このWEBページで記事を公開しているイベント「ジュンク堂書店で学ぶ、高校生のための本棚会議」が再編集&講師の方々のインタビューを追加して書籍として発売中!
「ジュンク堂書店で学ぶ、高校生のための本棚会議」の第2回多読、英英辞典、日本語の言い換え......英語講師、竹岡広信先生が高校生に伝える本物の英語の身につけ方
8月22日に開催された「高校生のための本棚会議」。第2回のゲストは、英語講師の竹岡広信先生。高校生たちは竹岡先生とジュンク堂書店 池袋本店の本棚を巡りながら、英語の世界の奥深さに触れた。
竹岡広信(たけおか ひろのぶ)
NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介された、東大合格者がもっとも信頼を寄せる英語講師。東大英語だけでなくセンター英語対策、英作文講座は大絶賛されている。現、駿台予備学校英語科講師・学研プライムゼミ特任講師および竹岡塾主宰。主な著書に「入門英文問題精講」(旺文社)「ドラゴン・イングリッシュ基本英文100」(講談社)がある。
英語力と学力はちがう、小手先の技術より本物の教養を
2020年度よりこれまでのセンター試験が廃止となり、大学入学共通テストがスタートする。そうした改革の中で文部科学省は、英語の認定試験(英語能力検定やTOEICなど、「大学入試英語成績提供システム」の参加要件を満たす民間の英語試験)の成績提出を、受験生に対して求める基本方針を打ち出した。
しかし、こうした方針に対して東京大学は、必ずしもその提出を必須としないことを発表した。
竹岡先生は、この背景を次のように推測する。
竹岡広信(以下、竹岡)「なぜ東大が外部試験をやめたか。これは『英語力』と『学力』は違うからです。英語力というのは例えばTOEICや英検の勉強をすれば伸びます。しかし東大が目指しているのは学力です。
その観点では、受験のために小手先のテクニックを学ぶよりも、教養を身につける方がよっぽど良いと思います。本質的な勉強をするべきです。
例えばコンビニで働いている外国人は流暢に日本語を話しているように見えますけど、実はそうではない場合も多いです。以前、私が旺文社(参考書で有名な出版社)に行きたくて、近くのコンビニで「旺文社はどこにありますか?」と外国人の店員に道を尋ねたんです。そうしたら「うちの店に本はありますよ」って言うんです。要するに、うまく話せているように見えても、実はパターンで覚えてるに過ぎないということです。
そうしたパターンや小手先の技術ではなく、興味関心から派生した学びや、頭を使って思考することで得られる考え方など、本当の学力を身につけてください」
「蛍光灯がまぶしい」英語で?──スピーキングの力はどう伸ばすか
冒頭で触れたような入試制度改革の流れを受けて、英語に関してはスピーキングの能力を求める声が高まっている。多くの日本人が苦手に感じているであろう話す力。どう身につければよいのだろうか?
竹岡「いま、日本では例文を暗記することで英語が話せるようになるという風潮があります。そうしたパターンで覚えるやり方も大事ですが、自分の使える範囲の英語でうまく表現することの方が私は大切だと思うのです。
例えば、『蛍光灯がまぶしい』と英語で伝えたいとき、皆さんだったらなんと言いますか?
"It's too bright."
実はこれだけ。蛍光灯という英単語がわからなければ、言わなくてもいいんです。このように、言いたいことを別の言葉に置き換えて表現する練習は、日本の英語教育の中で欠けているように感じます。
50%の表現で構いません。自分の気持ちをどう言ったら伝えられるか。それを考えることがスピーキング力の向上につながります」
「本屋はまるでルーブル美術館」、受験勉強を超えた“教養”の身につけ方
竹岡「本屋はルーブル美術館みたいに素敵な場所ですよね。自分の教養を増やしてくれる本がたくさんありますから」
こう話す竹岡先生は、イベントを通して教養や本質的な学びの重要性を強調し続けた。多くの高校生にとって、あいまいでつかみどころのない「教養」。竹岡先生はどう捉えているのだろうか?
