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なぜ日本は列車の発車で時計を合わせられるほど鉄道が正確な国になったのかを解き明かした名著です。
日本全国どこでも寺社や町で時を知らす鐘があってすでに江戸時代に一般庶民まで時間を気にして生活する文化があり、国と江戸を頻繁に行きかうという地方と都市あり方が参勤交代によって形成され、伊勢参りなど旅行が庶民の文化として根付いていた背景が「鉄道が時間に正確に動く」ことを前提とした社会を作り上げていったと説明しています。
また、技術やシステム工学的な説明も正確でわかりやすいです。列車が遅れないようなダイヤ作りや、コストは高いが冗長性の高い方式の電車(動力分散方式)を採用し、貧弱な駅や線路を効率よく使用する工夫などを通して安定したシステムを作り上げ、高い技量をもった運転士をチームプレイで支える組織の存在が「鉄道が時間に正確に動く」ことを加納にしていると説明しています。
日本の鉄道の正確さを通して社会、経済やくらしと交通のあり方について述べている鉄な人以外にもお勧めです。
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日本の鉄道は世界でも類がないくらい時刻に正確です。
それは何故なのでしょうか?
また、どのようにそうした定時運行をしているのでしょうか?
日本だから可能なのか?
いろいろと裏話がわかり面白いです。
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中国の鉄道事故のニュースの接し、自分の本棚にあった関連書を再読。
のぞみ号を3分間隔で定刻運行する新幹線の安全確保の本質にふれることができる。
280Km/hからの制動能力は約4Km、1分半。前方の異常から残りの1分半以内で非常ブレーキを100%確実に作動させなければならない。しかも、その1分半には乗客、自然現象、事件、設備故障、人間のミスなど様々な撹乱要因が襲い掛かる。
「鉄道事業のほとんどの人は、運転士を支えるために働いているといっても過言ではない。定時運転の実現は、大勢の鉄道員の緊密な連係プレーに支えられた結果であり、最後の決め手が運転士の腕前であるのだ」...鉄道の技術の海外移転の課題を垣間見ることができる。
著者が女性であることに、後書きを読むまで気がつかなかった。
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鉄道運行のとっかかりとしては最適な本だと思う。軽い日本の鉄道に関する歴史から始まり指令室でのダイヤ回復の動き。ダイヤの解説など盛りだくさんである。広汎な解説もありなかなかおもしろい。駅が多い方が回復運転がしやすいなど目から鱗である。
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1.日本の鉄道は1分遅れただけでなぜ謝るんだろう。2.スジ屋の仕事を詳しく知りたい。そんな動機から適当に検索して出会った本です。本書はどちらかというと「1」の方を掘り下げたもの。
まず、データとして本書の内容を引用しますと。
・JR東日本の1列車あたりの遅れは、平均してわずか0.3分。
・JR東日本の定時運航率は新幹線で96.2%、在来線で90.3%、欧米の定時運航率は約9割。ただし、日本では「1分」の遅れから「遅れ」とみなされますが、欧米などでは「10分」「15分」からが「遅れ」とみなされます。
本書序盤は、日本の鉄動の正確さの起源を考察していて、それは江戸時代やそれ以前までさかのぼっての「国民性」ではないかという論を展開します。正直、ここの部分は、資料が少ないせいもあるのでしょうが、検証よりも推論が多く見られ、それなりに納得できるんだけど釈然としないものも残りました。まぁ、著者の考えであると割り切れば良いのかもしれませんが。
その後、明治維新後の鉄道の始まりから戦後に渡って、日本の鉄動がどのように「正確さ」を獲得してきたかが書かれます。そこには、正確であるべきと言う漠然としたものが、あるひとりをキッカケにシステム化されていくさまが描かれていて、なかなかに刺激的です。
その結果。昭和40年代の「お召し列車」の運転手が「東京-名古屋-京都-新大阪の運転で、停車位置1cm、時間は5秒以内の誤差しか許されていなかった」ことが証言され、「ただ、特別な事情が無ければ誰でもこの範囲で運転する」と信じがたいことを語っています。今から40年前でそうだったのです。
後半は、実際に「定刻発車」をするために、どのような工夫と努力がなされているのかに割かれています。このあたり、実際の我々の日常ともリンクします。そして、21世紀を迎えて検討されている「新しい鉄道ダイヤの仕組み」にも言及され、それは今の定時運転とは全く別の概念なのですが、なるほど「必要な時、必要なところへ、必要なだけの鉄道を」とでも言いますか、鉄道の「オンデマンド」を感じる側面がありました。
私的に、前半の推論の多さが気になったので☆は3つですが、総じて「鉄」の方なら興味深く読めるでしょうし、そうでない方でも、日本の鉄道の正確性になんらかの疑問なり興味なりを持っていれば、面白く読めるのではないでしょうか。
※読んだのはハードカバーでしたが、文庫版でレビューです。
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日本の鉄道の定時運行率は世界的に見て特異。欧州でも15分未満の遅延は遅れにカウントしないというが,日本は1分1秒違わぬ運行を目指すのが当然とされている。その背景・経緯をいろいろ考察してある。
