紙の本
やっぱこれって習作でしょう、怖さないし、人間の動き、いい加減だし。そういう点でやっぱり『黒い家』以降なんでしょうね、貴志らしさがあるのは
2005/10/01 20:28
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
寡作な著者の存在がありがたいのは読み残していた作品を、自分の都合のいい時に読むことができる、ということでしょう。無論、売れない作家ですと、読みたくたって書店に本がない、世の中に流通していないということになって、入手に右往左往する、それなら読まずに他の作家を、となるんでしょうが、今のところ貴志祐介にはそういった心配はなさそうです。
たとえば今、私が手にしている文庫の奥付をみますと、平成8年に初版発行で、平成12年に20版ですから成功作の部類でしょう。ちょっとカバーがパンクしちゃっているのが気にはなりますが、期待はできそうっていうことで読み始めました。まずカバー後の内容紹介から
「賀茂由香里は、人の強い感情を読みとることができるエンバスだった。その能力を活かして阪神大震災後、ボランティアで被災者の心のケアをしていた彼女は、西宮の病院に長期入院中の森谷千尋という少女に会う。由香里は、千尋の中に複数の人格が同居しているのを目のあたりにする。このあどけない少女が多重人格障害であることに胸を痛めつつ、しだいにうちとけて幾つかの人格と言葉を交わす由香里。だがやがて、十三番目の人格〈1SOLA〉の出現に、彼女は身も凍る思いがした。
〈第三回日本ホラー小説大賞長篇賞佳作〉」
最初に書いてしまいますが、佳作は佳作以上ではない、っていう証明をしてしまった気がします。出だしから不自然なんですね。まず、主人公の賀茂由香里ですが、本人が自分の能力を隠そうちしているのに、ズルズルとその力を見せつける。しかも、他人にどんどん利用されていく、というのがウソっぽい。子供じゃあないんだから、そう思います。
そして震災の惨状が伝わってきません。実は、先日、横山秀夫の『震度 0』を読んでいたときも、似た思いを抱いたんですが、ようするに小説の構成要素として使っているだけなんですね。だから、阪神大震災とはっきりと明記され、死者などの人数もわかりはするんですが、読んでいて「あれとは別の、架空の地震だよね」なんて感じで読んでしまう。無論、どちらの作品も、震災は主題ではなくて、あくまでも背景であることは分るんですが、そこが絵空事風にしか伝わらないとなると、全体が甘くなります。
で、貴志のこの作品に関して言えば、それに主人公の動きの甘さ、ウソっぽい部分があって、それがさらに男女関係についてもおなじ雰囲気で、もっといえば、また多重人格かよ、となります。アメリカ発祥、というか一気にブレイクした多重人格は、親による性的虐待の記憶、とともにフロイトの精神分析同様にスキャンダラスゆえに俗耳に入りやすいところがあるのでしょうが、正直、その科学的根拠が曖昧で、いずれ化けの皮が剥がれる可能性大です。だからブームなのかもしれませんが、安易にそれに乗っている。
色々な意味でリアリティに欠けます。例えば同じ貴志の作品でも、97年に第四回日本ホラー小説大賞大賞を受賞した『黒い家』が、和歌山毒入りカレー事件との関連で、広く読まれた、それはリアリティがあったからです。『青の炎』が面白かったのも、現在、世の中を騒がす家庭内暴力、父親による娘に対する性的虐待、或は内縁関係による家庭の崩壊などをしっかり見つめていたからです。
そういう意味では、この『十三番目の人格』は、『天使の囀り』や『硝子のハンマー』のように架空性が強いのですが、その二作ほど読み物としての割り切りができていない、中途半端に阪神大震災などを使うものだから、同じ虚構でも読者との間に了解がとれない、そう言えるのではないでしょうか。
『クリムゾンの迷宮』が未読なので、断言するのは危険ですが、貴志がその本領を見せるのは、やはりホラー小説大賞大賞受賞作『黒い家』以降、とみるのが正しいでしょう。少なくとも、私は貴志の最近作に★五つ与えるのに何の躊躇いも覚えませんから。
紙の本
荒唐無稽なオカルト小説
2001/05/23 23:36
