紙の本
シャーペンの芯を刺す天才
2004/09/11 15:42
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投稿者:玉木魔奇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
面白い本には二種類ある。読み終えた後、「ああよかったなぁ」とすぐに余韻に浸るモードへと切り替えられるものと、「ああ、もう終わってしまったのか?」と終わったことを受け入れたくないあまり、ありもしない続きを熱望してしまうものの二種類である。前者は、満足感・充実感という体によさそうな精神状態になるが、後者の場合は違う。欠乏感・虚無感に苛まれる。寂しくなったりもする。
『大人失格』という本は、まさにこの後者にあたる。何気に手にとり、ページをめくっているうちに、どんどん夢中になり、本を置くことを忘れ、時間も忘れた。しかし、それは永遠に続くものではない。終りがくる。最後の一文字まで読み終えたとき、軽い失恋に似た感情に陥る。本当にいい恋だった、もとい、いい本だった。
松尾スズキは、劇団「大人計画」の座長であり、演出家である。しかしそんな肩書き以前に、山本直樹も述べるように、彼は「まぬけハンター、素朴ハンター」である。その才能はエッセイを読む限りでも明らかだ。そして、それを表現することに長けているのである。
しかし、私の印象としては、ハンターであると同時に、松尾は「まぬけカーペンター」という感じである。松尾がまぬけという獲物を捕獲したあと、まぬけを更なるまぬけへと作りあげてしまうのだ。まぬけ色に塗ってしまう、まぬけに仕立ててしまう、そういう才能があると思う。本文中で松尾は、テーブルの上の消しゴムに、折れたシャーペンの芯を突き刺し、消しゴムのまぬけ度を高める作業をしてみる。このシャーペンの芯を突き刺す作業、これぞ松尾の才能である。彼以外の誰が、消しゴムのまぬけさに気づき、そのまぬけさをさらに高めようと、シャーペンの芯を刺すという行為をするというのか。
まぬけは笑える。その笑いは、シャーペンの芯一つで作りあげられる。たったそれだけのようで、この発想が素人にはそう浮ばない。さらに、このまぬけの力、侮れない。まぬけはあらゆる戦意を喪失させ、その周辺世界へのものすごい破壊力を持っている。松尾の例では、鼻血が取り上げられている。鼻血を出した武将が「いざ出陣」とは言えない。鼻血が止まるまで待つのであろう。鼻血待ち。まぬけである。せっかくの士気も台無しだ。盛り上がったところに、水を差しその周辺空気を一気に壊す。なんたる破壊力。
この本は松尾が出会った、まぬけな人たちに、さらに彼がシャーペンの芯一本刺してまわるエッセイである。シャーペンの芯一本の破壊力。その破壊力を見抜き、見事にまぬけ度を高めることに関して、やはり松尾は天才である。
まぬけを作れるという才能。なんともまぬけな才能だ。
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名前からして人を食ったような劇作家・松尾スズキ〜どっちも名字じゃねぇか〜である。やはり「セリフ」を書いている人の文章はのどごしが良いというか、内容が瞬間吸収できるような「分かりやすさ」と「テンポ」がある。自分のややこしい性格を飼い慣らしながら、世間とのズレ、居心地の悪さを楽しんでいるらしい(笑)
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「この日本人に学びたい」「これぞ日本の日本人」に並ぶ松尾3大名作コラム(勝手に制定)のひとつ。処女エッセイゆえの手つきの硬さも見られるが、現在のゆるーい文体にはない丁寧な文章構成による笑いもまた秀逸(笑)。「全てのブスの明日のために」「ケダモノの視点」「死にたい動物、死なない動物」など現在の松尾的世界観の片鱗を示す名エッセイも多し。
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最近松尾スズキ氏の作品をよく読むんです。
えっ、決して気になるあの娘が大好きだからじゃないですよ。。。しかもブックオフで100円だったなんて口が裂けても言えません。そんな感じで4,5冊読んで、現在はこちらを読み途中。独特のテーマセンスと言葉の重ねにニヤニヤしながら読んでます。
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いい具合にダラケタ感じのシブい大人。松尾スズキ氏。あ。でもタイトル『大人失格』なのに『大人』って書いちゃっていいのか?・・・まぁいいや。(笑)
・感じないで!Mちゃん!
・役者が来ない!演出家はどうする!
なんかこれでピンと来た人は読んでみてはいかがでしょう。
ただ!純粋に笑いたい人はリリーさんの方がいいかも。
たまに言ってる事が難しい・・・(汗)
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全部のエピソードが笑える!!
松尾さんの人生の足跡。
彼の悲痛な笑いはこんなところから生まれました。
いや、松尾さんにとっては生きてることが苦痛な作業なのかも。でも、たまに良いこともあるのさぁ〜♪って聞こえてくるようなないような。相当オススメ。
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大爆笑。
ゆるーくいきたいね。ゆるーく。
んもう、ぐだぐだなカンジで☆
おもしろいエッセイ希望って方は、是非どーぞ。
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電車の中だろうと授業中だろうと、所かまわず声を上げて笑ってしまった本。面白い人のエッセイはやっぱり面白いな。
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「殿……。その頭は……」
「これ? かっこいいでしょ?」
「………」
「…かっこ、悪いか?」
「いえ、大変、かっこようございます」
「じゃ、おまえらも、明日から……かっこようせい」
「……ははーっ」
かくして、チョンマゲ→かっこいい。という無理矢理な価値観が一瞬にしてできあがった。そんな風な物語があったに違いない。
(P.102)
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エッセイはあまり読まないのですが、気まぐれで立ち読みして即爆笑して購入。
松尾ワールド大好きです。
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大人計画の人でしかなかった松尾スズキを本格的に知ることになった記念すべき一冊。この本が無ければ私はこんなにも松尾スズキに傾倒してなかったんだろーな。これが幸か不幸かは5年後くらいに分かってると思います。
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あれだけ人気があることには納得です。面白かった。でも、ただ面白くて新しいことを言うっていう人じゃないんだな。根っこのところは大真面目だって思う。そういう人の言葉、真摯に受け止めようと思います。
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なーんにも考えたくないときの暇つぶしに最適な、頭からっぽで読めて、なおかつ笑えるエッセイ。
南の島にバカンスに行って、やしの木陰でハンモックに揺られながら読みたい1冊。
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~内容(「BOOK」データベースより)~
「私は大人だ」今、この日本でいったい何人の大人が、そう胸をはって言い切ることができるだろう。大人らしさとかでなくて。しがらみから独立した「大人」という素朴な生き物になること。私がもくろむのはそれだ。話題の劇作家が、「子供失格」だった人から「大人と呼ばれたい」人々までに贈る爆笑エッセイ。
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松尾氏の初 本だけあって、まだキラッと光る部分は少ないかも。最初のとこなんかガチガチだ。でも笑えます。