紙の本
鉄道と日本人の生活との係わり合い。実に興味深いが、鉄道技術本ではない。
2005/05/24 15:49
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の鉄道が時刻に正確であることは、われわれ日本人にとっては当たり前なのだが、これが世界の中ではきわめて珍しいことであることはあまり知られていない。著者はこれに着目して、世界広しといえども日本の鉄道だけが何故時刻に正確なのかをテーマとして探っている。
時刻に正確なのは何も鉄道に限らず、国民性なのではないかと勝手に想像してみたのだが、果たして探求の成果は如何に。江戸時代の生活習慣、すなわち、時刻が定着し始めたところから紐解いている。なかなかの労作であるし、興味深い。
列車を時刻に正確に動かすには、多様な力が働かなければ到底なし得ないことも解き明かしている。そして、正確であるということは、もしも遅れた場合に直ちに正常に回復させる能力も含まれていることを分からせてくれる。
これらの鉄道に携わる大勢の人々の努力によって日本の鉄道が時刻に正確に動いていることが理解できる。
本書は3部構成をとっていて、1部が「環境」で時刻の定着の仕方や鉄道での時刻の感覚など、2部が「仕組み」で正確な時刻を維持するために、鉄道関係者がそれぞれの職務でどのように活躍しているかなど、3部が「正確さを超えて」となっている。
先日の尼崎でおきた死者100名を越す脱線事故後に、本書は偶然にも時期を違えず文庫版が発刊されたが、時刻に追われて運転士が追い詰められることは、本書を読んでもよく理解できる。なぜ、それほどまでに正確さを維持しなければならないのだろうか。
今度の事故原因は、運転士がカーブで減速し損なって脱線したものだが、時刻を守ろうとするあまり、スピードを出して回復しようとしたために生じたものであろう。たとえ遅れても直ちに回復し、より短時間に目的地に到着できることを利用者であるわれわれが鉄道に求めている。時刻表を見て2、3分遅れていようものならたちまちイライラする。
時刻に遅れるということは、それだけ前後の列車との間隔が狭く、遅れは直ちにレール上にいる列車全てに遅れが出るということである。ダイヤに余裕がない。それだけ前後の列車との間隔を詰めるのは需要があるからで、やはり原動力となっているのは利用者側のニーズなのである。
本書は鉄道保安にかかわる最新技術を紹介することを趣旨としていない。したがって、ATSやATCなどの信号保安技術はあまり表には出てこない。むしろ、鉄道の時刻が正確であることが社会に与える影響や意義を探り、掘り下げている。しかし私は前者であると考えて本書を手に取ったので、期待を裏切られてしまった。技術的な考察や展望が詳しく書かれているわけではなく、本書はまさに社会学的な研究であって、鉄道の時刻とわれわれの生活との関係を探った点が興味深いのである。その点では日本人の誰もが読める書で、鉄道を見る視点がきわめてユニークであった。
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JR福知山線脱線事故が起こったのが4月25日、この本が文庫で発売されたのは
ほとんど翌日だったと思う。とんでもないタイミングで出てしまったわけだけど
事故の背景を知るには最適の一冊である。
事故を起こした運転手が取り戻そうとした1分半の時間。
たかが1分半と思っていた時間がいかに運転手にとって
大きなものだったのかが一読してよくわかった。
事故を視野に入れて出版されたものではないので帯の
「ぜひ電車の中で読んで下さい。面白さが増します」
「山手線の運転士は驚異の運転技術で遅れを取り戻す!」
といった文章がなんとも恐ろしいものに見えてしまう。
先日、京都の古本市に向かう列車の中で読み、どんどん混んでくるので
奥に追いやられ気が付いたらなんと運転席の真後ろ。
ガラス越しに運転手の点呼を聞きながら読んでると乗り過ごしてしまった。
そういったこともあってもっといろんな感想が頭に残っているのだけど
ニュースの映像がまだ生々しくて言葉がまとまらない。
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自分も友人も、鉄道が非常に大好きである。
あの不幸な福知山線転覆事故が起こり、JR西日本の対応やそのバックに潜む鉄道運行の現実にひどく落胆したものの、それでも自分は鉄道が好きなのだ。