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:菅野 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ひとことで言うと、荒唐無稽なオカルト話を巧みな弁舌でリアリティを持たせようとしていたのだと思う。だって、どんなに脇を固めても、大元となるのはオカルト話で、信じるか信じないかで検証をしない人たちと同じことなんだもん。幽体離脱と書いていたかどうだったか忘れたけど、臨死体験として離脱することがあるとかないとか言うのは、まぁ、いいでしょう。いいんだけど、それだけにしとけばぁ、って思うわけさ。
作品が面白くなかったなんて言わないんだけど、それこそ、かつては鳴り物入りの新人だったわけだから、ちょっと落胆したかも知れない。それでも、面白かったけどね。そうなのさ、だから、SFの手法としては古典から理論無視というのがあるわけで、「これは観測された事実なんだよ」と作中で言わせてしまうと、それは理論なんか軽々と超越してしまう。だから、いくら理論的に幽体離脱したものが視覚を持っているはずがないとかそういうことを突き詰めたとしても、「いや、でも、これって実際にあることだから」ということにしてしまうというのは有効なことだと思う。その上で、それを気づかせない筆力が当然要求されるわけだけどね。この作品がそこまで到達しているかどうかというと、それは微妙かなぁ……。
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これは2番目に好き。
これまた調子にのって映画版なんか見なきゃよかった。
なんで貴志作品はこんなにも映画版はひどいのか・・・
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初、貴志祐介作品です。ってデビュー作ですね。
何分読んだのが数年前なので、再読予定です。
印象も随分変わっているとは思いますが、
なかなかおもしろかった記憶があります。映画も見ようとしたので。
確かこれで読書感想文を書いたような。
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これは先映画みてがっかりした作品。でも本を読んで180度感想がかわった。これも貴志ワールドが炸裂してます
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人の強い感情を読み取ることができる由香里は、その能力を生かして阪神大震災のボランティアで被害者のケアをしていた。そして千尋という少女に出会う。少女は多重人格障害だった。ホラーなのかミステリーなのか、SFなのか。そんな話という感想。ミステリーとしての始まりは、なかなか面白く、ただその気持ちのままで読み続けると、謎がホラーとSFで解決されているために、なんだかがっくり来てしまう、そんな感じだと思う。
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日本ホラー小説大賞長編賞佳作。映画原作。「多重人格モノ」を世に知らしめた作品ではないでしょうか。でもホラーなので、ただの多重人格ではありません。そこが好みのわかれるところかなあ…。
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三上博がでてたテレビドラマで多重人格のものがあったことが記憶にあって読んでみた本。阪神大震災がらみのもので結構ストーリーに引き込まれます。
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【賀茂由香里は、人の強い感情を読みとることができるエンパスだった。その能力を活かして阪神大震災後、ボランティアで被災者の心のケアをしていた彼女は、西宮の病院に長期入院中の森谷千尋という少女に会う。由香里は、千尋の中に複数の人格が同居しているのを目のあたりにする。このあどけない少女が多重人格障害であることに胸を痛めつつ、しだいにうちとけて幾つかの人格と言葉を交わす由香里。だがやがて、十三番目の人格「ISOLA」の出現に、彼女は身も凍る思いがした。】
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昔観た映画があまり面白かったって記憶がなかったから、あまり期待せずに読んだらかなり面白くて、レポートで忙しいはずなのに夢中で読んでしまいました!
