『中川翔子のポップカルチャー・ラボ』第3回 奥浩哉 [後編]

Photo : Shuya Nakano Styling:Aya Omura Hair and Make:Michiko Kashiwase Text by Takanori Kuroda Edit:Takuro Ueno (honcierge)

マンガを愛する中川翔子が、同じくマンガを愛する多彩なゲストとともに繰り広げる「文科系トークセッション」。hontoのサービスをご利用することで、気になる作品は手元ですぐに立ち読み(試し読み)可能。おすすめのマンガとの出会いを提供します。

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奥浩哉のマンガの作法を中川翔子が聞く

第3回は、『GANTZ』や『いぬやしき』で知られるマンガ家の奥浩哉さんが登場。対談後編では、そのルーツに中川が迫った。

中川翔子(以下、中川)先生は、描くのが苦手な対象とか、ポーズとかないですか? もう何でも描けますか?……って当たり前か。

奥浩哉(以下、奥)描かなきゃいけないので、描けるようには練習しましたね、子供の頃から。

中川え、じゃあ「マンガ家になろう」と思った時から、「全部描けるようにするぞ」って決心したのですか?

そうです。確か小4でしたね。まず、歩いたり走ったりといった、身体の動きが描けないことに気がつき、そればっかり描いていた時期もありました。納得できるまで3年くらいかかったかな。今でもそんな上手くはないですけど。例えば服のシワとか、人の筋肉とか、ちゃんと描けるようになるためには未だに人を観察し、いつでもどこでも出来るだけ細かく思い浮かべられるよう、訓練を続けていますね。

中川なんてストイック……。好きなものばかり描くのではなく、世界のすべてを描写できるよう、小学4年生の頃からずっと訓練していたなんて。夢はブレなかったですか?

まったくブレなかったですね。自分のマンガ家人生はもう、計画が決まっていたんですよ。高校生の頃には投稿して賞を取り、それから上京して……っていう風に。しかもそれが、わりと計画通りにいっちゃったんですよね(笑)。最初の投稿が小学館の漫画賞に入選し、担当編集者が決まって「東京に出て来なさい」と言われて山本直樹さんのアシスタントになって。しばらく働いたのちアシスタントを辞めると、今度は『ヤングジャンプ』の漫画賞に応募しそれも入選して、すぐ「連載をやってくれ」と言われて「やります!」と。まあ、自分はラッキーだったんですよね。

中川それを「ラッキー」っておっしゃるのがすごいです。普通は「俺ってすごいな」「世の中ちょろい」ってなってしまいそうなのに。きっと、小さいころからストイックに絵の鍛錬をされてこられたからなんでしょうね、それこそ命を削って。

いや、「命を削っている」という意識はないんです。楽しいからやっているだけなんですよね。作品を凝りに凝って作るのが、すごく楽しいし「尊いこと」だと思っているんです。映画を作る人とか見ていると、本当に尊敬するんですよ。常に細かいことを考えなければいけないじゃないですか。音楽をつける時も、「今この俳優の心情はこうだから、音楽はそれに伴ったものを作って」みたいな。そういう凄い人たちに、マンガという表現方法を用いて少しでも近づきたいという気持ちがあるのかもしれない。

中川SFマンガを描こうと思ったきっかけは何かありますか?

さっき、小4の頃からマンガを描き始めたと言いましたが、僕がマンガ家になろうと思ったのは、手塚治虫先生のSFマンガ『バンパイヤ』に出会ったからなんです。その次が藤子・F・不二雄先生の『ドラえもん』。「こんな面白い世界があるのか!」って感動して。その2人の偉大なマンガ家の影響で、子供の頃からSFが大好きで、「SFしか描かない」っていう風に考えていますね。

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ドラえもん 1

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中川手塚先生も藤子先生も、SFマンガの先駆者であり、そのお二人に影響を受けながら、まったく違うアプローチでSFを描いていらっしゃるところがすごいですね。

ありがとうございます。でも、やっぱりルーツはお二人なんです。例えば『GANTZ』は、『パーマン』の影響もあるんじゃないかと(笑)。玄野計がパーマンで、下平玲花がパー子みたいな。

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GANTZ 1

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パーマン 1

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中川あははは! 見た目は全然違うのに!

でも、そこに僕が影響を受けたハリウッドの実写映画とか、『必殺仕事人』とか、そういう風味を入れていくことで、自分にしかないオリジナリティが出てくるのかと。

中川なるほど。あと、先生が描く女の子たちは、女子が見てもすごく興奮するんです。「これは美少女という範疇なのだろうか?」っていう微妙なルックスの子がいたり、レイカみたいに黒髪ロングでボインの、「うわ、もうぶっちぎり!」っていう子がいたり、他にも大阪弁のボブの子など、結構いろんな女性を描き分けていらっしゃいますけど、本当のタイプはどれですか?

