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紙の本
「お前『しあわせの青い鳥』って話知ってるか?」
2003/08/30 13:08
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:成瀬 洋一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
少しくらい勉強や運動ができたり、美人といわれたりしようと、自分も所詮は何十億いる人類のうちのたった1人にすぎず、別に特別な存在ではないということに気づいてしまった日、涼宮ハルヒは絶望した。自分が楽しいとかすごいと思ったことも、ありふれたことにすぎないと知ってしまったのだ。
その日からハルヒは「特別なこと」を探し始めた。部活も勉強も恋愛も、ありふれた日常、あたりまえの人間には興味がもてなくなったのだ。当然、その姿や行動は周囲には変わり者・奇行としか映らなかった。
この作品は涼宮ハルヒではなく、彼女の前の席に座った少年キョンの視点で進む。
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい。以上」
高校に入学し、新しいクラスの自己紹介でいきなりそんなことを言われたら、思わず退いてしまうだろう。けれどもキョンは特に気にすることもなく、普通に席が前後ろという関係を続け、その結果“ただの人間”にすぎないにもかかわらず、自己中心的で行動力だけはある美少女に(文字通り)引きずられて事件の渦中に巻き込まれていくのだ。
方向性としてはSFというよりファンタジー作品だ。
科学的でないとかいう意味ではなく、中心となるテーマが「自己探求」「見失った自分の再発見」という意味で。たとえば『ゲド戦記』、たとえば『カメレオンの呪文』(なんかこういう例を出すと凄そうだけれど、そんなに凄くはありません)。主人公が未知の世界へと旅立ち、その過程で自分自身を発見し、そしてまた元の場所へと戻ってくる話。
高校を舞台にして、「自己探求」の物語を、いわゆる「萌え」キャラを配して、スラップスティックに展開したところがミソなのだろう。購読層となる中高生のツボではなかろうか。
ただ、そういうファンタジーの王道ともいうべき骨格の物語ではあるのだけれど、最後にハルヒが本当に「自分の居場所」を発見したのか、あるいは発見したと自己認識させて良いのかはっきりしないことが惜しい。すべては元通りのように見えるけれど、何かが彼女の中で変わった…という点をハルヒの暴走の被害者であったパソコン部員や朝比奈みくるらと絡めて、もう少し匂わせてくれると良かったと思う。そうでなければ、ただの「精神的に不安定でわがままな主人公がいました。今もいます。」という結末になってしまい、この作品が丸ごと無意味になってしまうからだ。「キミはそのままでいいんだ!」と全肯定するにはハルヒの性格は悪すぎる。
わがままで反省のない主人公。それを容認してしまう周囲の人間関係。バニーガールとかメイドとかメガネといった流行りの「萌え」要素。そういうものに拒絶反応さえなければ、それなりに面白い作品として読めるはずだ。
紙の本
第8回スニーカー小説大賞大賞受賞作
2003/06/13 18:32
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:彬兄 - この投稿者のレビュー一覧を見る
唯我独尊を地で行くスーパー女子高生涼宮ハルヒに、どういうわけか気にいられてしまったらしい主人公。そして彼女の元に集った宇宙情報体(メガネっ娘?)あり、未来人(巨乳ロリ?)あり、超能力者(へらへら男?)が、非日常の世界を遺憾なく再現してくれてもう大変。しかも、キーを握っているのが他ならぬ一般人の主人公だと言うから……。
変則的に10日発売になっていたので、見逃してる人もいるかもしれません。なぜ10日発売になっていたかと言うと、同作者の「学校を出よう(電撃文庫)」が同月に発売になっていたため、発売日をずらしたという事情があるようです。電撃の方は厳密には受賞作ではないみたいですが、複数のレーベルの同時受賞は三雲さん以来かも。というわけで、角川編集部もかなり力入れてるようです。
強いてジャンルを上げれば学園ラブコメでしょうか。ネタとして仕込んであるのが古典SF。正直なところ、特に目新しいなぁと思える点は特にありません。が、視点やシチュエーション、キャラクター描写、構成や仕掛けの配置の仕方等のバランスが(ライトノベル的に)非常に良く出来てます。