竹岡「入試と教養は遠いものだと感じるかもしれませんが、教養を手に入れることは、入試問題を解く上で大きな手助けになります。
例えば、今年の入試問題では、時事的な内容を絡めて『マイクロプラスチック(人体や海洋環境に影響を与えるとされる物質)』をテーマとした問題が出るのではないかと予想します。その時に、もしマイクロプラスチックについて知っていれば、大きなアドバンテージです。このように、さまざまなテーマに対応するためには、多くの英文や教養に触れておく必要があります。
また私の友人で、高校英語の勉強はほとんど英語の本を読むだけ、という人がいました。彼は京都大学の入試ではほぼ満点。これこそが本当の力だと思います。 4択の文法書を2周、3周しても本当の力が身につくわけではありません。もちろん文法自体がいらないわけではありません。しかし本当に英語力を伸ばしたいなら、たくさんの英文を読むのが何よりだということです」
教養を育む「多読」──そのコツと竹岡先生オススメの1冊
本物の力を身につけるために多読が重要だと言う竹岡先生。でも何から始めていいのかわからない......。そんな高校生に向けてポイントを伝えます。
竹岡「まず、多読のポイントは無理をしないことです。無理して難しい本を買っても、読めないので、すぐにやる気をなくしてしまいます。なので自分の読めそうな本から読み始めるといいですよ」
そう言って竹岡先生が手に取ったのは洋書の『How Starbucks Saved My Life(邦題:ラテに感謝! 転落エリートの私を救った世界最高の仕事)』。
竹岡「これは高校生にも読みやすくて、すごく面白いですよ。かんたんに要約すると、路頭に迷ったおじさんがスターバックスコーヒーに入り、そこでいろいろなことを学んでいくお話。多読の習慣を身につける最初の1冊として、おすすめです。
書店に行けばわかりますが、多読用教材はレベル別になっているものが多いです。もし自分で選ぶ際にはレベルに合ったものを選ぶようにしましょう。背伸びしないことが大切です。簡単なレベルの本を数冊読むだけでも、英文を早く読めるようになります。
興味のある本を読むのが一番ですけど、『何に興味があるかわからない』という場合は、友達同士で買った本を貸し合うのも楽しいですよ。私の友人で、学級文庫の本をすべて読破した人がいましたが、彼は高校3年生になった時、文章を読むスピードが驚くほど早くなっていました。
もしあなたが高校生なら、どんどん本を読んで、多くの英単語に触れてください」
知らない単語の暗記よりも、知っている単語を“立体的”に理解する
ここから、竹岡先生は参加した高校生たちの質問に答えながら、本棚を巡る。
──(質問)語彙力を上げるためには何をするべきですか?
竹岡「語彙力を身につけるために、知らない英単語を覚えようとする場合が多いと思います。しかしすでに知っている単語からも、語彙力を広げることができます。
おすすめは英英辞書で意味のわかる英単語を引くことです。その単語に込められたニュアンスや知らなかった他の意味を知ることでその単語に立体感が出てきて、語彙力を身につけることができます。個人的には同義語時点の『ロングマン英語アクティベータ』(丸善雄松堂)がオススメです。かなり面白くて、ハマるとやめられないですよ。
その他でおすすめの辞書を挙げると『エースクラウン』(三省堂)。これは単語のレベルが『CEFR-J』(外国語の学習のために欧州評議会が定めた「CEFR」というレベル分けを日本の英語教育向けに適用したもの)で分かれています。例えば、日本語で「すぐに」をよく使っても「至急」を日常的には使いませんね。『エースクラウン』ではそんなニュアンスの違いを、レベルごとにわかりやすく解説してくれています。
英作文のコツは「日本語」の言い換えにアリ
──英作文でどの表現を使っていいかわからなくなってしまうんですが、どうすればいいですか?
竹岡「英作文では「これ使えるのかな......?」と自分で疑問に感じる表現を使ってしまうと、通じない文章になってしまいます。
例えば「この秘境に観光客が押し寄せています」を英作文しなさい。あなたならどう書きますか? おそらく多くの人は「秘境」を表す英単語がわからないですよね。それなら、「多くの旅行者がこの街に来ている」ならどうでしょうか? これでもおおよその意味は伝わります。つまり、ポイントは日本語の段階で簡単に言い換えること、日本語を日本語に訳すことです。
使える英語表現なのかを迷ったときには、それを無理に使ったり、意味のわからない単語を調べたりするんじゃなく、自分の知っている表現に置き換えて伝える練習をしてみましょう」
受験勉強に追われると、学ぶ意味やその先にある人生を忘れてしまいがち。しかし、竹岡先生の言葉には、受験勉強と本物の学びをつなぐヒントが散りばめられていた。
<最後にhontoへいただいた質問にお答えいただきました>
――今までで感激した英文学またはアメリカ文学を教えてください。(17歳・女性)
竹岡「僕は英文学専攻だったので、ロバート・フロストとエマーソンの作品が好きですね。でも最近は文学に触れてないですね。仕事柄読む本が入試に近いものばかりになっていますから。17歳ならサリンジャーもいいんじゃないでしょうか。懐かしいですね。」
本棚会議とは
ジュンク堂書店 池袋本店にて、売場の本棚の間で本についての話をするミニ・イベントシリーズ。
棚を回りながらおすすめの本を紹介して頂いたり、ある棚の前でそのジャンルについての講義をして頂いたりと、売場の本を実際に手に取りながら本にまつわるお話をして頂いています。
より近い距離で講師の方のお話を聴き、書店という空間に親しんで頂くためのイベントです。
ジュンク堂書店 池袋本店
地下1階から9階まで、ビル1棟が書店になっています。
コミック、雑誌から、医学書・理工書・人文書・法律書など専門書まで、幅広く深い品揃えを目指しています。
店内には、ゆっくり本をお選びいただけるように、机とイスをご用意しております。また、ご購入いただいた本をすぐお読みいただくことが出来る喫茶も設けています。
各階には、書籍検索機をご用意しており、お客様の本探しをサポートいたします。
各階でじっくり本をお選びいただいた後は、お会計はまとめて1階の集中レジをご利用ください。
ジュンク堂書店のこだわりである「愚直なまでに“本”の品揃えにこだわる」「”図書館よりも図書館らしい”快適さ」を実現するために、池袋本店一同日々努力しています。
皆様のご来店、心よりお待ち申しあげております。