採用面接評価の科学 ― 評価の仕組みを解明する(講演)
企業で働く日本人にとって、採用面接は日常的なものとなっています。採用を決定するきわめて重要なプロセスであり、さまざまな対策マニュアルも出ています。ところが、日本では、面接の場で、何がどのように評価されているかを分析した研究はほとんどないと、リクルートマネージメントソリューションズの今城志保主幹研究員は指摘します。
採用面接を研究する今城氏は昨年11月、『採用面接評価の科学 何が評価されているのか』を上梓、日本では希少な採用面接評価の研究成果をまとめました。
本稿では、実証実験の結果と、それを踏まえ、より精度の高い面接評価を目指すために必要なことについて、「科学」の視点から語っていただきました。人事担当者のみならず、就職活動中の学生や、転職を考える社会人にも、ぜひ参考にしていただきたい内容です。
撮影:「麹町アカデミア・遊学堂」 会場:ビジネスエアポート東京
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日本では少ない面接評価の研究
企業にいると、採用面接というのは、ほぼ日常的なものとなっています。自分が面接官にならなくとも、面接をされた経験というのは、どなたにもあるでしょう。採用の時に一番大きな決定力を持つのが、採用面接評価であるともいえます。
ところが、日本では、この採用面接の研究というのがほとんどありません。多くの先行研究は、アメリカを中心に行われてきました。
その結果、「採用面接が、入社後のパフォーマンスをある程度予測できる」ということは、わかっています。しかし、何を評価したら、入社後のパフォーマンスをより正確に予想できるかは、あまり検討されていません。これが、この分野で研究を始めようと思ったきっかけの一つです。
次に、これまでの研究で、面接者によって、評価にばらつきが生じるという結果も出ています。けれど、なぜ、ばらつきが出るのかはわかっていません。そこで、面接官による評価の違いがどのように起きるかを明らかにしたいと考えました。
さらに、三点目の問題意識として、心理学の研究の知見を、面接評価にどのようにいかせるかというものがありました。面接で「この応募者はどんな人だろう」と評価することは、心理学の分野では、対人認知または対人評価と言います。この対人認知や対人評価はこれまでたくさん研究されてきました。それを面接評価に適用できるかを検証しました。
面接で評価される3つのカテゴリー
当然ながら、面接評価の内容は、会社や仕事の内容によってさまざまに異なります。むしろ、自分の会社が評価したいものを評価するという柔軟性こそが、面接の大きなメリットとも言えます。
ただ、そのままではあまりにもバラバラですし、たくさんあるので、ひとまず、評価内容を整理するため、下図のような評価モデルを作成し、これをもとに研究を進めました。
図版提供:今城志保
面接評価の内容は、おそらく上図の3点にカテゴライズされるでしょう。ブルーとピンクの部分は、企業の採用面接で、どのような評価をしたいとか、こういう人に来てほしいといった人材要件に相当します。
グリーンの「一般的な対人評価」はどの面接でも評価されるものです。まずはこの対人評価について、心理学の観点から見ていきます。
「面接は5秒で決まる」のウソとホント
「面接は5秒で決まる」と、よく言われます。「それは本当ですか」と、聞かれるのですが、ある意味、本当で、ある意味、嘘です。
心理学の研究で、初対面の相手を見たとき、一秒に満たない時間で評価していることがわかっています。私たちは社会的な生き物なので、常に周りにいる人がどんな人かを評価するようにプログラムされているのです。
また、第一印象というのは、けっこう「イケてる」という話もあります。アメリカの研究で、こんな実験があります。ある選挙の候補者数名の写真を、数百名に見せ、第一印象で評価してもらうと、たとえまったく知らない候補者であっても、評価の高かった人が、実際の投票で多くの票を集めたというものです。
ただしこれは、数百名が評定した結果です。ですから、さきほどの「5秒で決まる」というのも、「100人の面接官がいれば5秒で当たるかもしれません」という話で、実際は人によって当たる人と当たらない人が出てくるでしょう。
人は第一印象で何を評価しているのか
では、人は、第一印象で相手の何を評価しているのでしょうか。実は、このことは長い間、よくわからないまま、研究が進められてきました。
その後、社会心理学の研究で、対人評価の内容は、親しみやすくよい人であるかを示す「温かさ」と、頭のよさなどを示す「有能さ」に、大きく分けられることがわかってきました。つまり、最初に「敵か味方か」を見て、そのあと「使えるかどうか」を判断するという感じです。
非常に一般的な傾向で、人の生物的なものに起因しているのではないかとも言われています。そうすると、面接評価でも、「温かさ」と「有能さ」の2つを見ているのではないかということは、容易に想像できます。
ならば、どの企業でも共通して評価される人物像はあるのでしょうか。あるとしたら、それはどのような人物か、また第一印象によって決まるものなのか、検証を行いました。
85社のデータ分析で見えた高評価の人物像とは?
