紙の本
正義、平等、自由というものの定義の難しさに耐えていくこと
2010/08/31 19:19
16人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読後感は三点である。
一点目。改めて、「正義」「平等」「自由」というものの定義の難しさを感じた。
本書で繰り広げられる各種の事例に対して、何が正義で、何が平等で、何が自由なのかを一つに決めることは不可能だ。その「不可能さ」ぶりに、真実があると考えるしかない。つまり「正義」はいくつもあり、そのどれもが、誰かにとっては絶対に正しく、かつ全員にとって正しいわけではない ということだ。ここから学ぶべきは 更に「一つの正義」を追求することではなく、自分にとっての「正義」「平等」「自由」とは、他者にとってはそうではないと理解するという謙虚な姿勢を持つということだと僕は考える。僕らは自分の考える「正義」を誇ったり、強制したりする権利を持っているわけではない。
二点目。本書がベストセラーになっているということに驚く。
どう読んでも本書は決して易しい本ではない。いや、かなり難しい本である。その本がかように話題となり売れているという現象をどう考えるのかは興味深い。
リーマンショックが齎したものは金融危機だけではない。本質的には新自由主義への重大な疑念の発生であり、それの反動としての社会民主主義の再興だ。
これは僕らの日常レベルでの問題である。日本の格差社会問題や貧困問題も、基本的には同じ地平線にある。その状況を踏まえて、多くの人たちがもう一度考え始めているということが、本書のブームの背景だと僕は信じる。
三点目。本書は、結論を出しているわけではない。まず僕らに反省を促している本だ。その反省に立った上で、僕らが新しい哲学を作っていくしかない。それが、地球という星の、今後百年程度といった比較的短い将来に大きな影響を与えていくはずだ。僕らがそういう知的作業に耐えられるかどうかが試されているのではと最後に考えた。
紙の本
あの番組で見られた白熱がそのままこの本の中にある
2010/10/13 21:52
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
NHKの『ハーバード白熱教室』という番組でご覧になった方も多いだろう。そう、あの先生の、あの授業の本である。もちろん、巻末の「謝辞」で著者も触れているように、本を書くのと講義をするのは同じではない。本にするためにまとめなおした点は多々あるに相違ない。とは言え、あの番組で見られた白熱はそのままこの本の中にあるのである。
しかし、その前に私が感心したのは、何を措いてもこのサンデル教授の一糸乱れぬ論理性である。徹底的に冷静で、可能な限り網羅的で、一貫性は揺ぎない。書かれている内容の当否を云々する前に、読者が学ぶべきはまずこの論理的思考力なのではないかと思った。
決して相手の発言を遮るような論の進め方はしない。感情に駆り立てられて結論を急ぐ様子もない。一つひとつ物事の問題点を洗い出し、整合性と論理性を繋ぎ合せ、充分に遠回りした上で暫定の結論を据え、そこから更なる高みに我々を導いてくれるのである。
そして、TVをご覧になった方なら本を読まなくても解ってくれるだろう、こうやって冷静に議論することが何と愉しいことか!
我々がまず学ぶべきことは、この論理性と、議論することの楽しさである。日本人はそこから何と遠いところにいるのだろう!
