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時刻表の死角をついて、盤石なアリバイを崩していくトラベルミステリ。
上野は不忍池のほとりで、たくさんの通行人の目の前で女性が刺殺される。現場から逃げ出した長身の男性の行方はふめいなものの、男女関係のこじれた長身の3人が容疑者として上がってくる。横浜からあるいは鳥取から、殺人現場にたどり着ける唯一の人物は誰か?週刊誌と新聞社の記者がアリバイを突き崩していく。
ネタバレになるから内容は書きませんが、たしかに時刻表のトリックは斬新だし、オッと思わせるものはあった。西村京太郎の電車を飛び移るような、そこまでの離れ業はないものの、それらを意識して、これまで無い逃げ道を考えたというのは、トラベルミステリを書く作家には与えられた試練なのかもしれない。
ただ、事件の動機と容疑者関係の人間の描き方がとてつもなく雑。バブル期の前半なのだろうけど、とりあえずいけ好かないキャラクターやとっつきにくいキャラクターなど、感情移入させたくないのか、人間味を一切描こうとしない。
そのせいで、事件の大枠の部分は、骨格だけあって肉がなくペラペラで、なんというか、設計図そのままのビニールハウスみたいなストーリーである。
途中から、事件を追う警察も記者たちも、一切容疑者たちに接触しなくなっているのも問題で、しがらみなどというものが出てこないのは、読んでいて物足りなさを感じてしまう。