
2022/02/01 09:53
この辛い話が本屋大賞3位、日本も捨てたもんじゃない
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抑留されたシベリアで死んだ祖父は、、満州に派兵されていた。その祖父から祖母宛にこんな葉書が届いたという「〇〇(祖母の名前)元気でやっているか、△△、□□(母と叔母の名前)も元気か、満州は冬はとても寒いところだが、食い物もうまく、土地も広い、戦争が終わったら、こちらで暮らさないか」、祖父は日本が負けて、満州がロシアにずたずたにされて、日本人は中国人に報復されるなんて夢にも思っていなかったらしい。祖父が天国のような国と思っていた満州は、主人公の珠子にとって、親友だった八重子にとって戦後、地獄になる悲しい話、読んでいて辛くなる、でも、読み続ける。珠子、茉莉、美子、主人公三人は辛酸な思いをしながら最後は幸せを掴むが、右翼政治家が威勢よく気勢をあげているのを聞いていると胸糞が悪くなる今日この頃だ、戦争だけは絶対だめだ
紙の本室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界
2021/11/04 22:00
おそるべき、たわけという言葉
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尾張の有力な悪口「たわけ」は、あたりさわりなく「田分け」、大事な不動産を他人に分配してしまうような愚か者が語源であるという説明もみられるが、「古事記」に馬婚(うまたわけ)、牛婚(うしたわけ)、鶏婚(とりたわけ)、犬婚(いぬたわけ)とあるように「たわけ」は不正な性交の意味を持つ言葉だった、と筆者は言う、かつて「お前のかあちゃん、売春婦」と罵倒され暴力をふるって退場になったフランスのサッカー選手がいたが、日本にはそんなことばないなと思っていたら、中世にはとんでもない悪口が使われていたのだ、これは面白い。「うわなり打ち」という中世に浮気をされた正妻が妾の家へ徒党をくんで押しかけるという制度があったことも面白い、確かにそれだと北条政子は激情の女ではなく、風習に則って妾を攻撃した奥ゆかしい女なのだということになるのか
紙の本独ソ戦 絶滅戦争の惨禍
2021/04/29 21:11
史上最悪の支配者同士が激突したら、こうなるわな
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作者のよると、独ソ戦は「通常戦争」「収奪戦争」「絶滅戦争(世界観戦争)」の三つが並行するかたちで進められたという。そして、健康なドイツ国民は(ゲルマン民族)は、ユダヤ人やソ連に住むスラブ人などの劣等人種、社会主義者や精神病者といった反社会的分子に優越しているんだというヒトラーの考え方が「通常戦争」での優勢が危うくなると「収奪戦争」「絶滅戦争」の比重が大きくなっていったのだという。スターリンとヒトラーという人を簡単には信用しない歴史上まれにみるファシスト同士の戦争は、お互いに失敗は部下のせいにしてその部下を粛清するという恐ろしくよく似た構造の中で繰り広げられた凄まじい数の死傷者を生んだ戦だった。そして、そのファシストに媚びをうりつづけてきたイエスマンたち(戦後、彼らは命令されて仕方なくと口を揃えて抗弁するのだが)同罪だと私は考える。
紙の本マイケル・K
2021/04/13 22:37
南アの白人政権が最後の悪あがきをしていたころのお話
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この物語に出てくる北部の戦争というのは、南アが軍事介入したにもかかわらずアンゴラ、モザンビーク、ローデシア(現ジンバブエ)、ナミビアといった諸国の白人政権が次々に崩壊した戦争のことをさす、主人公マイケルKがどんな肌の色を持った人なのか、そのことが当時の南アではとても意味を持っていた、は直接的には書かれていない。それがわかるのは訳者のくぼたのぞみ氏によると「CM」という記述だけだという、C=カラードM=男性、カラードというのは混血やアジア系を指す。1980年代のアパルトヘイトが風前の灯となっていた南アの状況を理解できていないとこの小説で作者が語ろうとしていたことの数%も理解できないだろうと思って私はこの本を読む前に南アの歴史について予習した、それにしてもあの時代にこの小説を発表した作者の勇気に敬服する
2021/02/25 22:24
やはり私の読書は浅い
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確かに「遠い山なみの光」を読んだとき、悦子の長崎時代の友人、佐知子とその娘の万里子って不思議な存在だなと感じていた、そもそも佐知子と万里子って存在していたのかとも、ウォルコウィッツ氏の「イシグロの背信」という論文(少し難解だったがなんとか読んだ)を読んで、ああそうだったのかと合点した、佐知子と万里子は悦子と自殺した娘の景子なのだと。そこまで読み込めてなかった浅い読書しかできない私が恥ずかしい。またイシグロは長崎生まれにも関わらず、故意に無視するかのように、ほとんど原爆を語らない、それはイシグロが原爆を「不在」として暗示的に描いたからこそ、そのはかり知れない重みを読者に伝えられたと多くの批評家に解釈されている(麻生えりか氏)という、これもなるほど納得。
紙の本どこから行っても遠い町
2021/02/14 21:25
どんな人にもドラマはある
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東京近郊の町に住んでいる人たちの物語、魚屋さん、八百屋さん、予備校講師、料理屋さん、たこ焼きさん、占い師、いろんな人にはそれぞれのドラマがある、普段スポットライトなんか浴びたことがない人たちも掘り下げてゆくといろいろな人生が浮き彫りになってくる。ふと立ち寄ったたこ焼き屋で会話をしている男女や、おやじたち、この人たちはいいなあ、何も悩みがなさそうで、なんて思っていていたら実は・・・。でも、私のこれまでの人生にスポットライトを浴びせてもなにも浮かび上がってこないと思うよ、平凡だから。でも、川上弘美氏にかかれば私の人生も物語になるのか。登場人物の中では私はロマンのあけみさんに会ってみたい、あまりかかわるのは嫌だけど
紙の本当世凡人伝
2020/07/07 22:35
でてくる主役は平凡な人ばかりだけど
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今までに読んだ彼女の作品では、「冥途の家族」が1974年の作品、「波打つ土地」が1984年の作品で、この作品がその真ん中の1977年の作品だ。タイトルが「当世凡人伝」だけあって、元警官とその妻が主人公の「薬のひき出し」、去勢している男の妻がなぜか孕んだ「名前」、娘と妻が仲が良くていつも2対1になる「娘」、売れない落語家を描いた「立切れ」、父親が突然蒸発する「魚の骨」、昔画家を目指した男の「子供の絵」、冴えない不動産業の男が主人公の「富士山の見える家」、この続きが知りたい「花」、嫌みな通訳が登場する「笑い男」、とにかく夫婦ともけち臭い友達を持つ「幼友達」、どの人物もありふれた人生を送る庶民が主人公なのだが、さすがの力量で作者が良質の作品に仕上げている