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JR西日本の福知山線脱線事故は記憶に新しい。あの事故が日本中に与えて衝撃は大きかった。メディアではJRの体質に関する論評が溢れかえり人々はその対応を糾弾した。当時、東京に住んでいた僕も通勤にはJRを利用していたため、あの事故にはいろいろ考えさせられた。
そんな事故の衝撃のさなかに出版されたのがこの本である。事情を調べてみると、もともと出る予定だったのがたまたま事故と同じ時期に重なってしまったらしい。奇妙な偶然ではある(おかげでよく売れたようだ)。
本書では、「なぜ日本の列車は遅れないのか?」をメインテーマに据え、日本人論・日本社会論へと発展していく。それはわれわれ日本人の世界における位置づけまで浮き彫りにされていく、たいへんな労作である。
現場からのレポート、膨大な資料・文献の分析から見えてくるものは、何のことはない、定刻発車させているのはわれわれ乗客(日本の社会)の方である、という当たり前の事実だ。
しかしそれは驚愕する事実でもあり、ショックでもある。
福知山線の事故原因は、定刻に到着するためにスピードを出しすぎた、というのがほぼ一致した見解のようだ。そこで大抵の乗客は運転士を批判したのだ。ところがそれを急がせたのはわれわれの方なのである。
なぜ列車は定刻に発車し、定刻に到着しなくてはいけないのか。そんな素朴な疑問から私たち自身を見つめ直す事になる。
渾身のルポルタージュ。
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発売時に評判になつてゐたのは知つてゐましたが、今回初めて読んでみました。
予想以上の面白さと申しませうか。サブタイトルの通り、日本の鉄道が正確に動く理由は何かを考察した一冊でございます。
ヨーロッパあたりの鉄道でも、定時運転率は9割くらいで、一見日本と変らぬやうに見えますが、「遅れ」の定義が各国で違ふので、内実は大きく異なつてゐるさうです。フランスの超特急TGVの場合、14分以上遅れなければ定時運転としてゐるといふことです。日本では1分以上をすべて「遅れ」としてゐるので「世界で最も正確」の称号も頷けるところです。
日本の鉄道が正確である背景として、日本の地形の特徴や都市の点在ぶり、さらには参勤交代といふプロジェクトですでに日本人は「ものごとをつつがなく進行する」風習があつたと指摘します。ここまでさかのぼるとは思ひませんでしたね。
世界でも珍しい「電車王国」となつたことも一因でせう。ここでいふ「電車」とは、文字通りの電車ですよ。
「運転の神様」「奇行の人」結城弘毅の影響も示唆してゐます。この人は昭和5年といふ早い時期に、超特急「つばめ」を走らせて世間をあつといはせたことで有名ですね。当時11時間かかつてゐた東京-神戸間を、3時間短縮して8時間運転とする、と発表した時は皆が信じられず山師扱ひされたとか。(実際には2時間40分短縮の8時間20分運転。)
新宿駅みたいな巨大ターミナルがあると、定時運転せざるを得ない。また、遅れてもそれを取り戻せるシステムについて、噛んで含めるやうに説明してくれます。欧米と比べて駅設備などシステムに余裕のない日本だからこそ、遅れない鉄道を作らざるを得なかつたといひます。
しかし余裕のない現状のままでいいのか、著者は疑問を呈してゐます。線路設備を欧米並みにすることは無理としても、悲観することはないと提言するのでした。
「何が最適なストックであるかは、国や社会によって違うし、余裕というものは技術が発達すれば増えるものだからである。それにいつも列車が時刻表通りでなくとも「何とかなる」ように、社会の方が変わってゆく可能性もあるように思うのである」(第12章)
礼賛一辺倒ではなく、「鉄道員や乗客の犠牲の下に成立してきた側面は否定できない」と問題点を指摘し変革を求めます。やはり何でも「問題」と感じることができないと改善につながりませんね。私などは鉄道を利用しても、うん、時刻表通りだね、結構結構と満足して終りなのですから。
本書の執筆後に、あの福知山線脱線事故は起きてゐます。やはり余裕のなさが鉄道員たちを追ひつめてゐたのでせうか。
http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-177.html
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日本の鉄道も最初はいまほど正確でなかった。幾人もの普通の鉄道マンの努力の積み重ねで今の状態まで来たのだという事がよくわかる
面白いです。
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日本が世界に誇れる(数少ない?)ものの1つ「定刻発車」を江戸次第までさかのぼる歴史面・鉄道システム面から分析。こういう作者と当事者たちの熱が伝わってくるドキュメンタリーは好き。これを読むと、無愛想な駅員さんや電車の遅延もなんだか許せてしまう。
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非常に面白かったです。
日本の鉄道が世界一正確だということはなんとなく知っていましたが、その背景として日本人の時間に正確な国民性、地理的制約、鉄道会社の努力があったことは知りませんでした。
都市形成において、鉄道が果たす役割の大きさにも改めてびっくり。
すべてにおいて、スケールが大きい話なんだけど、一方で非常に身近な話でもあり、読みやすい本でした。
ちょっと前に発行された本なのでJR西日本の列車事故や、最新のシステム
の話などはわかりません。そういった話も知りたくなりました。
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図書館で借りました。
この本が書かれた後に福知山線の事故があったのかなあ?