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多重人格の話しと言う事で興味を持った。
日本ではまだまだ患者が少ないって事らしいが、それは日本の事情が遅れているからではないだろうか。欧米では随分と前から取り上げられていて、その治療法なども大分進んでいるようだ。日本では多重人格そのものが、まるで非現実の事のような、時によっては嘘吐き呼ばわりされかねない状況である。
最近は富に幼児虐待による子供の死亡事故が多く、世間的にもその原因となる、親の幼児期の体験などが取り上げられるようになってきたが、この多重人格も、言うなれば幼児期における絶えられない程の虐待が起因している事が多い。
そういう事もあって、前々から感心があったので、この作品も興味を抱いて読んだのだ。
結論から言うと、面白かった。
主人公は若い女性だが、他人の強い感情による思考を読めてしまうと言うエンパシーなる能力の持ち主で、それが原因で辛い体験をしてきた女性だ。
現在も勝手に入りこんでくる他人の感情に悩まされ、薬を飲む事によって普通の生活をかろうじてしているといった状態。だが、その能力を、傷ついてる人の心を読んで、癒してあげるという事に役立てて、前向きに生きている女性でもある。
その彼女(由香里)が、神戸で起きた阪神大震災の被災者の心のケアというボランティアに参加した所から物語は始まり、そして、その為に知り合った少女が、13の人格をもつ、女子高生・森谷千尋なのである。
彼女と会話している時に、彼女の心の中に複数の人間の存在を感じ、由香里は千尋が多重人格ではないかと思う。そして、ほんの僅かの時間に接した、背筋も凍るような、非人間的で冷酷な人格に遭遇して、彼女は千尋をこのままにしてしておく事ができないと思い、自ら彼女の救済の為に深く関わるようになったのである。
彼女は、千尋が通っている学校を訪ね、そこで生徒たちの心のケアをしている臨床心理士の女性、浩子と出会い、彼女と2人で千尋の多重人格を、ひとつの人格へと投合するべく協力しあった。
このへんの内容は、千尋の幼児体験の事や、13の人格の一人一人についての分析など、読んでいて興味の尽きないところだった。
千尋は5歳の時に両親と共に自動車事故に遭い、彼女だけが助かった。だが、その生死をさ迷っている時に臨死体験をしていた。その後、叔父夫婦に引き取られて成長したのだが、決して幸せではなく、むしろ悲惨な生活を送っていた為に、彼女の精神は耐え切れなくなってその時々で必要な人格が生まれてしまったのだった。
由香里が人の思考を読めるエンパシーと言う事で、千尋の体験を追体験してるようにまざまざ
と目の当たりにし、当然の如く読者もその恩恵に預かっているわけだが、多重人格と言う、難しい問題を、現在の日本の治療の現状や、どういうものなのか、とか、心理学の専門的な知識や精神科の知識など、かなり詳しく書かれていてそれがとても興味深かった。
物語は、そのまま多重人格の問題だけで進んでいくのかと思われたが、キーワードは、13番目の人格である「ISOLA」。
この話しでは、それぞれの人格には人名が付いているのだが、それは他者が付けたものでは
なく、人格の登場と共に付いていて、その名前の由来は、どうやら名前に使われている漢字の
の持つ意味が大きく関わっている。だが、「ISOLA」だけは、その名前と共に、性質から
して異質だった。
後半になって、物語が大きく展開し、「ISOLA」の謎が解けた時には、前半とは大きく趣きが変って、ホラーっぽい雰囲気を多分に漂わせるようになった。
そして、小さな伏線がこれまでに幾つも張り巡らされていた事に気付く。
でも、ちょっと非現実っぽいと感じさせる部分もあったかな。
読んでいて、千尋はつくづく、可哀相な子だと感じた。本人が作中で、『私の失敗は、両親と
一緒に天国に行かなかったこと』と書いていたが、最後まで読むと、本当にそうだ、と思わず にいられないのが悲しい。
それから、主人公の由香里にしても、可哀相でしかたなかった。途中、彼女の生い立ちが書かれた箇所があり、そこを読んでいて、とても悲しくなった。また、事件に関わっているうちに生じた恋と、その悲しい結末・・・・。
結局、悲しいばかりの物語って気がしてならないな。
一番最後の小説の終わり方には、救いが無い感じがして、私は好きではない。それに、ちょっと尻切れトンボ的な感じが否めない気がする。
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これも貴志祐介。確か、でている中で一番最後に読んだのが、これかな。怖さにも割りとなれてて、普通だったような。
って今部屋整理してて気がついたけど、この本2冊ある。。。
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言わずと知れた貴志祐介のデビュー作。ボランティアで心のケアをしていた主人公は、ある多重人格の少女に出会う。主人公はエンパス能力を持ち、人の心が覗ける。その能力を使い少女とうち解けていくが、少女の第13番目の人格がそろそろと目を覚ます。すらすらと読める軽めの小説。題材は重いが、あまり踏み込んでいるといった感じはあまりしなく、多重人格ものが読みたいなぁというときに気軽に手を出せる。きちんとした構成がある話なので、破綻せずに進む。けれども、主人公が超能力を持っているというあたり、私の好みに合わなかったので★3つ。
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貴志作品の中で結構非現実色が強い方。
ありえないのに何で生々しく恐ろしい気がするんだろうと思ったけど、たぶん人の激情がリアルで強烈だったからかな。
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貴志 祐介のデビュー作、他人の感情を読み取れる特異な能力を持つ女性が、多重人格の少女の中に邪悪な存在を感じ取る。精神と霊魂を視点としたサスペンスホラー