ええ? タイプ……ですか? どの子も好きというか。男の子もおじいさんもですが、やっぱり好感を持てないと描けないので。全キャラ好感を持って描いていますね。ただ、『GANTZ』の西(丈一郎)くんは最初、「とことん悪い奴にしよう」と思って登場させたので、実はあまり好きじゃなかったんですよ。こんなこと言ったらファンに怒られるかもしれないけど(笑)。「こいつ早く死ねばいいのに」と思って描いてました。

中川あははは、めっちゃ面白い!

それでわりと早めに退場させたんですけど、『GANTZ』のファン投票をやったら西くんがダントツで人気ナンバーワンだったんです。「あら、簡単に殺しちゃったけど良かったのかな……」と思って生き返らせましたね、ファンサービスで(笑)。

中川生き返ってからの西くんはめっちゃイケメンでしたよね(笑)。しかも、実写が本郷奏多くんだったのがもう、「ありがとうございます!」っていう感じでした。

本郷くん、ぴったりでしたね。ご本人にお会いした時も、すごく好感の持てる方でした。

中川それと気になったのは、作品の中のバイオレンスなシーンや、エロティックなシーンはどこから来ているのか?ということなんです。

それもやはり映画でしょうね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で映画にのめりこみ、『キック・アス』のような過激なヒーローものや、それこそホラー映画などたくさん観て影響されました。気に入ったシーンがあると、なんでも入れたくなるんですよ。それから西くんもそうですが、悪は徹底的に悪のイメージで描きたかったし。本当に凶悪なことをする悪人を出したかった。逆に「正義」をおこなう者は、「正義ってなんだろう?」ということを真剣に考え、僕が思う「正義の見方」を作り上げられたらなと思っていましたね。

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中川獅子神って、ネット世代のドライなところがあって。「他の奴なんてどうでもいいから殺そう」という怖さもありつつ、でも自分にとって大切な人や親、好きな子のことは守る。すごく揺れているというか、矛盾を抱えているところが魅力的なんですよね。『ガンダム』や『イデオン』がお好きと聞いて、単純な勧善懲悪ではない世界観など影響されているのかなと。

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あ、そうですね。それはあります。凶悪な人物ではあるんだけど、まったくブレない単なる凶悪な人だと、マンガっぽくなっちゃう。「こんな奴、実在してないだろ」って。「この人物は、世界のどこかで本当に生きて暮らしているのかも」と思わせるためには、多面的に描く必要があると思ったんです。

中川なるほど。

あとこれ、僕が自費で2年かけて作った同人誌です。『GANTZ』の名場面集というか、特に印象的なシーンを大きく引き伸ばして印刷したもので、100部限定。別に売るとかではなく、僕の作品を愛してくれた人にお届けしようと思って。それで今日、中川さんに持って来たんです。

中川ええ!? ありがとうございます! うわー! この世に100冊しかない本を? うひゃー! 鳥肌が止まらない。奥先生って本当に、いぬやしきさんみたい。人を幸せにするために生きているんですね。

いえいえ、そんなことないです……(笑)。単純に感謝の気持ちだけなんです。大きくて荷物になってしまうかもしれないですが。

中川末代までの家宝として、家に飾らせていただきます! この中に、先生の描いた会心の一撃たちが詰まっているのですね。(実際にページをめくりながら)うわあ、ページを開いた時の絶望感! ここはマンガで読んだ時も、「もうこれで人生が終わった」という感覚になって、何故だかそれがとても気持ち良かったんですよね。「あ、死ぬ!」って思える臨死体験。それを今、描いた張本人である先生の目の前で味わうという……言葉にできない快感です!

(笑)。

生きている時間はすべてがインプット

中川先生は、道具は何を使っていらっしゃるのですか?

僕は丸ペンと、筆ペンです。

中川筆ペン? 普通に売ってるあの筆ペンですか?

はい。ペンてるの筆ペンです。それで顔や体のラインなども描いています。『GANTZ』の途中まではGペンで描いていたんですけど、「Gペンって出来が良くないな」と段々思い始めてきて。モノによっては綺麗な線が出なかったりするのがあるんですよ。「どうも描き味がよくないな」と思っていたところで、それまで髪の艶だけを出すためだけに使っていた筆ペンに気づいて。「これでイケるんじゃないか?」と思って顔を描いてみたら、「ペンよりこっちの方がいいじゃん!」ってなった。そこからずっと筆ペンですね。太い線から細い線まで、すべてこれ1本で描けるところも気に入りました。

中川ところで最近、好きなマンガはありますか?

