ブックキュレーターHONZ代表・元日本マイクロソフト社長 成毛眞
無理して揃えておきたい本
高額であったり、本そのものが巨大であったり、長期シリーズであったりして、購入するのがためらわれる本がある。ここではそれでも揃えておきたい、資料として価値があり、読めばめっぽう面白い、一生ものといえるシリーズ本を紹介する。
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『日本の歴史』は、日本史の本としては圧倒的な網羅性と信頼性を誇るロングセラー・シリーズだ。全巻揃えて第1巻から読んでもいいが、通史として読むよりむしろ、知りたいときに知りたいトピックをピンポイントで拾い読みするとよいかもしれない。本書は1つのトピックが分量的に長すぎず短すぎず、概略を知るのにちょうどよいのだ。別巻の「対談・総索引」では、各巻の著者と著名人との対談が収録されている。丸山眞男、土門拳、野上弥生子、瀬戸内晴美(寂聴)、遠藤周作、松本清張など、錚々たる顔ぶれである。
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本書は、明治4年から6年にかけて、のべ632日間、岩倉具視、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文ら一行が欧米諸国を巡察した、いわゆる岩倉使節団の公式記録である。使節団の1日は貪欲の一言に尽きる。訪れた先の何から何まで、細大漏らさず見て学び取る気迫にあふれている。たとえば、明治5年の正月27日に一行は、ワシントンの連邦議会議事堂(キャピトル)をたずねている。建物のサイズから、アメリカの議会制度、憲法にいたるまで詳細に記録する。鉄道、運河、橋梁など、殖産興業のためのインフラ視察も忘れない。使節団をアレンジした人たちの目配りの広さには驚かされるばかりだ。
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各巻の切り口の斬新さがセールスポイントの歴史シリーズである。たとえば、第19巻『空の帝国アメリカの20世紀』は、アメリカの隆盛を、航空、宇宙、情報ネットワークという側面からたどる。歴史学の最新知見をもとに書かれた巻もあり、野心的な著作がならぶ。執筆者も歴史学者だけでなく、政治学者、社会学者、建築史家なども加わって、1冊ごとに書き手の個性がよく生かされている。従来の歴史書とは異なる、特色の際立ったシリーズだ。
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著者のブローデルに代表されるアナール学派は、従来の実証主義的な歴史学とは一線を画し、社会学、心理学、人類学、地理学などの発想や解釈を採り入れ、学際的な見地から歴史をとらえ叙述するアプローチをとる。「難攻不落の歴史書」としても名高い本書である。たとえ途中で挫折したとしても自信をなくす必要はない。他の本でヨーロッパ史をひと通り押さえたあと、少し視点を変えてみたいとき手に取るとよいだろう。自分の歴史認識に磨きがかかるとともに、本書が一層輝いて見えてくるはずだ。
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B4判、各巻約300ページ、その約3分の2をカラーページが占める。各巻のこだわりにも目を見張る。第14巻では「動植綵絵(どうしょくさいえ)」全30幅を収録する。通常の展覧会ではおそらく一度にお目にかかれない、伊藤若冲の最高傑作である。しかも使われている写真は、修復後の絵を一幅一幅、最新鋭の技術を駆使して撮影したものだ。細部まで緻密に再現するために18分割でデジタル撮影し、つなぎ合わせているという。これだけの規模と質の美術全集が印刷物として刊行されるのは、ひょっとすると本全集をもって最後になるかもしれない。
ブックキュレーター
HONZ代表・元日本マイクロソフト社長 成毛眞1955年北海道生まれ。元日本マイクロソフト代表取締役社長。1986年マイクロソフト株式会社入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。現在は、書評サイトHONZ代表も務める。『2040年の未来予測』(日経BP)など著書多数。
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