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時代小説って一番日本語の美しさを感じられる小説なんじゃないかなと思います。もう、読んでるだけでシンプルで漢字が多い文章にうっとりです。
ストーリーは、卯乃ちゃんという少女が、お父さん自害しちゃって、立花重根という人に引き取られて、のちのち後妻になってくれまいかと言われるんですけど、自分の父の自害に重根が関与していると聞いて、気の病で失明しちゃうんですね。その後、重根の弟の峯均のところで療養することになりますが、藩のお家騒動などが起こって、卯乃もそれに間接的に巻き込まれていく…といった感じなのですが、時代小説はストイックラブぐあいが素晴らしくて、慎ましやかな二人の気持ちが、通じ合ったときは「イヤッッホォォォオオォオウ!」という言葉を抑えられませんでした。もう、うすい恋愛だけど、それだけにごろごろ転がる。悶える。武士のしのぶ恋慕の情ってなぜにこんなにもツボなのか。最高です。
一応は卯乃ちゃん視点で物語はじまりましたが、けっこう客観的というか、藩で起こっていること、それぞれの思惑などが淡々と書かれていて、全ての人物とある程度の距離がある感じで、そこまで誰に感情移入することもなく落ち着いて読めました。
あと、重根さんの忠臣っぷりがまじブラボーで、感動した。かっけーなこの親父。しぶすぎんだろ。卯乃ちゃんを思う心もすごい素敵。惚れました。峯均さんももちろん素敵ですが。
なんつか、泰雲さまも含め、キャラクターすべてがひそやかに、したたかに生きてる感じがして、凛とした小説だなと思った。みんな血肉をもった人間なんだよな。弱さも強さもあって、すごく感じ入る。
時代背景の丁寧な説明、構築も素晴らしいですし、非常に緻密で、その時代にすっとはいっていくことが出来ました。いろんな面で楽しませてもらったな。満足。
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武士の在り方の理想を葉室氏は書かれているが、それはつまり人間の在り方ということで、自分に恥じない真直ぐな姿勢が美しい。ただ、このように黒田藩を守るために、自分の嫡男を廃嫡したり、それが後の歪みを作って行くことになるのだから、やはり愛情を持って分かり合うことをしなかったのが駄目だったのだ。武士とは哀しい生き物である。
そして、卯乃、りく、奈津、女性たちのしなやかなたくましさに乾杯。
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福岡黒田藩を舞台に第二の黒田騒動に巻き込まれ翻弄されながらも己を信じて真っ直ぐと自分の道を貫いた立花家の物語。
千利休の茶の精神を伝える兄重根、武蔵の武の精神を伝える弟峯均。
りんとした佇まいで守る戦いをする、りく、卯乃、奈津の女性たち。
いつも思うことながら葉室さんの小説を読むと背筋がぴんとする。
男の矜持がひしひしと伝わってくる。女性陣のたおやかでたくましい姿に胸を打たれる。
日本語の美しさも相まって心が洗われるような気がする。
歴史の史実を縦糸にしながらこれだけの物語を紡ぎだす葉室さんの力量は流石ですね。
正統派時代小説の面白さ、良さがたっぷりと詰まった名作だと思います。
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舞台は福岡・黒田藩。
後半の立会がなければ★四つ。
「秋月記」も同様だったが、藩政や武士の心理を描いている部分は良いが、立会場面になると途端に現実味が薄れ興ざめ。
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主君のために命を賭ける。それが武士の美学。じゃあ、そんな武士を取り巻く女たちはどのように生きたのか。
黒田藩のお家騒動に巻き込まれた立花一族と彼らを慕う女たちの滅びの美学が描かれている。が、暗く悲惨な話ではない。男たちは不運を嘆くことなく、死すら運命の一つとして受け入れる。そんな男たちの足を引っ張らないよう、女たちは強く自立している。さらに暗殺者あり、男女の三角関係あり、巌流島の決闘あり、と娯楽性も充分。
以前に読んだ「秋月記」同様、歴史小説の美を味わえる1冊。
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おとなしいそうで、控えめだけど強く生きる卯乃がいい。卯の周りにいる人たちも強くまっすぐに自分の道をいく。重根、峯均、りく。自分の信じる道を迷わず進んで、どんな結果をも自分で受け止める。人のせいにしないいさぎのよさとてもいい。葉室麟さんの本は初めて読んだけど、ついつい読み進めてしまう本だった。
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「柚子の花咲く」でファンになった葉室さん。 今回の新作もとてもよかった。 舞台がご当地黒田藩というのでさらに好印象。 出てくる地名は知ってるところばかりだし。 前回の作品は女性ばかりしっかりしていたけど、今回は逆境に負けず凛と生きる女だけでなく、信念を貫き通し、己を曲げない頼もしい男たちもたくさん出てきた。 新潮社HPのあらすじより 両親を亡くし、黒田藩で権勢を振う立花重根に引き取られた卯乃。 父の自害への重根の関与を聞かされた卯乃は、懊悩のあまり失明した。 藩主の命を受けた隻腕の剣士が、重根とその弟を執拗に狙う。 玄界灘の孤島で、もうひとつの巌流島の闘いがはじまった……。 山本周五郎、藤沢周平の衣鉢を継ぐ、渾身の正統派時代小説登場。 身内を思う情や、師を仰ぐ尊敬の念などストレートに受け入れられるのが、時代小説ブームの理由だろうか。 (亡くなる瞬間まで)自分が信じた道を貫きとおすという潔さに感銘を受ける。 (ホントは、なにもそこまでしなくてもとチラッと思うけど) 今度、キャナルシティに行くときは、住吉神社におまいりして、謂れの立て札なども読んでみよう。
