ブックキュレーター哲学読書室
国家と宗教の関係について考える
「世俗」と「宗教」という二分法自体に疑問を差し挟み、それが成立する言語的空間自体を「世俗主義」というイデオロギーとして告発する、宗教人類学者タラル・アサド。彼の近著『リベラル国家と宗教』を出発点に、国家と宗教の関係について考えてみる。【選者:[カリ]田真司(かりた・しんじ:1966- :國學院大学教授)[カリ]は草かんむりに列】
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本書で、アサドは「翻訳」概念を導きの糸としつつ、近代国家と宗教の複雑に入り組んだ関係を解きほぐしていく。それは、「近代的自己」という新たな主体の形成に伴って、「宗教」そのものが形を変えていく過程であり、世俗との間で、そして近代以前の「宗教」との間で「翻訳不可能」な関係に立って行く過程なのである。
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近代国家(あるいはそれが前提し要求する近代的自己)と宗教との関係をもっとも典型的な形で表現しているのは、フランスのライシテである。本書は、アサドによる「世俗」/「宗教」二分論批判を出発点として、19世紀のフランスにおける道徳と宗教学の展開から、世俗と宗教の境界線の変遷を巧みに描き出している。
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世俗の時代 上
チャールズ・テイラー(著),千葉眞(監修・編)
アサドが駆使する「伝統」・「共同体」・「自己」といった語彙は、アサドと同じく近代における世俗と宗教の問題を思考しているテイラーの語彙と重なる。イスラムとカトリックという、まったく異なる(実はアサドによれば必ずしもそうではない)宗教的伝統を背景とする二者の世俗-近代論の比較は興味深い。
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世俗と宗教を、「公的なもの」と「私的なもの」という区分と同一視するのでなければ、世俗による「私的なもの」の支配(生権力)もあり得るし、宗教の「公的な機能」もまたあり得る。本書には、世俗と宗教の関係を対立関係ではなく、主体化をめぐる闘争として理解し直すための基礎的な論考が収められている。
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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