なぜ鉄道が好きなんだろう、友人の答えは「インダストリアルであるから」だった。確かにそうかもしれない。
事故が起こったときの会見で「人の命を乗せているんだぞ!hogehogehoge」といった罵声があった気がする。しかしふと思ったのは、そんなこと意識して電車乗ってるか? ということであった。
鉄道はまぎれもなく人間が運行している巨大システムである。だが我々の感覚では、時刻通り電車が来て、10秒も止まればドアが閉まって駅から出て行く、ということは当たり前であり、それはもはや「超高速動く歩道」に同一視できるようなものであったのではなかろうか。つまり、鉄道員、レールや信号機などのハードウェア、管理システムというソフトウェア、そして、乗客、この全てがシステムに組み込まれすぎていて、逆に人間の関与するところとはとても思えなかったのではないかということだ。
恐らく電車がスピードの出しすぎでカーブを曲がりきれずぶっ飛ぶなんてことは、乗っていた人にとって想像の範疇に無いのもいいところであり、それはごく普通の感覚である。もしこの電車が事故ったら……なんて考えてしまうようになったのは事故の以後なのだ。それくらい日本の鉄道システムは優秀すぎるのである。
結局マスコミも(いつものことだが)半端に茶々を入れるだけ入れて、一通り被害者に喰らいついてゴルフやオーバーランを叩いたら、事件に飽きてしまったようである。過密ダイヤが是か非か、なんていうことも扇動するだけして、ハイ終了、だったようだ。
この本を読んで、結局鉄道が、そして運行システムが、なぜインダストリアルな魅力を放ち、我々もそれを単なる工業製品的に乗り回していたのか、それがわかったような気がした。もちろん、それにより鉄道がより好きになったことは言うまでも無いが。
事件を通して鉄道システムに疑問や不信感を持った人は、本の前半、なぜ日本という国に正確な鉄道システムが根付いているか、鉄道システムではどのようなメカニズムが働いているか、という部分は「なんだよ、ヨイショしてるだけか」と思うかもしれない。しかしそれでも最後まで読んでみて欲しいと思う。最後になされる疑問の提起とそれに対するこれからのビジョンには、考えさせられるはずである。事故が起きたことで余計に。
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以前、ハード版で読んですごく面白かった印象がありました。思ってもいなかった文庫化に、即購入。帯の言葉どおり、毎日電車で読んでいます。このタイミングで文庫化されたというのは、偶然とはいえ凄いものを感じます。
心に残るのは「良いダイヤは遅れない」と言う言葉。日ごろから遅れがちであった、福知山線のダイヤはそのスジの人から「アクロバティックなダイヤ」と呼ばれるほどだったとか。良いダイヤに必要なのは、まさに「ゆとり」であると思い知らされました。
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電車が生まれた歴史から現在の定刻発車への技術システム、そして未来への可能性。それが丸ごと一冊に収まったこの『定刻発車』。電車好きと、毎日電車を利用される方におすすめです。
気候にも左右される鉄道。
折りしも台風が近づいている今日この頃。鉄道人たちの総動員を応援いたします。
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日本の鉄道はなぜ正確なのかについて江戸時代まで遡って日本人の国民性から、明治に鉄道が敷かれてからその後鉄道システムがどのように構築されていったのかを丹念に調べた本。鉄道はものすごい広がりを持ったシステム上で動いている事が分かります。
JR西日本福知山線事故のその当日に文庫本が出てます。因縁を感じる一冊。
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05/10/12読了。
日本では電車は正確で当たり前だけど、そこには日本独自の背景や歴史が絡んでいて、難しくも興味深い世界だった。今度からそんなことも意識して乗ってみよう。
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新潮文庫のパンダ人形ほしさに買いました。電車で読むのにぴったり。
指定席車両が固定じゃない理由・・・知りませんでした