鉄道の安全神話が壊れた瞬間でしたね。あの事故は。
それにしても欧米と日本では背景と利用目的が違うのだから当然運用方法も違ってくるということは良くわかりました。鉄道は日本人にとって定刻に走って当たり前、と言う存在なんですね。
今は検索エンジンで簡単に乗り換えも調べられますので便利になった反面、電車の遅れにはさらに厳しい目が向けられている気がします。
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日本の鉄道運行ダイヤの正確さは世界的に有名だが、この正確さを支える仕組みがなんなのかを素人でもわかるように解説されている。
そもそも、日本の「時刻」対する認識はヨーロッパなどに比べてもも古く、平安時代から、人の出生の時刻が刻まれていた、というのは興味深い。
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けっこう読むのに時間がかかった。。途中で読むのが疲れちゃった・・・かな?
随所で「へぇ」ポイントはあったものの、基本は「日本人きっちり」「みんなの協力のもと定刻が維持されてるんだよ」ということを中心にして、話が展開されていく。取材を元にしたレポートもあるが、結構筆者の想像である部分も多い。同じようなことを行っている部分も何箇所かあったような気がするので、もうちょっと本薄くできたんじゃない?とも思ったりする。
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現在3000万人以上が住む首都圏、JR新宿駅の乗降客数は世界一の一日160万人。
時間になっても電車が来ない…それで「まあ、そのうち来るさ」なんて構えてない。
「神の思し召し」で納得する訳がない。絶対ない(笑)。
当にこの国民性にしてこのシステムありき。なぜ電車は正確な時間にくるのか。
著者は明治以前、江戸時代の参勤交代、更には奈良時代から現在の鉄道の源泉を掘り起こし、明治維新後の国家国民二人三脚での近代化の中で鉄道が巨大システムへと発展してきた過程、抱える宿命を探る(序章から第一部・環境まで)。
列車の運転士にとって、一秒は重く、10センチは大きい。
決められた時刻、決められた位置に揺れなく停車しても、誰に褒められる訳でもないのに、黙々と正確な運転を努めようとする意識と脅威の運転技術。
車両の設計、整備を担当する“機械屋”は「今年の故障件数は去年より少なく、来年の故障件数は今年より少なく…」と、線路のメンテナンスを担当する“保線屋”は「俺が担当する線区からは絶対にトラブルを出さない」という気概の下に仕事をする。
それぞれの専門家が、それぞれの責任で、それぞれの要素技術を鍛え上げ、ノウハウを蓄積し、多くの攪乱要因を克服してきた。その数字、日本とドイツの鉄道の100万キロあたりの列車故障比にして、大都市交通で1対40、超高速列車で1対20。
そして利用者もまた、マナーを守ることによって定時運転を支えている。
国鉄時代、赤字を抱えていた頃でさえ、列車は定刻通りに運行していた。民営化され、システムが進化しても、二律背反する正確と安全を守るのは、結局はまだ「鉄道員の誇り」といった現場の人間の意識と技術にその多くを支えられている。
日本の近代化と共に歩み、毎年の自然災害、いくつかの震災、そして戦災を乗り越えて来た鉄道は今、正確さを超える時を向かえているのかも知れない。来るべき未来、鉄道はどうあるべきなのだろうか──(第二部・仕組み)。
鉄道が抱える問題はあらゆる企業や社会そのものが抱える問題に共通しています。
日本は鉄道に限らず飛行機(空)、船舶(海)、車、そして人間も過密状態で、実は安全と大事故が背中合わせの社会。そこで人命に関わる大きな事故があまり起こらない、安全でしかも正確なシステムを作り、運営していく為には膨大な時間と費用と人の努力を費やさなければならず、要するに日本人、日本という国は、企業や利用者という枠を超えた個々の努力なしには立ち行かないということを改めて実感させられます。
毎日がんばって働く人、これから働く人に一度読んでほしい一冊です。