検証には、85社が実際の新卒採用面接で収集したデータを用い、SPIテストの結果と面接評価の相関を分析しました。新卒採用データを使った理由の一つは、それが最も集めやすいからです。性格特性は約7万人、一般知的能力は約4万5000人のデータを使っています。
その結果、わかったことは、「外向的で情緒が安定している人は、一般的に面接評価が高くなる傾向がある」、「知的能力は、常に面接で評価されるわけではない」ということでした。
また、このうち1社のデータと、学生を対象にした模擬面接のデータでは、「上記のような人物特徴は、第一印象で評価される」という結果も出ました。
この結果で、もう一つ、面白かったことは、欧米の研究結果との違いです。欧米の研究では、勤勉性は、面接の評価と関係があることが報告されています。しかし、日本での研究ではそれが出てきません。
<>理由を紐解くと、勤勉性というのは真面目さですから、多くの場合、服装や髪型など外見で評価されます。ところが日本の新卒採用の面接では、学生はみな黒のスーツを着て、同じような靴を履き、同じようなカバンを持っています。あれでは勤勉性を評価しようがないということが挙げられます。加えて、アメリカの研究では、勤勉性はパフォーマンスを予測すると言われており、勤勉な人ほどパフォーマンスが高いとされるのですが、これも、日本のデータからは出てきていません。おそらく日本人は総じて、勤勉性が高いからではないかと考えられます。
組織との適合は評価されているのか
日本では採用において、組織との相性が重要視されます。ところが面接場面で、組織との適合が評価されているかについて、アメリカでの先行研究は十分ではありません。
なぜなら、アメリカの研究では「面接者が、この応募者は自社に向いていると思えば、組織に適合したとみなす」という見方をしていて、それ以上の研究がほとんどないからです。「これでは、面接者が気に入っているだけでないのか」という批判もあります。
そこで、日本での採用面接では、面接者の主観ではなく、本当に組織との適合を見ているのか、あるいは、面接者の「自分に合っている」という判断が入ってしまっているのではないか、という点について、検証しました。
検証には、上述の85社のホームページから、業種や従業員数など組織の特徴といわれるものをまとめたものと、これらの会社の新卒採用データから、性格特性と面接評価の関係性を分析したものを用いました。
その結果、「会社の業種や規模など、組織の特徴によって、面接で評価される人物特徴に違いがある」、しかし「同じ組織であっても、面接者が自分たちの会社をどう見ているかによって、評価が異なる」ということがわかりました。
つまり面接評価において、組織との適合は確かに評価されていますが、面接者の企業風土の認知が異なることで、同じ組織であっても適合の評価には違いが生じると言えます。
将来の仕事上のパフォーマンスを効果的に予想する方法
続いて、職務との適合についてです。実はこの研究が一番大変でした。欧米型の採用の場合は、一般に職務経験のある人をその職務に採用します。一方、日本では、新卒学生は白紙の状態で採用し、しかもさまざまな職種を体験させます。
いわゆるポテンシャルを見て将来の適合を予測しなくてはならないこと、加えて大企業になると30も40も職種があり、異なる仕事との適合をどう評価するのかという難点があります。
そこでまず日本のある会社の新卒採用において、職種を営業に絞って採用面接を行った場合に、職務との適合は評価されているのか、その評価は将来の職務遂行度を予測できているかを検証しました。
評価のための質問と評価の基準をあらかじめ設定した「構造化面接」を用いて行った面接評価と、入社数年後の上司評価との関連性を見たところ、営業に就いた人では、関連性があることが確認されました。しかし、営業以外の仕事に就いた人では、有意な相関は得られませんでした。
その結果、「新卒採用であっても、職種をかぎって人材要件を整理し、構造化面接を行うことで、将来の職務遂行度をある程度、予測することは可能である」ということがわかりました。ただし、職種を限定しない場合など、もっと多くの同様の研究が必要です。