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鉄道人にとっては必見。そうでない人にとってもこの本の与えてくれる知的好奇心は、読む手を休ませることが無いでしょう。定時運行の舞台裏にある鉄道人の役割やその歴史を、日本における鉄道の歴史に遡って検証し、いま現在の鉄道のあり方を述べている。身の回りにある「当たり前」の裏側にある深い歴史と人々の役割に思わず感嘆し、目から鱗の一冊である。
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同じ記述が何度も出てきたりして、あまりスマートな文体ではなく少し読みづらい。が、内容は面白い。江戸時代にまで遡って日本人の時間感覚をさぐったり、巨大なシステムの運用には、絶対ミスの許されない直列つなぎより、どこかがイカレても他でカバーの効く、並列つなぎがうまくいく、とかためになる話だった。
2005/08/11
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日本の鉄道の正確さ…。奇しくも福知山線脱線事故の後に読んだ著。世界一正確といわれ、正確さを求めた車掌が交差していきました。正確さ一位を返上する時期に来てるのかもしれません。
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日本の鉄道の正確さが何によって保たれているか、ということについて、シロートにもわかるような言葉で書かれた本というのは、じつは意外に少ないのかも。本書の幹となっている「仕組み」部分の話は、非常におもしろいですね。そして、その「仕組み」が成り立つための前提条件として、近代以前からの文化的要件も無視できないのでは、という指摘も興味深く感じました(語られている中身にうなずけるかどうかとは別に)。(20070424)
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たった一分一秒の遅れを出さないために、こんなにも努力がされているなんて。
それぞれの仕事を真剣に頑張る鉄道関係者たちは貴い。
だけどなんかバカらしくなる。ほんの少しの遅れで怒り狂う人たちが。
鉄道側のみならず利用者側にもミスは許されない。
ラッシュの満員電車に子供老人妊婦おのぼりさん障害者その他、流れを乱す弱者は乗れない。乗れば白眼視される。
電車の遅れ・その結果の遅刻、どちらも許しがたい行為。
ってそこまで神経質に遅れを許さない社会ってどうなの?
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正確さの陰にある福知山線事故のようなネガティブな側面はあまり述べられない。情報化技術によって乗客にも乗員にもゆとりがもたらされるべきというのは同意。鉄道だけでなく、社会システムの変革も必要だろうね。
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電車が2~3分遅れるだけで腹を立てる日本人。
なぜ私たちは“定刻発車”にこだわるのか。
その謎を追うと、江戸の参勤交代や時の鐘が「正確なダイヤ」と
深く関わり、大正期の優れた作業マニュアル、鉄道マンによる
驚異の運転技術やメンテナンス、さらに危機回避の運行システム
などが定時運転を支えていた!
「なんで時間通りに電車が来ないんだ!?」ということを
私は海外に行くたびに感じます。
ではなぜ日本の電車は時間通りに運行しているのでしょうか?
その答えがこの本にあります。
江戸時代にはすでに一刻ごとに鐘が鳴り、人々はそれに合わせて
生活していました。
つまり「時」の感覚が根付いていたのです。
このことが、電車の定刻発車システムをよりスムーズに浸透させた
理由だそうです。
たった一本の電車を動かすのに必要な人員は
車掌、運転手、司令塔の人、安全確認の人、
電車を作った人、その電車を動かすシステムを作った人
…数え切れないほどたくさんの人がいます。
そんな当たり前のことを今更ながら再認識させてくれる一冊です。
たくさんの影武者に支えられて、今日も電車は定刻通りに走って
いきます。
筆者によると、将来的には電車にはハンドルがつき
(これによって線路に置かれた障害物が避けれる)、
オンデマンドで運行する(携帯でX時X分発の電車を予約し、
それが満席なら需要に合わせて増発するシステム)
時代がくるかもしれないそうです。
「そんなことできるわけない!」と思いますが、
紙が電子化されている現代では、案外起こりうることかも
しれません。