「正義とは何か」そして「正義とは何であるべきなのか」──サンデル教授はそのことを歴史を追って、論理の道筋に従いながらゆっくりゆっくり明らかにして行く。
まずは正義とは最大多数の最大幸福を実現するためのものであるという功利主義的な考え方である。しかし、そこには何が「幸福」なのかという非常に難しい問題が放置される。
それに対抗して、何が幸福なのかはそれぞれの人が決めることであって、正義とはその自由を保証することであるという自由主義的な考え方が出てくる。しかし、それは皆がてんでばらばらに好きなことを追求する無政府状態でもある。
この2つの考え方の欠陥を正すために、サンデル教授は、正義とは美徳を涵養して共通善というものを成立させることを含むのであると解く。その結論に到るまでの道筋は非常に長いが、読んでいてとてもスリリングであり説得力に富んでいる。
しかし、多分私が求められていることは、教授の論に容易に納得することではないのだと思う。これを読んで、ここから考え始めることであり、生活の中で不断に考え続けることなのだと思う。350ページの大著はそのためのほんの入口でしかないのである。
最初のページに出てくる、ハリケーン災害直後の水の便乗値上げの例から、いきなり我々は引き込まれてしまう。読み始めたら止まらない。さあ、これから一緒に考えて行こうではないか。
by yama-a 賢い言葉のWeb
投稿元:
レビューを見る
正義に関する、幸福の最大化・自由の尊重・美徳の涵養という
三つのアプローチの強みと弱みを探り、正義とは何かについて考えていく。
正義に対する考え方は三つある。
第一の考え方は、いわゆる功利主義で、正義は功利性や
福祉を最大限にすること(最大多数の最大幸福)。
第二の考え方は、自由市場で行う現実の選択であれ(リバリタリアンの見解)、
平等な原始状態で行うはずの仮説的選択であれ(リベラル平等主義者の見解)、
正義は選択の自由の尊重を意味すると捉えること。
第三の考え方は、正義には美徳を涵養することと、共通善について
判断することが含まれるというもので、著者は第三の考え方を支持している。
なぜなら、「公正な社会はただ効用を最大化したり、
選択の自由を保障したりするだけでは達成できず、
達成するためには善良な生活について我々が共に判断することが
必要になるから」というのが著者の見解である。
どんな方向に議論が進むかわからない講義を取り仕切る著者の力量。
多元的な視点から冷静に議論を進めていく学生の知性。
アメリカの教育の奥深さを感じた。
投稿元:
レビューを見る
さんでる教授に出会ったら、とにかく自分の意見を捲くし立てる。
言われたいんだ
「面白い意見だ。君の名前は?」
投稿元:
レビューを見る
面白かった。
正義とは?道徳とは?
なかなか難しい話ですね。
最後にいくにつれて頭がこんがらがってくるから、またゆっくり整理しながら読みたいものです。
投稿元:
レビューを見る
考えさせられた。正義、とあるが、政治哲学についての面白い教科書。自分の考えをまとめながら、何回か読み直した方が良い。
邦訳は良かったように思う。
投稿元:
レビューを見る
平易な言葉で書かれており、予想していたよりずっと読みやすい。ただ、哲学の本と言うより、哲学の考え方の手ほどきといった感じ。入門書と併せて読むといいのかも。
目次をざっと見て、最終話から読み始める腐った私。だって同性婚についてだったんだもの。
投稿元:
レビューを見る
「正義」「公正」を自分はどう捕らえるのか。「社会」と「個人」の両側面からの距離感をどうとるのか。歴代の哲学者の論理は極端すぎるので、自分は無意識にどう振舞っているのか、どこにプロットしたいのかを見つめなおす良書でした。「美徳」がないと生きる価値がないと思うが、そのとおり生活できてるかというと・・・生きるって難しい^^;
投稿元:
レビューを見る
これを読み終わってからというもの、いろんな判断の場面で、正義とか道徳とか善とか、考えるようになった。なんだが自分が成長したような気がする。
投稿元:
レビューを見る
進みつ戻りつ、ようやっと読了。
最後まで読んだ甲斐はあったと思う。
NHKで放映された講義を見逃したのを後悔。
投稿元:
レビューを見る
難しかった。
正義に対する3つの考え方:
- 正義は功利性や福利を最大にすること(最大多数の最大幸福)
- 正義は選択の自由自由の尊重を意味する
- 正義には美徳を涵養することと共通善について判断することが含まれる
投稿元:
レビューを見る
誰もが悩むだろう究極の選択を問いかけることで、何を正義とすべきかを読者に考えさせる本。