「対人評価」「組織との適合」「職務との適合」で一番肝心なもの
最後に、「一般的な対人評価」「組織との適合」「職務との適合」の3つの評価要素が、面接の最終評価に、それぞれどの程度影響を及ぼすかということを検証しました。
分析の結果は、3つの評価要素で最終評価のおよそ6割が説明できるという結果でした。最終評価にも、面接者による違いなど、評価をばらつかせる要因が含まれています。それらを考慮すると、かなり多くの部分が3つの評価によって決まるといえるでしょう。
また対人評価における第一印象が、のちの評価に及ぼす影響が比較的大きいということが明らかになりました。第一印象がよいと、組織や職務との適合の人材要件の評価もそれに影響されて高くなり、最終評価が高まることが分かりました。
さらに、第一印象とほぼ同じくらいのレベルで、職務との適合評価が最終評価に及ぼす影響が大きく、それより少し落ちるレベルで、組織との適合が影響していることもわかりました。会社や状況によっても、これらの影響の強さは、変わってくると思います。
以上が実証実験から見えてきた結果です。次に、これらをもとに、人事面接の実務でどのようなことを示唆できるか、お話ししていきます。
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本書では、会社の将来を左右する採用面接の研究はあまり進んでいないと問題提起され、特に以下の問題があるとする。
- ・面接を受ける候補者のどの特徴に注目し評価すべきなのか
- ・面接官の間での評価の違いがどのように起きるのか
- ・一般的な対人認知研究の知見が十分活用されておらず、面接者の認知や印象形成のプロセス理解があまり進んでいない。
そこで本書は、採用面接における評価についての概念的枠組みを提案し、それに基づく実証研究により、その妥当性を検証している。研究書ながら、大企業の採用担当者や採用コンサルタントにも有用な内容となっている。
面接者が考えておくべき実務のポイント
前編では、人事面接における評価要素を、「一般的な対人評価」「組織との適合」「職務との適合」の3つにわけ、それぞれについて実証実験を行った結果をお話ししました。それらを踏まえ、実務でどんなことが言えるか、簡単にポイントをまとめると次の通りです。
1つは、自社の人材要件が、なぜそのような要件なのか、それによってどういうことを予測したいと考えているのか、明らかにしておく必要があるということです。
その上で、面接者をどう割り当て、トレーニングしていくかを考えます。このとき、面接者が人材要件について持っている意見や、企業風土の認知を合わせておくことで、面接結果のばらつきを少なくできます。
また、構造化面接は、妥当な情報収集を促進する効果と、面接者間の評価のブレを抑える効果が期待できます。
さらに、面接評価での判断が、結果的にどれだけ確かなものだったのか、入社後のパフォーマンスも、データをとって検証することができれば、より効果的だと言えるでしょう。
なお、今回の評価の枠組みをグローバル面接に適応するとどうでしょうか。残念ながら、グローバル面接は難しいことが予想できます。なぜなら、面接で一般的に評価される対人評価は、文化の影響を受けてしまうからです。つまり第一印象からずれてしまうのです。
例えば、日本人の「ハキハキして元気がいい」と、アメリカ人の「ハキハキして元気がいい」は印象が異なるかもしれません。日本人の場合には好印象ですが、アメリカ人だと、単に軽そうに見えてしまうといったことです。このため、グローバル面接は、必ず現地のスタッフが行ったほうがよいと考えます。
第一印象のバイアスを極力減らす方法とは
前編で、第一印象がその後の面接評価に影響するという話をしました。実務では、第一印象のバイアスをどうしたら排除できるかということを、よく聞かれます。
<>しかしこれを、完全に排除することは困難です。また私の研究では、面接での第一印象は、一般に将来のパフォーマンスの予測に貢献することが示唆されています。一方で、面接では評価したいものがありますから、それと第一印象評価が異なる場合は影響を減らすための方法を考えなくてはなりません。