福満しげゆきというマンガ家の、『うちの妻ってどうでしょう?』という、実体験を元にしたエッセイマンガが大好きですね。若い頃からモテずに鬱屈し、それでも結婚し子供まで授かることが出来た顛末をエッセイにしているのですが、なんかすごくハマっちゃって。「どうしても会いたい」と思って、ホームページの連絡先から「会ってください」って直接連絡したんですよ。「大ファンなのでお会いしたいです」って。そうしたら、「本物ですか?」って返って来ました。相当怪しまれたみたいです。

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中川そりゃそうですよ!(笑)

今では家族ぐるみでおつきあいさせてもらっているのですが、ほんと若い頃の描写とか、とにかくうだつの上がらない自分を赤裸々に描いていて。「この人、よく結婚できたな?」っていう感じなんですが(笑)、それも含めてマンガも福満さんも、大好きになってしまう魅力があるんですよね。

中川奥先生にもエッセイマンガを描いて欲しいです。

僕みたいなつまらない人間のエッセイなんて……。

中川いやいや、読者からすると先生は本当に謎すぎるし、お会いしたらもっと謎が深まったし、すごく面白いエッセイに絶対になるはずです!

謎が深まりましたか(笑)。僕のアシスタントをやってくれていたことのある、武田一義というマンガ家がやはりエッセイマンガを描いていて、そこには僕も時々登場しますけどね。

中川うわあ、読みたい! 読ませていただきます。ところで、お休みの時とか何をされているのですか?

映画を観に行きますね。最近観たSF映画は『メッセージ』と『ライフ』が良かった。映画を観るのは息抜きでもありストレス発散でもあり、絶好のインプット対象でもあります。自分にとって、生きている時間はすべてがインプットというか、何をしている時でも「マンガのヒントにならないかな」と思っているし、「人生そのものがすべて作品に反映できる」と思っています。マンガというのは、そのくらいやり甲斐のある媒体なので、僕をマンガの世界に導いてくださった手塚先生と藤子先生には感謝しています。

中川奥先生、今日の対談はいかがでしたか?

楽しかったです。今日、中川さんにお会いしたらお聞きしたかったことがあったんですよ。僕は子供の頃にアニメをよく観ていて、特に『超力ロボ ガラット』(1984年)が大好きだったんですけど、主人公マイケル・マーシュの声を、中川さんのお父様(中川勝彦)がやられていて。その時ってまだ生まれていないですか?

中川確か生まれた年だったと思います。その時に父が、「いつか自分の子供が大きくなった時に観てくれたら嬉しい」と発言していたみたいで。当時は結構、シリアスなロボットアニメが全盛で、そんな中でのあの路線っていうのがすごいなと。最近もどこかで再放送されたみたいで、作品はこうやって永く残るものなのだなあと感動しました。

そうですね。

中川思春期は父のことが嫌いだったし、「私は違う人生を生きる!」なんて反抗していた頃もあったんですけど、こうやって奥先生のように、父の思い出話を私にしてくださる方がたくさんいて。自分は父のおかげでここまで来られたのだと今は感謝しているし、父とは好きなものが似ていたと思うので、いろいろ話がしたかったですね。絶対『GANTZ』の世界観とか好きだろうから、一緒に読んで語り合いたかったです。

そうおっしゃってもらえるととても嬉しいです。あの中川勝彦さんの娘さんが、今こうしてご活躍されていて。ご本人に直接お会いできるなんて、マンガを好きでいてくれて僕もラッキーです。

中川そんな、もう本当に生きていて良かったと思います。今日はお忙しい中ありがとうございました!


「インタビュー終了後、奥先生から手描きの色紙がプレゼントされた。」

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Profile

中川翔子

女優・タレント・歌手。2004年11月からスタートさせた公式ブログ「しょこたん☆ぶろぐ」で人気を博し、2006年にはシングル「Brilliant Dream」で歌手デビュー。同年、愛猫・マミタスの写真集『ギザ☆マミタス!!』も発売。このほかにも声優やイラスト、漫画家、ドラマ出演など、多方面で活躍するマルチタレントぶりを発揮している。デビュー10周年を迎えた2012年には念願だった初のアジアツアーを大成功に収めた。近年は女優としても積極的に活動し、2015年には朝の連続テレビ小説『まれ』に出演。2017年にはTBS系ドラマ『あなたのことはそれほど』で、横山皆美役を演じた。
2018年1月より東京芸術劇場にて公演のミュージカル「戯伝写楽」にヒロイン『おせい』役として出演予定。
http://www.shokotan.jp/

奥浩哉

1968年9月16日、福岡県福岡市生まれ。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に「久遠矢広」名義で投稿した『変』が、第19回青年漫画大賞に準入選、『週刊ヤングジャンプ』に掲載されデビューする。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを『変 ~鈴木くんと佐藤くん~』と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は大きな反響を呼び、1996年にはTVドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた先駆者として知られ、2000年より同誌にて連載した『GANTZ』はアニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。 2014年より『イブニング』にて『いぬやしき』の連載を開始。2017年10月よりTVアニメとして放送予定。

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