そこで、筆者(ハーバード大学で一番人気のある講義をしている教授)の考えを哲学の土台の上で論じることで、筆者なりの答えを伝えてくれる。
筆者が出した例の一部:
①あなたは、ブレーキの効かない電車の運転手で、前方の線路上に5人の作業員がいるのを見つける。このままいくと、彼らをひいてしまう。しかし、彼らの手前に待避線があり、そこへ曲がればそれを避けることができるが、待避線上にいる1人の作業員をひいてしまう。
あなたならどうするか。
②あなたは、ブレーキの効かない電車が5人の作業員をひきそうになっているのを、近くで見ている。今、隣にいる太った男を突き落とせば、電車は止まり、5人は死なずにすむ。
あなたならどうするか。
③フロリダ州がハリケーンによって大きな被害を受けたとき、フロリダ州ではモーテルが40ドルから160ドルへと跳ね上がり、水が2ドルから10ドルになった。この不当な価格によって、フロリダ以外の場所からフロリダへ多くの物資や人が集まり、復興を早めることができる。
ではこの価格は正しいだろうか。
④時限爆弾がしかけられた場所を知っている可能性がある人を拷問し、場所を特定する。その爆弾が爆発した場合、数千人に影響が及ぶとすれば、たとえ場所を知らない可能性があったとしても、情報を得ようとすることは必要だ。
---
まず、最初に話されることは、世の中にある幸福を最大化すると、世の中は幸せになるのかという問い。
この話は、人の価値が金額に置き換えられていて興味深い。
アメリカの高速道路の制限時速を10マイル(16キロ)引き上げることで、節約された時間による経済的効果と、それによって増えた死者数を考えると、一人の命は154万ドルらしい。
ただ、この世の中の幸福を最大化するという考えは、すべての幸福を量ることができないという理由で行き詰まる。
カントによると、本当に自由な状態は、こうあるべきだという強い信念に基づいて行動するときだけらしい。
おいしいアイスクリームを食べたいから食べている時は、食べたいという欲望に支配されていて自由じゃないらしい。
カントやロールズの話は興味深かったが、途中で何の話をしているのかよくわからなくなった。
あと、おもしろかったのは、
人間は物語の中に生きているため、私は今どうするべきか。の答は、
私はどの物語の中に自分の役を見つけられるかという問いと同じである。
そのため、過去の自国が犯した罪から逃げることは、自分の物語から逃げることになる。
国を誇りと思うということは、自国の歴史の責任を負うことである。という話。
他には、
現在、道徳的・宗教的価値観について議論を交わすことを避けようとする傾向にある。
そのため、公共の言論の貧困化をまねいている。
つまり、事実を伝えることしかしないため、議論ができず、新しく起こった出来事を次々にただ伝えるだけに���ってしまうということ。
とか。
--------------------------
他の人のレビュー
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/05/post-9b19.html
http://d.hatena.ne.jp/huyukiitoichi/20100605/1275671247
http://sankei.jp.msn.com/culture/books/100711/bks1007110750005-n1.htm
投稿元:
レビューを見る
2010/05/30-2010/06/11読了
難しくて一回だけ読んだだけでは理解しきれてないけど、カントの哲学が読めて面白かった。私はそんな崇高な理性は持てない気がする、笑
政治哲学について、中立的な立場でいることや、全員が同じ見解に立つことは難しいということはなんとなく理解できた気がする。
投稿元:
レビューを見る
年始のNHKの再放送を見たのを機に再読。
これまで、「道徳」ということばには偽善的で押し付けがましいという偏見を持っていた。
しかし、サンデルの授業は、ソクラテス的な対話を通じて論理を導きだしており、納得感があった。
さらに私は絶対の「正義」「善」なんてものはなく、政治や法では中立であるべきと考えていた。しかし、現実の諸問題の中には、中立というスタンスをとることができない問題もあるということを知った。
投稿元:
レビューを見る
NHKハーバード白熱教室を途中から欠かさず見ています。何が正しいかは曖昧なことが多いですが、社会や職場の雰囲気でそれが決まってしまうことに危機感を覚え、勉強したいと思っています。