つまり何を評価するかによって、第一印象の影響の良し悪しは変わってくるということです。例えば協調性を評価したい場合、第一印象は、それを補完する効果があります。一方、第一印象が思考力の評価にまで影響してくるのは、望ましくないと言えます。
そこで、第一印象に影響されたくない思考力を評価する場合は、「SPIなどのテストで思考力を見てください」とお話ししています。テストの結果と、面接での思考力の評価をあわせて最終判断を下すことで、第一印象の影響を、ある程度軽減することができると考えます。
余談ながら、嘘についても同様で、面接だけで嘘を見抜くには限界があります。これも適性検査の結果と合わせてみると効果的です。
面接でストレス耐性を見抜けないかというご相談も、多くの会社からいただきます。SPIテストで「心配事があると夜も眠れない」という項目を選択するような応募者は、面接でもなんなく神経質そうだとわかることはあります。
ただ、対人関係のストレス耐性を、新卒採用のときに見分けるのは、かなり困難です。以前も、「テストでは情緒はとても安定していて、意欲も高く、プロフィールも申し分がない新人が、なぜ、3年目でこんなに具合が悪くなってしまうのか」というご質問をいただきました。
高学歴で、運動もでき、友達も多い学生は、それまで、なんでも自分のパワーでこなしてきました。こうした学生は、圧迫面接のようなことをやったとしても、その場は切り抜けてしまうでしょう。ところが社会に出ると、かなり不合理で不条理なことがたくさん出てきます。それらに耐えられるかどうかは、その場に置かれないとわかりません。
面接でストレス耐性の評価を行うのは決して無駄ではありません。しかし、本人も気づかないようなストレスへの弱さがある可能性は残りますので、入社後のフォローが必要でしょう。
応募者が考えておくべきこと
最後に、「応募者としては、面接でどのようなことに気を付ければよいか」というご質問もいただきます。まず、「第一印象をよくしましょう」ということは言えると思います。
ただ、それだけでなく、会社が何を評価したいと思っているか、それがなぜかを、しっかり見極めることが必要です。今回の研究は新卒採用を対象としましたが、これは中途採用であっても同じでしょう。
それでも、相手の求めているものと、自分がやりたいことがあわない場合、相手に合わせて自分を演じるのか、あえて自分のスタイルを通して落とされるかは、個人の自由です。
ある程度の演技は可能ですが、自分と極端に違う人物を演じることには無理があって、プロの役者でもない限り難しいものです。なにより、あまり自分を偽わると、入社後に大変な思いをする可能性があります。
面接というのは、やはり相互作用です。学生向けのキャリア授業では、きちんと面接者と話をしましょうということを話しています。相手が尋問して、自分が答えるというのではなく、一人の大人として、きちんと会話することを心掛ける必要があります。
以上が、これまでの研究成果から言えることです。今後は、より大きなテーマとして、前編であげた「一般的な対人評価」「組織との適合」「職務との適合」の評価要素間の関連性や、それらを統合するメカニズムを解明してゆきたいと考えています。
また、中途採用への適応の可能性など課題もいろいろありますが、この研究報告を通じて、採用面接評価に関する新たな知識や視点を持っていただければ幸いです。
※本稿は「麹町アカデミア・遊学堂」主催の講演『採用面接評価の科学: 何をどう評価すべきか?面接官による評価の違いをどうすべきか?』を、再構成したものです。 (構成・編集:田中奈美)
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講演者プロフィール
今城志保
リクルートマネジメントソリューションズ主幹研究員
1989年リクルート入社。ニューヨーク大学で産業組織心理学を学び修士を取得。研究開発部門で、能力や個人特性のアセスメント開発や構造化面接の設計・研究に携わる。2013年、社会心理学で博士号を取得。現在は個人のアセスメント以外に、中高年ホワイトカラーのモチベーションや、職場の信頼に関する研究などにも従事。