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しっとりとしたいい本だ。信じた忠義を貫く「重根」。剣の真髄は敵を作らず争いを避けることと悟った「峯均」。凛とした強さと優雅さを持つ「りく」。黒田藩お家騒動に翻弄され養父の死の真相を聞かされた衝撃で光を失っても「香を聞く」ことで強く真っすぐに生きる「卯乃」。一人ひとりが見事に描かれている。苦境を受入れ強く生きる女性陣が主人公。さすが葉室麟。ただ、二天一流と巌流の設定・対決シーンは必要じゃない分、もっと「卯乃」「りく」の生き方を拡げてくれてもよかった。
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いい話だった。読んで良かった。
葉室さんのお話はなんだか丁度いい感じで
もっと他の本も読んでみたい。
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江戸中期、父を失った十四歳の卯乃は
筑後黒田藩藩士 立花五郎左衛門重根に引き取られる事となった。
温和な重根の元恙無く過ごしていた卯乃にある日、重根の後添えにとの話が持ち上がる。
そんな折、在りし日の父を知る男から卯乃の父が自害の裏には重根が
関わっている旨を聞かされる。
その事が深い気の鬱となり卯乃の眼は光を失った。
重根の継母りくの元へ居を移した卯乃は香を聞くように勧められる。。。
所謂、世話物とは一線を画した正統派の時代小説だけに
男くさく血なまぐささも避けられないが
香を聞く場面によって緩和され心がしんと落ち着きを取り戻す。
さても武家の女子の強さよ...。
黒田藩の内状に翻弄される家臣とそれを支える女たち。
女の戦は守る戦。
りくの言葉は現代にも通じる。
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父が自害した十四歳の卯乃は黒田藩藩士立花五郎左衛門重根に引き取られる。
重根に可愛がられて成長し、やがて重根の後添えの話が持ち上がる。
後添えの話を受け入れた直後、一人の男から、父の自害は重根がかかわっていると聞かされ、思い悩んだ結果か、卯乃は失明してしまった。
目が見えなくなっても重根は後添えに望んでくれたが、重根の継母りくの元へしばし身を寄せることとなる。
そこに居た重根の弟に次第に心を寄せるようになり…という正統派な小説。
実は卯乃の父親は、と言う王道な展開も踏まえつつ、葉室さんの描く武士は格好良いですね…ほんと。
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「香り」を軸にした優しい話。
悲しいことも多いけれど、やっぱり優しい。それが素晴らしい。
香道にあまり馴染みがないと、話に深みを感じにくいかもしれない。
いつもながらの端正な書きぶりに、見えていないということを忘れてしまうのは、良いことか悪いことかわからないけれど、入れ込むタイプとしては、見えていない方に徹底されていた方が良かった。
葉室麟の書く女性は、とにかく生き方が凛として美しくて、とても素敵。
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香りを軸として,福岡藩第2黒田騒動の顛末を描く小説です。「蜩ノ記」(祥伝社)以来の葉室麟でした。
当時は茶のように香りを楽しむ文化があり,それは想像以上に奥深い世界であったということを知りました。
また,物事には表と裏が有り,凡人の僕は一個人としての側面からのみ捉えがちですが,その裏側を想像すれば,それらは決して相反するとは限らず,どちらも正義で答えはないことがあるということを改めて感じました。しかし,そのような状態を然るべき道に導くのが真の指導者としての資質であるとすれば,結局私欲に塗れた方向へ誘導されてしまうのはただの凡人ということでしょう。福岡藩は,立花実根を失い,その後の乱れを考えれば,実根は結局その時の真の指導者だったということでしょうか。
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福岡藩黒田家のお家騒動をモチーフにしたお 話。時代は江戸初期。訳在って廃嫡となった 長男と藩主となった次男の確執により板挟み になる重臣立花重根。一人の少女が重根の養 女として引き取られる事より物語が始まる。 家族同様に慈しみを受け健やかに育つ主人公 卯乃。 幸せを噛みしめながらうら若き乙女 に成長したある日実の父が自害したワケを知 る事に。 そこには敬愛する養父の影が。思 い悩む卯乃は失明し光を失うことに。そして 立花家に不幸が次々と訪れ・・。本作品の特 徴、混沌とした藩政の世界を光を亡くした卯 乃に”香 る”という感性を与え独自の視点で人 の心を読み解きながら物語を推し進めて行 く。もののふどもの正義を貫く強さと女性達 の大切な者を守り抜くという強い覚悟。読み 終えた後の余韻はハンパではありません(^_^;)
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葉室麟の作品は直木賞受賞作の『蜩の記』に続いて2作目。どちらも理不尽な武士の社会の中でひたすら正義を全うする人間たちの物語。
どちらも心を揺さぶられたけれど、この『橘花抄』の方が更に良かったです。
志を強く持った揺るがない人間と、色々揺れ動く人間とが入り混じる分、かけ離れた世界の中にも親しみを感じられました。
そして「香道」として香りが随所に出て来る辺り、厳しく張りつめた空気感に独特の和らぎが感じられてとても良かったです。
個人的にはこの作品の方に直木賞を差し上げたい!